はじめに
皮膚にできる「できもの」は、誰もが一度は経験するものです。小さなにきびから大きなしこりまで、その種類や原因は実に様々で、中には注意が必要なものも存在します。多くの方が「これは何だろう?」「病院に行くべきなのか?」と不安を感じることがあるでしょう。
本記事では、専門医の視点から、皮膚にできる様々な「できもの」について、その種類、特徴、原因、そして適切な対処法を詳しく解説いたします。正しい知識を身につけることで、不要な心配を減らし、必要な時には適切なタイミングで医療機関を受診していただけるよう、分かりやすくご説明します。

皮膚のできものとは
皮膚のできものとは、皮膚の表面や内部に生じる腫瘤や隆起のことを指します。医学的には「皮膚腫瘍」「皮膚病変」と呼ばれることもあります。これらは大きく以下のように分類されます:
分類の基本
1. 良性腫瘍
- 生命に危険がなく、転移しないもの
- 成長が遅く、境界が明瞭なことが多い
2. 悪性腫瘍
- がんと呼ばれるもの
- 転移の可能性があり、早期治療が重要
3. 炎症性病変
- 炎症により生じるもの
- 感染や刺激が原因となることが多い
4. 先天性病変
- 生まれつき存在するもの
- ほくろや血管腫など
できものの発生頻度
皮膚のできものは非常に一般的で、成人の約8割が何らかの皮膚のできものを持っているとされています。その中でも特に頻度が高いのは:
- ほくろ(色素性母斑):ほぼ全ての成人に存在
- 脂漏性角化症(老人性いぼ):40歳以上の約9割
- 脂肪腫:成人の約1-2%
- 粉瘤:生涯有病率約5%
良性のできもの
良性のできものは、生命に危険はありませんが、美容上の問題や日常生活での不便さから治療を希望される方も多くいらっしゃいます。
1. 粉瘤(アテローム)
特徴 粉瘤は皮膚の下にできる袋状の構造物で、内部には角質や皮脂などの老廃物が蓄積します。触ると弾力性があり、中央に小さな開口部(へそ)が見えることがあります。
好発部位
- 顔面(特に頬、額)
- 首
- 背中
- 臀部
症状
- 通常は無痛性
- 細菌感染を起こすと赤く腫れ、痛みを伴う
- 悪臭のある内容物が排出されることがある
治療法 手術による完全摘出が基本です。内容物だけを排出しても再発するため、袋ごと取り除く必要があります。
2. 脂肪腫
特徴 皮下脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍です。柔らかく、可動性があり、通常は痛みを伴いません。
好発部位
- 肩
- 背中
- 首
- 腕
症状
- 無痛性の柔らかいしこり
- 徐々に大きくなることがある
- 表面の皮膚は正常
治療法 美容上の問題や大きくなって不便な場合は手術による摘出を行います。
3. 皮膚線維腫(デルマトファイブローマ)
特徴 線維性結合組織の増殖による小さな硬いしこりです。褐色から黒褐色の色調を示すことが多く、表面がやや隆起します。
好発部位
- 下肢(特にすね)
- 腕
症状
- 硬い小結節
- 軽度の色素沈着
- 圧迫すると中央がくぼむ(dimple sign)
治療法 美容上気になる場合は手術による摘出や液体窒素による冷凍療法を行います。
4. 脂漏性角化症(老人性いぼ)
特徴 加齢とともに生じる良性の角化性病変です。表面がざらざらしており、色調は淡褐色から黒褐色まで様々です。
好発部位
- 顔面
- 頭部
- 体幹
- 手の甲
症状
- 表面がざらざらした隆起性病変
- 徐々に大きくなり、厚くなる
- 複数個できることが多い
治療法 液体窒素による冷凍療法、電気焼灼、レーザー治療などがあります。
5. 血管腫
特徴 血管の異常増殖によって生じる良性腫瘍です。生まれつきのもの(先天性)と後天性のものがあります。
種類
- 苺状血管腫:乳児期に出現し、自然に消退することが多い
- 海綿状血管腫:深部にある血管の拡張
- 毛細血管拡張症:表在性の細い血管の拡張
治療法 種類や大きさによって異なりますが、レーザー治療や手術が行われます。
悪性のできもの
悪性のできものは早期発見・早期治療が重要です。以下のような特徴がある場合は、迷わず皮膚科専門医を受診してください。
1. 基底細胞癌
特徴 最も頻度の高い皮膚がんで、主に紫外線が原因となります。転移することは稀ですが、放置すると周囲組織を破壊します。
好発部位
- 顔面(特に鼻、頬)
- 首
- 手の甲
症状
- 真珠様光沢のある結節
- 中央に潰瘍を形成することがある
- 毛細血管の拡張が見られる
- 徐々に大きくなる
治療法 手術による完全摘出が第一選択です。放射線療法や薬物療法が行われることもあります。
2. 扁平上皮癌
