首のしこり:良性と悪性の見分け方 – 正しい知識で適切な判断を

はじめに

首にしこりを見つけた時、多くの方が「もしかして悪いものでは…」と不安に感じることでしょう。確かに首のしこりは様々な原因で生じ、その中には良性のものもあれば、注意が必要な悪性のものも存在します。

しかし、適切な知識を持つことで、冷静に対処することができるようになります。本記事では、アイシークリニック上野院の医師監修のもと、首のしこりの良性と悪性を見分けるポイントや、適切な対処法について詳しく解説いたします。

重要な注意:本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、具体的な診断や治療に関する助言ではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。


1. 首のしこりとは

1-1 首のしこりの定義

首のしこり(頸部腫瘤)とは、首の部分に触れることができる異常な隆起や腫れのことを指します。医学的には、正常な組織構造とは異なる塊状の病変として定義されます。

これらのしこりは、皮下組織、筋肉、リンパ節、甲状腺、唾液腺など、首の様々な部位に発生する可能性があります。

1-2 首のしこりの頻度と重要性

首のしこりは比較的よく見られる症状で、多くの場合は良性(非がん性)です。しかし、中には悪性腫瘍(がん)や重篤な疾患が原因となることもあるため、正確な診断と適切な治療が重要になります。

統計的に見ると、成人の首のしこりの約80-90%は良性とされていますが、年齢や症状の特徴によってその割合は変わります。特に40歳以上の方や、特定の症状を伴う場合は、より注意深い検査が必要とされます。

1-3 首の解剖学的構造

首のしこりを理解するためには、首の基本的な構造を知ることが重要です。

主要な構造物:

  • リンパ節:感染防御の役割を担う
  • 甲状腺:新陳代謝をコントロールするホルモンを分泌
  • 唾液腺:唾液を分泌する腺組織
  • 筋肉:首の動きを支える筋組織
  • 血管:血液の流れを担う
  • 神経:感覚や運動を司る
  • 皮下組織:皮膚の下の脂肪組織や結合組織

これらの構造のどこからでもしこりが発生する可能性があり、発生部位によって考えられる疾患が異なります。


2. 良性のしこりの特徴

2-1 良性しこりの一般的特徴

良性のしこりには、いくつかの共通した特徴があります。これらの特徴を理解することで、過度な心配を避けることができます。

良性しこりの主な特徴:

  1. 可動性がある
    • 指で押した時に動く
    • 周囲の組織と癒着していない
  2. 表面が滑らか
    • 凸凹がない
    • 境界がはっきりしている
  3. 柔らかい質感
    • 弾力性がある
    • 圧迫すると少し凹む
  4. 痛みを伴うことが多い
    • 特に炎症性の場合
    • 触ると痛みがある
  5. サイズの変化
    • 感染時に大きくなり、治ると小さくなる
    • 急激な成長は稀

2-2 良性しこりの主な原因

2-2-1 リンパ節の腫れ

最も頻繁に見られる首のしこりの原因です。

原因:

  • 風邪やインフルエンザなどの上気道感染
  • 歯科疾患(虫歯、歯周病)
  • 皮膚感染症
  • ウイルス感染(エプスタイン・バーウイルスなど)

特徴:

  • 触ると痛い
  • 温かく感じる
  • 感染が治ると小さくなる
  • 複数個できることが多い

2-2-2 甲状腺良性疾患

甲状腺に発生する良性の病変です。

主な疾患:

  • 甲状腺腺腫:良性の腫瘍
  • 甲状腺のう胞:液体が溜まった袋状の構造
  • 甲状腺炎:甲状腺の炎症

特徴:

  • 嚥下時に上下に動く
  • 甲状腺機能に異常がないことが多い
  • 徐々に大きくなることがある

2-2-3 唾液腺疾患

唾液腺に関連する良性疾患です。

主な疾患:

  • 唾石症:唾液腺内に石ができる疾患
  • シェーグレン症候群:自己免疫疾患
  • 唾液腺炎:唾液腺の炎症

特徴:

  • 食事の時に痛みが増すことがある
  • 口の乾燥を伴うことがある
  • 繰り返し腫れることがある

2-2-4 皮下の良性腫瘍

皮膚や皮下組織に発生する良性腫瘍です。

主な種類:

  • 脂肪腫:脂肪細胞からなる良性腫瘍
  • 表皮のう胞:角質が溜まってできる袋状の構造
  • 線維腫:結合組織からなる良性腫瘍

特徴:

  • 通常痛みがない
  • ゆっくりと成長
  • 皮膚と一緒に動く

2-3 良性しこりの経過

良性のしこりは一般的に以下のような経過をたどります:

  1. 急性期(数日〜1週間)
    • 感染が原因の場合、急速に大きくなる
    • 痛みや発熱を伴うことが多い
  2. 回復期(1-2週間)
    • 適切な治療により症状が改善
    • しこりのサイズが縮小
  3. 慢性期
    • 完全に消失するか、小さく残る
    • 痛みは通常消失

3. 悪性のしこりの特徴

3-1 悪性しこりの一般的特徴

悪性のしこりには、良性とは異なる特徴的な所見があります。これらの特徴を知ることで、早期発見につながります。

悪性しこりの主な特徴:

  1. 硬い質感
    • 石のように硬い
    • 弾力性がない
  2. 固定性
    • 周囲の組織と癒着している
    • 動きが悪い、または全く動かない
  3. 表面が不整
    • 凸凹している
    • 境界が不明瞭
  4. 痛みがないことが多い
    • 初期は無症状
    • 進行すると痛みが出ることもある
  5. 継続的な成長
    • 治療しても小さくならない
    • 徐々に、または急速に大きくなる
  6. 随伴症状
    • 体重減少
    • 発熱
    • 夜間発汗
    • 全身倦怠感

3-2 悪性しこりの主な原因

3-2-1 リンパ系悪性腫瘍

リンパ系に発生するがんです。

主な疾患:

  • 悪性リンパ腫:リンパ球ががん化した疾患
  • 白血病:血液のがん

特徴:

  • 複数のリンパ節が腫れる
  • B症状(発熱、夜間発汗、体重減少)を伴うことがある
  • 痛みがないことが多い

3-2-2 甲状腺がん

甲状腺に発生するがんです。

主な種類:

  • 乳頭がん:最も頻度が高く、予後が良い
  • 濾胞がん:血行性転移しやすい
  • 髄様がん:カルシトニンを産生
  • 未分化がん:予後が悪い

特徴:

  • 硬いしこり
  • 嚥下時に動く
  • 進行すると声がかすれることがある

3-2-3 転移性リンパ節腫大

他の部位のがんが首のリンパ節に転移したものです。

原発巣:

  • 頭頸部がん(口腔、咽頭、喉頭など)
  • 肺がん
  • 乳がん
  • 消化器がん

特徴:

  • 硬く固定されている
  • 急速に大きくなることがある
  • 原発巣の症状を伴うことがある

3-2-4 肉腫

軟部組織や骨に発生する稀ながんです。

特徴:

  • 急速に成長
  • 非常に硬い
  • 大きくなりやすい

3-3 悪性しこりの進行パターン

悪性のしこりは以下のような進行パターンを示すことが多いです:

  1. 初期
    • 小さな無痛性の硬いしこり
    • 症状がほとんどない
  2. 進行期
    • しこりが大きくなる
    • 周囲組織への浸潤
    • 他のリンパ節への転移
  3. 末期
    • 遠隔転移
    • 全身症状の出現
    • 機能障害

4. 良性と悪性の見分け方のポイント

4-1 触診による評価

触診は首のしこりを評価する最初のステップです。以下の点に注意して観察します。

4-1-1 質感(硬さ)の評価

評価方法:

  1. 清潔な手で優しくしこりに触れる
  2. 指の腹を使って圧迫する
  3. 硬さを周囲の正常組織と比較する

判定基準:

  • 柔らかい(良性の可能性が高い)
    • 耳たぶのような柔らかさ
    • 圧迫すると少し凹む
  • 硬い(悪性の可能性を考慮)
    • 石のような硬さ
    • 圧迫しても変形しない

4-1-2 可動性の評価

評価方法:

  1. しこりを指で挟む
  2. 皮膚と一緒に動くか確認
  3. 深部組織に対する動きを確認

判定基準:

  • 可動性あり(良性の可能性が高い)
    • 皮膚と一緒によく動く
    • 深部組織に対しても動く
  • 固定性(悪性の可能性を考慮)
    • 動きが悪い、または全く動かない
    • 周囲組織と癒着している

4-1-3 表面の性状

評価項目:

  • 境界の明瞭さ
  • 表面の滑らかさ
  • 形状の規則性

良性の特徴:

  • 境界がはっきりしている
  • 表面が滑らか
  • 規則的な形状

悪性の特徴:

  • 境界が不明瞭
  • 表面が不整
  • 不規則な形状

4-2 症状による評価

4-2-1 痛みの有無と性質

良性の痛み:

  • 触ると痛い
  • 炎症に伴う痛み
  • 抗炎症薬で改善することが多い

悪性の痛み:

  • 初期は無痛のことが多い
  • 進行すると持続的な痛み
  • 鎮痛薬が効きにくい

4-2-2 成長の速度

良性の成長:

  • ゆっくりとした成長
  • 感染時の一時的な腫大
  • 治療で縮小する

悪性の成長:

  • 継続的な成長
  • 数週間から数ヶ月で明らかに大きくなる
  • 治療しても縮小しない

4-3 随伴症状による評価

4-3-1 局所症状

良性に伴う症状:

  • 局所の発赤や熱感
  • 嚥下時の軽度の違和感
  • 感染に伴う症状

悪性に伴う症状:

  • 声のかすれ(反回神経麻痺)
  • 嚥下困難
  • 呼吸困難
  • 顔面の浮腫

4-3-2 全身症状

悪性を疑う全身症状(B症状):

  • 発熱:38℃以上の原因不明の発熱
  • 夜間発汗:寝汗で着替えが必要
  • 体重減少:6ヶ月間で体重の10%以上の減少
  • 全身倦怠感:異常な疲労感

4-4 年齢による考慮

4-4-1 小児・若年者(0-20歳)

  • 良性の割合が高い
  • 感染性リンパ節腫大が最多
  • 先天性疾患の可能性も考慮

4-4-2 成人(20-40歳)

  • 良性・悪性の鑑別が重要
  • 甲状腺疾患の頻度が高い
  • 自己免疫疾患も考慮

4-4-3 中高年(40歳以上)

  • 悪性の可能性が高くなる
  • より積極的な検査が必要
  • 早期の専門医受診が重要

5. 医療機関での検査方法

5-1 基本的な診察

5-1-1 問診

医師が以下の項目について詳しく聞きます:

症状に関する質問:

  • いつから気づいたか
  • 大きさの変化
  • 痛みの有無と性質
  • その他の症状

既往歴・家族歴:

  • 過去の病気
  • 手術歴
  • 家族のがん歴
  • 内服薬

生活習慣:

  • 喫煙歴
  • 飲酒歴
  • 職業・環境要因

5-1-2 視診・触診

視診のポイント:

  • しこりの位置
  • 皮膚の色調変化
  • 形状・大きさ
  • 対称性

触診のポイント:

  • 硬さ・弾力性
  • 可動性
  • 境界の明瞭さ
  • 圧痛の有無
  • 複数個の有無

5-2 画像検査

5-2-1 超音波検査(エコー)

特徴:

  • 非侵襲的で安全
  • リアルタイムで観察可能
  • 血流の評価も可能

評価項目:

  • 大きさ・形状
  • 内部構造(充実性・のう胞性)
  • 血流パターン
  • 周囲組織との関係

良性の超音波所見:

  • 境界明瞭
  • 内部エコー均一
  • 規則的な形状
  • 血流豊富でない

悪性の超音波所見:

  • 境界不明瞭
  • 内部エコー不均一
  • 不規則な形状
  • 血流豊富

5-2-2 CT検査

適応:

  • 深部の詳細な評価
  • 周囲組織への浸潤の評価
  • 転移の検索

造影剤の使用:

  • より詳細な情報が得られる
  • 血管との関係が明確になる
  • アレルギーの既往がある場合は注意

5-2-3 MRI検査

特徴:

  • 軟部組織のコントラストが良好
  • 放射線被曝がない
  • 多方向からの観察が可能

適応:

  • 軟部組織腫瘍の評価
  • 血管・神経との関係の評価
  • 甲状腺疾患の詳細評価

5-2-4 PET-CT検査

特徴:

  • 代謝活性の評価
  • 全身の転移検索
  • 治療効果の判定

適応:

  • 悪性腫瘍の診断・病期診断
  • 治療後の再発検索
  • 原発不明がんの検索

5-3 病理検査

5-3-1 細胞診(FNA:細針吸引細胞診)

方法:

  1. 細い針でしこりを穿刺
  2. 細胞を吸引・採取
  3. 顕微鏡で細胞を観察

利点:

  • 外来で実施可能
  • 侵襲が少ない
  • 迅速な結果

限界:

  • 組織構造の評価ができない
  • 一部の腫瘍では診断困難
  • 十分な細胞が採取できない場合がある

5-3-2 組織生検

適応:

  • 細胞診で診断がつかない場合
  • より確実な診断が必要な場合
  • 治療方針の決定に必要な場合

種類:

  • 針生検:太い針で組織を採取
  • 外科的生検:手術で組織を採取

5-4 血液検査

5-4-1 一般検査

基本項目:

  • 血球数(白血球、赤血球、血小板)
  • 炎症反応(CRP、ESR)
  • 肝機能・腎機能
  • 電解質

5-4-2 腫瘍マーカー

甲状腺関連:

  • サイログロブリン:甲状腺がんの指標
  • カルシトニン:髄様がんの指標
  • TSH、T3、T4:甲状腺機能

その他の腫瘍マーカー:

  • CEA:消化器がんなど
  • SCC:扁平上皮がん
  • sIL-2R:悪性リンパ腫

5-4-3 感染症検査

  • 細菌培養:細菌感染の確認
  • ウイルス抗体:ウイルス感染の確認
  • 結核菌検査:結核の除外

6. いつ医療機関を受診すべきか

6-1 緊急受診が必要な場合

以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください:

6-1-1 呼吸困難

症状:

  • 息苦しさ
  • 呼吸回数の増加
  • チアノーゼ(皮膚や唇が青紫色になる)

原因:

  • 大きなしこりによる気道圧迫
  • アレルギー反応
  • 感染による急速な腫大

6-1-2 嚥下困難

症状:

  • 飲み込みにくい
  • 食事がつかえる感じ
  • 唾液も飲み込めない

原因:

  • 食道の圧迫
  • 炎症による腫れ

6-1-3 高熱

症状:

  • 38.5℃以上の発熱
  • 悪寒・戦慄
  • 意識レベルの低下

原因:

  • 重篤な感染症
  • 壊死性筋膜炎
  • 敗血症

6-2 早期受診が推奨される場合

以下の条件に当てはまる場合は、数日以内に医療機関を受診することをお勧めします:

6-2-1 しこりの特徴

  • 硬くて動かない
  • 境界が不明瞭
  • 表面が凸凹している
  • 急速に大きくなっている
  • 複数個ある
  • 3cm以上の大きさ

6-2-2 随伴症状

  • 原因不明の発熱が続く
  • 体重減少
  • 夜間発汗
  • 全身倦怠感
  • 声のかすれ
  • 飲み込みにくさ

6-2-3 患者背景

  • 40歳以上
  • 喫煙歴がある
  • がんの家族歴がある
  • 放射線被曝歴がある
  • 免疫抑制状態

6-3 経過観察でよい場合

以下の条件を満たす場合は、経過観察を行い、変化があれば受診を検討してください:

6-3-1 しこりの特徴

  • 柔らかくて動く
  • 境界が明瞭
  • 表面が滑らか
  • 痛みがある
  • 感染に伴って出現

6-3-2 経過

  • 風邪の後に出現
  • 徐々に小さくなっている
  • 症状が改善傾向

6-3-3 経過観察の期間

  • 2-3週間程度を目安とする
  • 改善しない場合や悪化する場合は受診
  • 新たな症状が出現した場合は受診

6-4 定期的な検査が必要な場合

6-4-1 良性疾患でも経過観察が必要

  • 甲状腺結節
  • 唾液腺腫瘍
  • 大きな脂肪腫

6-4-2 検査の間隔

  • 6ヶ月~1年ごとの定期検査
  • サイズや性状の変化をチェック
  • 新たな症状の出現を評価

7. 予防と早期発見の重要性

7-1 予防可能な原因への対策

7-1-1 感染症の予防

基本的な感染対策:

  • 手洗い・うがいの徹底
  • マスクの着用(必要時)
  • 十分な睡眠と栄養
  • ストレス管理
  • 適度な運動

歯科疾患の予防:

  • 定期的な歯科検診
  • 適切な口腔ケア
  • 早期治療

7-1-2 生活習慣の改善

禁煙:

  • 頭頸部がんのリスク軽減
  • 免疫機能の改善
  • 創傷治癒の促進

節酒:

  • 適量の飲酒(男性:日本酒2合以下、女性:1合以下)
  • 休肝日の設定

バランスの良い食事:

  • 抗酸化物質の摂取(ビタミンC、E、ベータカロテン)
  • 食物繊維の摂取
  • 加工食品の制限

7-1-3 環境要因への対策

放射線被曝の避ける:

  • 不必要な検査の回避
  • 職業被曝の管理
  • 紫外線対策

化学物質への暴露回避:

  • 適切な保護具の使用
  • 換気の確保
  • 安全データシートの確認

7-2 早期発見のための自己チェック

7-2-1 セルフチェックの方法

頻度:

  • 月1回程度
  • 入浴時など、リラックスした時間
  • 同じ条件で行う(時間、姿勢など)

チェック項目:

  1. 視診
    • 鏡で首の形を確認
    • 左右の対称性をチェック
    • 皮膚の色調や表面の変化を観察
  2. 触診
    • 清潔な手で優しく触れる
    • 系統的に首全体をチェック
    • しこりの有無、大きさ、硬さを確認

触診の順序:

  1. 顎の下(顎下リンパ節)
  2. 首の横(頸部リンパ節)
  3. 鎖骨の上(鎖骨上リンパ節)
  4. のどぼとけの周り(甲状腺)
  5. 耳の前後(耳前・耳後リンパ節)

7-2-2 記録の重要性

記録すべき項目:

  • 発見日時
  • 場所(解剖学的位置)
  • 大きさ(おおよそのサイズ)
  • 硬さ
  • 痛みの有無
  • その他の症状

記録方法:

  • 日記やメモに記載
  • 写真撮影(変化の記録)
  • スマートフォンアプリの活用

7-3 定期検診の重要性

7-3-1 一般的な健康診断

年1回の健康診断で:

  • 基本的な血液検査
  • 胸部X線検査
  • 医師による診察

がん検診:

  • 年齢に応じた検診の受診
  • 家族歴がある場合は早めに開始
  • 症状がなくても定期的に受診

7-3-2 専門医による検診

対象者:

  • 高リスク群(家族歴、喫煙歴など)
  • 過去に甲状腺疾患の既往がある方
  • 放射線被曝歴がある方

検診内容:

  • 超音波検査
  • 触診
  • 必要に応じた血液検査

7-4 早期発見のメリット

7-4-1 治療成績の向上

早期がんの場合:

  • 5年生存率の向上
  • 根治手術の可能性
  • 機能温存の可能性

良性疾患の場合:

  • 合併症の予防
  • QOL(生活の質)の維持
  • 治療期間の短縮

7-4-2 治療選択肢の拡大

早期発見により:

  • 侵襲の少ない治療法の選択
  • 放射線治療などの選択肢
  • 薬物療法の効果的な使用

7-4-3 経済的メリット

  • 治療費の軽減
  • 入院期間の短縮
  • 社会復帰の早期化

8. まとめ

8-1 重要なポイントの再確認

首のしこりについて、本記事で解説した重要なポイントを再度確認しましょう。

8-1-1 良性と悪性の見分け方

良性の特徴(覚えやすいキーワード:「やわらか、いたい、うごく」):

  • やわらかい質感
  • いたい(痛みがある)
  • うごく(可動性がある)
  • 境界が明瞭
  • 感染などで一時的に腫大

悪性の特徴(覚えやすいキーワード:「かたい、いたくない、うごかない」):

  • かたい質感(石のような硬さ)
  • いたくない(初期は無痛)
  • うごかない(固定されている)
  • 境界が不明瞭
  • 継続的に成長

8-1-2 受診のタイミング

すぐに受診が必要:

  • 呼吸困難
  • 嚥下困難
  • 高熱
  • 急速な増大

早期受診が推奨:

  • 40歳以上で新たに出現
  • 硬くて動かない
  • 3cm以上の大きさ
  • B症状(発熱、夜間発汗、体重減少)

経過観察可能:

  • 風邪に伴って出現
  • 柔らかくて痛い
  • 徐々に小さくなる

8-2 自己判断の限界

重要な注意点:

  • 自己診断は危険:医学的知識なしに悪性・良性を判断するのは困難
  • 個人差が大きい:同じ疾患でも症状の現れ方は人それぞれ
  • 早期発見の重要性:症状が軽いうちに専門医を受診することが大切

医師の診察の重要性:

  • 専門的な知識と経験による正確な判断
  • 適切な検査の選択
  • 治療方針の決定

8-3 アイシークリニック上野院での対応

当院では、首のしこりでお悩みの患者様に対して以下のような診療を行っています:

8-3-1 初診での対応

  1. 詳細な問診
    • 症状の経過
    • 既往歴・家族歴
    • 生活習慣
  2. 丁寧な診察
    • 視診・触診
    • 全身の診察
  3. 適切な検査
    • 超音波検査
    • 血液検査
    • 必要に応じてCT・MRI

8-3-2 診断後のサポート

  • わかりやすい説明:専門用語を避けた丁寧な説明
  • 治療選択肢の提示:患者様の希望を尊重した治療計画
  • 継続的なフォロー:定期的な経過観察と相談対応

8-3-3 他科との連携

  • 耳鼻咽喉科
  • 外科
  • 内分泌内科
  • 血液内科
  • 病理診断科

必要に応じて、適切な専門科への紹介を行い、最適な治療を提供いたします。

8-4 最後に

首のしこりを発見した時の不安は、多くの方が経験されることです。しかし、適切な知識を持ち、正しいタイミングで医療機関を受診することで、多くの場合は適切な対応が可能です。

大切なことは:

  • 早めの相談:気になることがあれば躊躇せず相談
  • 定期的なセルフチェック:月1回程度の自己観察
  • 健康的な生活習慣:予防可能な要因への対策
  • 信頼できる医師との関係:継続的な健康管理

アイシークリニック上野院では、皆様の健康をサポートするため、最新の医学的知見に基づいた質の高い医療を提供してまいります。首のしこりについて気になることがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。


参考文献

  1. 日本甲状腺学会:甲状腺疾患診断ガイドライン 2023年版
  2. 日本頭頸部癌学会:頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版
  3. 日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
  4. American Thyroid Association. 2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer. Thyroid. 2016;26(1):1-133.
  5. National Comprehensive Cancer Network. NCCN Guidelines Version 2.2023 Head and Neck Cancers.
  6. Haugen BR, Alexander EK, Bible KC, et al. 2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer. Thyroid. 2016;26(1):1-133.
  7. Leenhardt L, Bernier MO, Boin-Pineau MH, et al. Advances in diagnostic practices affect thyroid cancer incidence in France. Eur J Endocrinol. 2004;150(2):133-139.
  8. 厚生労働省:がん情報サービス がん登録・統計
  9. 日本癌治療学会:癌治療学会診療ガイドライン
  10. World Health Organization: Classification of Tumours of Endocrine Organs. 4th ed. Lyon: IARC Press; 2017.

表1:首のしこりの良性・悪性鑑別ポイント

項目良性悪性
硬さ柔らかい、弾力性あり硬い、石様硬
可動性よく動く動かない、固定
境界明瞭不明瞭
表面滑らか不整、凸凹
痛みあり(特に炎症時)なし(初期)
成長速度ゆっくり、または感染時のみ継続的、急速
年齢若年者に多い中高年に多い

表2:年齢別首のしこりの特徴

年齢層主な原因悪性の頻度注意点
0-20歳感染性リンパ節腫大、先天性疾患5-10%感染源の検索が重要
20-40歳甲状腺疾患、感染性疾患10-20%甲状腺機能検査
40歳以上悪性腫瘍、甲状腺がん50%以上積極的な検査が必要

表3:検査法の比較

検査法利点欠点適応
超音波検査非侵襲、リアルタイム術者依存性初回評価、経過観察
CT検査詳細な解剖情報放射線被曝深部評価、転移検索
MRI検査軟部組織コントラスト良好高コスト、時間要軟部組織腫瘍評価
細胞診外来で可能、侵襲小組織診断困難例あり甲状腺結節、リンパ節
組織生検確定診断可能侵襲大細胞診で診断困難時

図1:首の主要リンパ節の位置

      [耳前LN]   [耳後LN]
          |        |
    [顎下LN]────[上内頸静脈LN]
       |             |
     [オトガイ下LN]  [中内頸静脈LN]
                      |
               [下内頸静脈LN]
                      |
                [鎖骨上LN]

図2:セルフチェックの手順

1. 顎下部:顎の骨の内側を指で押える
2. 頸部側面:首の横を上から下へ順に触る  
3. 鎖骨上:鎖骨の上のくぼみを触る
4. 甲状腺:のどぼとけの周囲を触る
5. 耳周囲:耳の前後を触る

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監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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