毛嚢炎(毛包炎)の症状・原因・治し方|自宅でできる正しい対処法

ポツンとできた赤いできもの。「ニキビかな?」と思ったら、実は毛嚢炎(もうのうえん)かもしれません。毛嚢炎は、毛穴の奥にある毛根を包む「毛包(毛嚢)」が細菌感染などを起こして炎症を起こす皮膚の病気です。

特にカミソリでの自己処理後や、汗をかきやすい時期に発生しやすく、誰にでも起こりうる身近な皮膚トラブルと言えるでしょう。しかし、正しい知識がないまま放置したり、間違ったケアをしたりすると、悪化して跡に残ってしまうこともあります。

この記事では、毛嚢炎の基本的な知識から、原因、症状、正しい治し方、市販薬の選び方、そして効果的な予防策まで、網羅的に解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、適切なケアでつらい症状を改善し、健やかな肌を取り戻しましょう。

まずは、毛嚢炎がどのようなものなのか、基本的な情報から確認していきましょう。

毛嚢炎(毛包炎)の定義とメカニズム

毛嚢炎とは、毛穴の奥で毛根を包んでいる「毛包(もうほう)」または「毛嚢(もうのう)」という部分に、細菌が入り込んで炎症を起こした状態を指します。医学的には毛包炎(もうほうえん)と呼ばれるのが一般的で、基本的には同じものを指します。

私たちの皮膚には、目に見えない多くの常在菌が存在しています。通常はこれらの菌が悪さをすることはありません。しかし、カミソリによる傷や、肌のバリア機能の低下などによって毛穴の入り口が傷つくと、そこから細菌が侵入し、毛包内部で増殖して炎症を引き起こします。これが毛嚢炎の基本的なメカニズムです。

毛嚢炎の初期症状と進行

毛嚢炎の典型的な症状は、毛穴を中心とした赤いブツブツです。
初期症状としては、以下のような特徴が見られます。

  • 毛穴に一致した、小さな赤い発疹
  • 軽いかゆみや痛み、熱感を伴うことがある

症状が進行すると、炎症が強くなり、ブツブツの中心に膿(うみ)が溜まって白や黄色に見えるようになります。これを膿疱(のうほう)と呼びます。多くは数個が散らばって発生しますが、広範囲に及ぶこともあります。

毛嚢炎とニキビの違い

毛嚢炎は見た目がニキビと似ているため、しばしば混同されます。しかし、原因や発生メカニズムが異なるため、対処法も変わってきます。

項目毛嚢炎(毛包炎)ニキビ(尋常性ざ瘡)
主な原因菌黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などアクネ菌
発生のきっかけ毛穴の傷、肌のバリア機能低下、蒸れ毛穴の詰まり、皮脂の過剰分泌
できやすい場所毛がある場所ならどこでも(顔、頭皮、首、背中、VIO、すねなど)皮脂腺が多い場所(顔、胸、背中)
見た目の特徴毛穴を中心に、赤く盛り上がる。中心に膿疱が見られることが多い。赤ニキビ、白ニキビ、黒ニキビなど多様。面皰(コメド)がある。
痛み・かゆみ軽い痛みやかゆみを伴うことがある炎症が強いと痛みを伴う

大きな違いは、ニキビが「毛穴の詰まり」から始まるのに対し、毛嚢炎は「毛穴への細菌感染」が主な原因である点です。

毛嚢炎の主な原因と感染経路

なぜ毛嚢炎は起きてしまうのでしょうか。主な原因は、細菌感染、物理的刺激、そして免疫力の低下です。

細菌感染(ブドウ球菌など)

毛嚢炎の最も一般的な原因菌は黄色ブドウ球菌です。これは私たちの皮膚や鼻の中に普段から存在する常在菌ですが、肌のバリア機能が弱まると毛穴から侵入し、炎症を引き起こします。

その他、プールや温泉などで感染することがある緑膿菌や、カビの一種であるマラセチア菌が原因となることもあります。

物理的刺激(脱毛・剃毛など)

ムダ毛の自己処理は、毛嚢炎の大きな誘因となります。

  • カミソリでの剃毛: カミソリの刃が肌表面の角質層を傷つけ、そこから細菌が侵入しやすくなります。
  • 毛抜きでの脱毛: 毛を無理に引き抜くと、毛穴やその周辺の組織がダメージを受け、炎症を起こしやすくなります。
  • 脱毛サロン・クリニックでの施術: レーザーや光脱毛の後、肌は一時的にデリケートな状態になります。熱によるダメージやバリア機能の低下で、毛嚢炎を発症することがあります。

生活習慣やストレスによる影響

皮膚の健康は、体全体の健康状態と密接に関わっています。

  • 不規則な生活・睡眠不足: 免疫力の低下を招き、細菌に対する抵抗力を弱めます。
  • ストレス: ストレスはホルモンバランスの乱れや免疫力の低下につながり、皮膚のバリア機能を弱める原因となります。
  • 皮脂や汗: 汗や皮脂で皮膚が蒸れた状態が続くと、細菌が繁殖しやすくなります。通気性の悪い衣類や、汗をかいたまま放置することもリスクを高めます。