特徴 皮膚の扁平上皮細胞から発生するがんで、転移の可能性があります。日光角化症から発展することが多いです。
好発部位
- 顔面
- 首
- 手の甲
- 下唇
症状
- 硬い結節性病変
- 表面に潰瘍や角化を伴う
- 急速に成長することがある
- 出血しやすい
治療法 手術による広範囲切除が基本です。リンパ節転移の検索も重要です。
3. 悪性黒色腫(メラノーマ)
特徴 メラニン色素を産生する細胞(メラノサイト)から発生するがんで、転移しやすく予後が悪いことで知られています。
好発部位
- 足底
- 爪
- 四肢
- 体幹
症状(ABCDEルール)
- Asymmetry(非対称性):左右が非対称
- Border(境界):境界が不整
- Color(色調):色調が不均一
- Diameter(直径):直径6mm以上
- Evolving(変化):形や色の変化
治療法 早期の広範囲切除が重要です。進行例では免疫療法や分子標的治療が行われます。
炎症性のできもの
炎症によって生じるできものは、原因を取り除くことで改善することが多いです。
1. にきび(尋常性痤瘡)
特徴 毛穴の詰まりと細菌感染によって生じる炎症性疾患です。
種類
- 白にきび:毛穴が詰まった状態
- 黒にきび:毛穴の開口部が酸化して黒くなった状態
- 赤にきび:炎症を起こした状態
- 嚢腫性にきび:深部に膿がたまった状態
治療法 外用薬(レチノイド、抗菌薬)、内服薬(抗菌薬、ホルモン剤)、ケミカルピーリングなどがあります。
2. 毛嚢炎
特徴 毛穴に細菌が感染して炎症を起こした状態です。
原因
- 剃毛による外傷
- 不潔な環境
- 免疫力の低下
症状
- 毛穴を中心とした赤い丘疹
- 膿を持つことがある
- 軽度の痛みやかゆみ
治療法 抗菌薬の外用や内服を行います。
3. 蜂窩織炎
特徴 皮下組織に細菌が感染して広範囲に炎症を起こした状態です。
症状
- 広範囲の発赤、腫脹
- 熱感、痛み
- 発熱を伴うことがある
治療法 抗菌薬の点滴治療が必要な場合があります。
感染症によるできもの
1. ウイルス性いぼ(尋常性疣贅)
特徴 ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じる良性腫瘍です。
好発部位
- 手指
- 足底
- 顔面
症状
- 表面がざらざらした硬い結節
- 足底では歩行時の痛みを伴うことがある
治療法 液体窒素による冷凍療法、電気焼灼、免疫賦活剤の外用などがあります。
2. 水いぼ(伝染性軟属腫)
特徴 ポックスウイルスの感染によって生じる良性腫瘍で、主に小児に見られます。
症状
- 光沢のある小さな隆起
- 中央にくぼみがある
- 複数個できることが多い
治療法 自然治癒することが多いですが、摘除や冷凍療法を行うこともあります。
3. 帯状疱疹
特徴 水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって生じる感染症です。
症状
- 神経支配領域に沿った水疱
- 強い痛みを伴う
- 発疹の前に痛みが先行することが多い
治療法 抗ウイルス薬の内服と疼痛管理が重要です。
注意が必要なできものの見分け方
以下のような変化が見られる場合は、悪性の可能性を考慮し、早急に皮膚科専門医を受診してください。
危険信号(Red Flag Signs)
形状の変化
- 急速な増大
- 境界の不整化
- 非対称性の出現
色調の変化
- 色調の不均一化
- 急激な色の変化
- 黒色化
表面の変化
- 潰瘍の形成
- 出血
- 痂皮の形成
症状の変化
- 痛みの出現
- かゆみの増強
- 感覚の異常
ABCDEルールの詳細
悪性黒色腫の早期発見に有用なABCDEルールについて詳しく説明します:
A(Asymmetry:非対称性) 正常なほくろは左右対称ですが、悪性黒色腫では非対称になることが多いです。
B(Border:境界) 正常なほくろの境界は明瞭ですが、悪性黒色腫では境界が不整になります。
C(Color:色調) 正常なほくろは均一な色調ですが、悪性黒色腫では色調が不均一になります。
D(Diameter:直径) 直径6mm以上の色素性病変は注意が必要です。
E(Evolving:変化) 形、大きさ、色、厚さなどの変化がある場合は要注意です。
診断と治療
診断方法
視診 皮膚科専門医による詳細な観察が基本です。
ダーモスコピー 特殊な拡大鏡を用いて、肉眼では見えない構造を観察します。
生検 組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べます。
- 部分生検:病変の一部を採取
- 全切除生検:病変全体を切除
画像検査 必要に応じてCTやMRIなどの画像検査を行います。
治療選択肢
手術療法
- 単純切除:良性腫瘍の標準的治療
- 広範囲切除:悪性腫瘍に対する治療
- モース手術:顔面の皮膚がんに対する精密な手術
非手術療法
- 冷凍療法:液体窒素による治療
- 電気焼灼術:電気メスによる治療
- レーザー治療:各種レーザーによる治療
- 薬物療法:外用薬や内服薬による治療
治療後の経過観察
良性腫瘍 完全に摘出された場合、再発はほとんどありません。
悪性腫瘍 定期的な経過観察が重要です:
- 基底細胞癌:年1-2回の経過観察
- 扁平上皮癌:3-6ヶ月ごとの経過観察
- 悪性黒色腫:3ヶ月ごとの厳重な経過観察
予防方法
紫外線対策
皮膚がんの最大の原因である紫外線から肌を守ることが重要です。
日常的な対策
- 日焼け止めの使用(SPF30以上、PA+++以上)
- 帽子や長袖の着用
- 日陰の利用
- 午前10時から午後4時の外出を避ける
日焼け止めの正しい使用法
- 十分な量を使用(顔全体で真珠2個分程度)
- 2-3時間ごとの塗り直し
- 耳、首の後ろ、足の甲など忘れやすい部位も念入りに
スキンケア
清潔の維持
- 適切な洗顔・入浴
- 清潔なタオルの使用
- 共用の避ける(タオル、カミソリなど)
保湿ケア
- 入浴後の保湿剤使用
- 乾燥する季節の念入りなケア
- 適切な保湿剤の選択
生活習慣の改善
免疫力の維持
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
- 適度な運動
- ストレス管理
定期的な自己チェック 月1回程度、全身の皮膚をチェックし、新しいできものや変化がないか確認しましょう。

よくある質問
A1: 必ずしもそうではありませんが、急激な変化は注意が必要です。特に成人になってから新しくできたほくろや、形、色、大きさに変化があるほくろは皮膚科での診察を受けることをお勧めします。
A2: 自己処理は感染や瘢痕のリスクがあるため、お勧めできません。また、悪性の場合は適切な治療が遅れる可能性があります。専門医による適切な診断と治療を受けてください。
A3: 一部のできものには遺伝的要因があります。家族歴がある場合は、定期的な皮膚のチェックを心がけ、変化があれば早めに受診してください。
A4: 医学的に治療が必要と判断される場合は保険適用となります。美容目的の場合は自費診療となることがあります。診察時に医師にご相談ください。
まとめ
皮膚のできものは非常に多様で、良性から悪性まで様々な種類があります。多くは良性で心配のないものですが、中には早期の治療が必要なものも存在します。
重要なポイント
- 変化に注意する: 大きさ、形、色の変化は重要な危険信号です。
- 早期受診を心がける: 気になる症状があれば、早めに皮膚科専門医を受診しましょう。
- 予防を実践する: 紫外線対策や適切なスキンケアで予防できるものもあります。
- 定期的なチェックを行う: 月1回程度の自己チェックで早期発見につながります。
- 専門医の判断を仰ぐ: 自己判断せず、専門医による適切な診断を受けることが大切です。
皮膚のできものについて不安を感じた際は、一人で悩まず、お気軽にアイシークリニック上野院までご相談ください。経験豊富な専門医が、丁寧な診察と適切な治療をご提供いたします。
参考文献
- 日本皮膚科学会. 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン. 日本皮膚科学会雑誌. 2019年版.
- 厚生労働省. がん統計. がん情報サービス. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
- 日本皮膚科学会. 尋常性痤瘡治療ガイドライン. 日本皮膚科学会雑誌. 2017年版.
- 国立がん研究センター. がん情報サービス「皮膚がん」. https://ganjoho.jp/public/cancer/skin/index.html
- 日本皮膚科学会. メラノーマ診療ガイドライン. 日本皮膚科学会雑誌. 2019年版.
- 日本癌学会. 日本人のためのがん予防法. https://www.jca.gr.jp/public/prevent.html
- 環境省. 紫外線環境保健マニュアル. https://www.env.go.jp/chemi/matsigaisen2015/
- 日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A. https://www.dermatol.or.jp/qa/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務