毛嚢炎ができやすい部位と特徴

毛嚢炎は毛のある場所ならどこにでもできる可能性がありますが、特にできやすい部位があります。

顔や頭部の毛嚢炎

顔や頭皮は皮脂の分泌が活発で、男性の場合は毎日のひげ剃りによる刺激も加わるため、毛嚢炎ができやすい部位です。治りにくく、跡に残りやすい傾向があるため、特に注意が必要です。

陰部や足の毛嚢炎

デリケートゾーン(VIO)や太ももの付け根、お尻、すねなどは、下着や衣類による摩擦や蒸れが起こりやすい部位です。自己処理をする機会も多く、毛嚢炎のリスクが高いと言えます。

毛嚢炎の画像(コンテンツ内で視覚的に解説)

毛嚢炎は、一般的に「毛穴を中心とした直径1〜5mmほどの赤い丘疹(ブツブツ)」として現れます。進行すると、その「中心に針の頭くらいの大きさの膿疱(白〜黄色の膿)」が見えるようになります。ニキビのように芯(コメド)はなく、比較的浅いのが特徴です。

※実際の画像は皮膚科医のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。

毛嚢炎は放置していれば治る?治療の目安

できてしまった毛嚢炎、自然に治るのを待っても良いのでしょうか。

自然治癒の可能性と期間

軽度の毛嚢炎であれば、皮膚を清潔に保ち、刺激を避けることで、数日〜1週間程度で自然に治癒することも少なくありません。体の免疫機能が細菌の増殖を抑え、炎症が自然と鎮静化します。

放置が危険なケース

一方で、以下のような場合は放置せず、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。

  • 1週間以上経っても改善しない、または悪化している
  • 痛み、赤み、腫れ、熱感が強い
  • 広範囲に広がっている、数が多い
  • 発熱や倦怠感など、全身の症状を伴う
  • 何度も同じ場所に繰り返す

放置すると、炎症が毛穴のさらに深くまで進行し、「せつ」や「よう」といった重症な状態に発展したり、色素沈着やクレーターのような跡が残ったりするリスクがあります。

毛嚢炎の基本的な治し方と対処法

毛嚢炎ができてしまったら、悪化させないための正しい対処が重要です。

自宅でできるセルフケア

まずは、自宅でできる基本的なケアを徹底しましょう。

  • 清潔に保つ: 患部を刺激の少ない石鹸で優しく洗い、清潔なタオルで軽く押さえるように水分を拭き取ります。ゴシゴシ洗いは禁物です。
  • 刺激を避ける: 患部を掻いたり、触ったりしないようにしましょう。衣類は締め付けの少ない、通気性の良い綿素材などがおすすめです。
  • 剃毛・脱毛の一時中止: 毛嚢炎が治るまでは、原因となりうるカミソリでの処理や毛抜きでの脱毛は休みましょう。

膿を出すのはNG?正しい対処法

膿が溜まっていると、つい指やピンセットで潰して出したくなりますが、自分で膿を出すのは絶対にやめてください。

注意:
無理に潰すと、細菌が周囲の組織に広がり、炎症が悪化する可能性があります。また、雑菌が入って二次感染を起こしたり、皮膚を深く傷つけて跡が残る原因になったりします。

膿が気になる場合は、自然に破れるのを待つか、皮膚科で適切な処置(切開排膿)を受けてください。

毛嚢炎に効く市販薬の選び方とおすすめ

軽度の毛嚢炎であれば、市販薬でのセルフケアも選択肢の一つです。

市販薬の種類と成分

毛嚢炎に効果が期待できる市販薬には、主に抗生物質(抗菌薬)抗炎症成分が含まれています。

  • 抗生物質配合の軟膏: 原因菌であるブドウ球菌などに有効な成分(例:クロラムフェニコール、フラジオマイシン硫酸塩など)が含まれています。化膿性の皮膚疾患に効果を示します。
  • 抗炎症成分配合のクリーム: 赤みや炎症を抑える成分が含まれていますが、ステロイド成分を含むものは自己判断での使用に注意が必要です。細菌感染を悪化させる可能性があるため、毛嚢炎への使用は薬剤師や登録販売者に相談しましょう。

市販薬を数日間使用しても改善が見られない場合は、使用を中止して皮膚科を受診してください。

部位別(顔・陰部など)の選び方

  • 顔: 皮膚が薄くデリケートなため、刺激の少ない軟膏タイプや、べたつきの少ないローションタイプが適しています。
  • 体・陰部: 広い範囲に塗りやすい軟膏やクリームがおすすめです。陰部などの粘膜に近い部分は、刺激に特に注意し、使用可能な製品か確認しましょう。

医療機関での毛嚢炎治療

セルフケアや市販薬で改善しない場合や、症状が重い場合は、専門医による治療が必要です。

皮膚科受診の目安

前述の「放置が危険なケース」に当てはまる場合は、迷わず皮膚科を受診しましょう。特に、痛みや腫れが強い、熱を持っている、範囲が広いといった症状は、悪化のサインです。

病院での治療法(抗菌薬・切開など)

皮膚科では、症状の重さや原因菌に応じて、以下のような治療が行われます。

  • 外用薬(塗り薬): 抗菌薬の塗り薬が処方されるのが一般的です。原因菌に合わせた適切な薬が選択されます。
  • 内服薬(飲み薬): 症状が広範囲に及んでいたり、炎症が強かったりする場合には、抗菌薬の飲み薬が処方されます。
  • 切開排膿: 膿が多く溜まって腫れや痛みが強い場合、局所麻酔をして小さく切開し、膿を排出する処置が行われることがあります。

医師の指示に従い、処方された薬は最後まで使い切ることが大切です。

毛嚢炎を早く治す生活習慣と予防策

毛嚢炎の治療と同時に、再発させないための予防策も重要です。日々の生活習慣を見直してみましょう。

清潔な肌を保つ

汗をかいたらこまめに拭き取る、またはシャワーを浴びる習慣をつけましょう。寝具やタオルも常に清潔なものを使用することが大切です。

摩擦や刺激を避ける

  • ムダ毛処理の見直し:
    • 清潔なカミソリを使用し、シェービングジェルなどで肌を保護する。
    • 毛の流れに沿って優しく剃る。
    • 処理後は保湿剤でしっかりケアする。
    • 電気シェーバーは肌への負担が比較的少ないためおすすめです。
  • 衣類: 肌に優しい素材を選び、体を締め付けるデザインは避けましょう。

規則正しい生活と食生活

  • バランスの取れた食事: ビタミン類(特にビタミンA, B群, C, E)は皮膚の健康維持に役立ちます。皮脂の分泌を増やす脂っこいものや糖質の多い食事は控えめに。
  • 十分な睡眠: 睡眠中に肌のターンオーバーは促進されます。質の良い睡眠を心がけましょう。
  • ストレス解消: 適度な運動や趣味の時間を作り、ストレスを溜め込まない工夫も大切です。

毛嚢炎が繰り返す・悪化する「せつ」「よう」とは?

毛嚢炎を甘く見てはいけません。放置したり、不適切な処置をしたりすると、より重症な皮膚疾患に発展することがあります。

「せつ」と「よう」の症状と危険性

  • せつ(おでき): 毛嚢炎の炎症が毛包の深部から周囲の組織にまで広がった状態です。赤く硬く腫れあがり、強い痛みを伴います。中心に膿栓(膿の出口)ができます。
  • よう: 隣接する複数の毛包が同時に炎症を起こし、「せつ」がいくつも集まって融合した状態です。皮膚の深い部分で化膿し、発熱や悪寒、倦怠感といった全身症状を伴うことが多く、入院治療が必要になることもあります。

これらの状態になった場合は、セルフケアは不可能です。直ちに皮膚科を受診してください。

繰り返す毛嚢炎の原因と対処法

何度も同じ場所に毛嚢炎ができてしまう場合、以下のような原因が考えられます。

  • 継続的な物理的刺激: 毎日のひげ剃りや、衣類の摩擦など。
  • 肌のバリア機能の慢性的な低下: 乾燥肌、アトピー性皮膚炎など。
  • 基礎疾患の影響: 糖尿病など、免疫力が低下する病気が隠れている可能性。
  • 不適切なスキンケア: 殺菌力の強すぎる洗浄料の使用など。

繰り返す場合は、自己判断で対処を続けるのではなく、一度皮膚科医に相談し、根本的な原因を探ることが解決への近道です。

毛嚢炎に関するよくある質問(Q&A)

最後に、毛嚢炎に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 毛嚢炎はストレスが原因ですか?

A. ストレスが直接的な原因ではありませんが、大きな誘因の一つです。ストレスはホルモンバランスを乱し、免疫力を低下させます。その結果、皮膚のバリア機能が弱まり、普段なら問題にならない常在菌にも感染しやすくなるため、毛嚢炎が発症・悪化しやすくなります。

Q. 毛嚢炎は痛いですか?

A. 症状の程度によります。ごく初期の軽いものであれば、痛みはほとんどないか、あっても軽微です。しかし、炎症が強くなったり、膿が溜まったりすると、ズキズキとした痛みを伴うようになります。さらに悪化して「せつ」になると、強い痛みを伴います。

Q. 脱毛後の毛嚢炎は?

A. レーザー脱毛や光脱毛の施術後は、熱エネルギーによって毛包周辺が軽い炎症を起こし、皮膚のバリア機能が一時的に低下します。このデリケートな状態の毛穴に細菌が入り込むことで、毛嚢炎が起こることがあります。多くのクリニックやサロンでは、施術後の保湿や薬の塗布といったケアを行っていますが、それでも症状が出た場合は、施術を受けた施設に速やかに相談しましょう。


本記事は、毛嚢炎に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療を代替するものではありません。皮膚に異常を感じた場合は、自己判断せず、必ず専門の医療機関(皮膚科)を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年東京逓信病院勤務
  • 2012年東京警察病院勤務
  • 2012年東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年東京逓信病院勤務
  • 2013年独立行政法人労働者健康安全機構横浜労災病院勤務
  • 2015年国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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