頭にできものができると、多くの方が不安を感じるものです。シャンプーの際に手に触れたり、ブラッシング時に痛みを感じたりして初めて気づくことも少なくありません。頭皮は髪の毛に隠れているため、普段は目で確認することが難しく、「これは何だろう?」「病院に行くべき?」と悩まれる方も多いでしょう。
本記事では、専門医として、頭にできる様々なできものの種類、原因、症状の特徴、そして適切な対処法について詳しく解説いたします。「頭のできもの」と一口に言っても、良性のものから注意が必要なものまで実に多様です。正しい知識を身につけることで、適切なタイミングで医療機関を受診し、早期の対処につなげていただければと思います。

頭のできもの:基本的な理解
医学的定義と特徴
頭皮にできる「できもの」とは、医学的には皮膚腫瘍や皮膚病変を指します。これらは皮膚の構造である表皮、真皮、皮下組織のいずれかから発生する細胞の塊や炎症性病変のことです。
頭皮は他の部位と比較して以下のような特徴があります:
皮脂分泌が豊富:頭皮には皮脂腺が密集しており、皮脂の分泌が活発です。この特徴により、皮脂に関連した疾患が発生しやすい環境にあります。
毛包の密度が高い:頭皮には毛包(毛穴)が密集しているため、毛包に関連した炎症やできものが生じやすい部位です。
外部刺激を受けやすい:紫外線、シャンプーや整髪料などの化学物質、物理的な刺激(帽子、櫛など)に日常的にさらされています。
蒸れやすい環境:髪の毛に覆われているため湿度が高く、細菌や真菌が繁殖しやすい環境になりがちです。
これらの特徴により、頭皮は様々なできものが発生しやすい部位といえます。
良性のできもの:よく見られる種類と特徴
1. ニキビ(尋常性ざ瘡)
頭皮にできるニキビは、顔にできるニキビと基本的に同じメカニズムで発生します。
原因:
- 毛穴の詰まり(皮脂や角質の蓄積)
- アクネ菌の増殖
- 皮脂分泌の過剰
- ホルモンバランスの影響
症状の特徴:
- 初期段階では白いぶつぶつ(白ニキビ)
- 炎症が進むと赤く腫れあがる(赤ニキビ)
- 痛みを伴うことがある
- 膿を持つこともある
好発年齢:思春期から青年期に多く見られますが、成人でも発生します。
2. 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)
粉瘤は頭皮によく見られる良性腫瘍の一つです。
原因:
- 毛穴の一部が皮下に落ち込み、袋状の構造を形成
- 袋の中に皮脂や角質などの老廃物が蓄積
症状の特徴:
- 柔らかいしこりとして触れる
- 通常は痛みがない
- 表面に小さな開口部(へそ)が見られることがある
- 大きさは数ミリから数センチまで様々
- 炎症を起こすと赤く腫れて痛みを伴う
進行:時間をかけて徐々に大きくなる傾向があります。細菌感染を起こすと炎症性粉瘤となり、強い痛みと腫れを生じます。
3. 脂漏性皮膚炎
頭皮に最も多く見られる皮膚疾患の一つです。
原因:
- マラセチア菌(真菌)の異常増殖
- 皮脂の過剰分泌
- ストレス、ホルモンバランスの乱れ
- 不適切なヘアケア
症状の特徴:
- 黄色っぽい脂性のフケ
- 頭皮の赤み
- かゆみ
- 炎症が強い場合は小さなできもの状の病変
慢性経過:症状の改善と悪化を繰り返すことが特徴的です。
4. 毛包炎
毛穴に細菌感染が生じて起こる炎症です。
原因:
- 黄色ブドウ球菌などの細菌感染
- 毛穴の損傷(掻きむしり、不適切なシェービングなど)
- 不衛生な環境
症状の特徴:
- 毛穴に一致した赤いできもの
- 痛みを伴う
- 膿を持つことがある
- 複数個できることが多い
5. 老人性血管腫(いちご状血管腫)
血管の増殖による良性腫瘍です。
症状の特徴:
- 鮮やかな赤色の小さなできもの
- 表面が光沢を持つ
- 通常は痛みがない
- 軽い外傷で出血しやすい
好発年齢:中年以降に多く見られます。
6. 軟性線維腫(アクロコルドン、スキンタッグ)
皮膚の柔らかい部分にできる良性腫瘍です。
症状の特徴:
- 肌色から褐色の小さなできもの
- 柔らかく、時に有茎性(茎を持つ)
- 通常は痛みがない
- 摩擦により出血することがある
注意が必要なできもの:悪性の可能性
1. 基底細胞癌
日本で最も多い皮膚がんの一つです。
特徴:
- 黒っぽいほくろ様の病変
- 表面に光沢がある
- 中央部が陥凹(くぼみ)することがある
- 出血を繰り返すことがある
- 転移することは稀だが、局所で深く進行する
好発年齢:60歳以上に多く見られます。
リスク因子:
- 紫外線曝露
- 高齢
- 免疫抑制状態
2. 有棘細胞癌
基底細胞癌に次いで多い皮膚がんです。
特徴:
- 肌色から赤色の病変
- 表面が硬くなる(角化)
- 出血しやすい
- 潰瘍を形成することがある
- 進行すると転移の可能性がある
前駆病変:日光角化症から進行することがあります。
3. 悪性黒色腫(メラノーマ)
最も悪性度の高い皮膚がんです。
特徴:
- 非対称な形
- 境界が不明瞭
- 色むら(黒、茶、赤など)
- 直径6mm以上
- 大きさや形の変化
ABCDE rule:悪性黒色腫の診断指標
- A (Asymmetry):非対称性
- B (Border):境界の不整
- C (Color):色調の多様性
- D (Diameter):直径6mm以上
- E (Evolving):変化
4. 脂腺癌
比較的稀な皮膚がんですが、頭皮にも発生します。
特徴:
- 黄色っぽい病変
- 出血しやすい
- 潰瘍を形成することがある
- 進行が比較的早い
炎症性疾患:感染や刺激による反応
1. 接触性皮膚炎(かぶれ)
シャンプーや染髪剤などによるアレルギー反応です。
原因:
- シャンプー、コンディショナー
- 染髪剤、パーマ液
- 整髪料
- 帽子などの繊維
症状:
- 赤み、腫れ
- かゆみ
- 水疱形成
- びらん
2. 帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化による疾患です。
症状:
- 一側性の水疱
- 強い痛み
- 神経に沿った分布
経過:通常2-3週間で治癒しますが、神経痛が残存することがあります。
3. 蜂窩織炎
皮下組織の細菌感染症です。
症状:
- 広範囲の赤み、腫れ
- 熱感
- 痛み
- 発熱
緊急性:進行が早く、早急な治療が必要です。
受診の目安:いつ病院に行くべきか
緊急性の高い症状
以下の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください:
即座に受診が必要:
- 急速に大きくなるできもの
- 激しい痛み
- 高熱を伴う
- 意識状態の変化
- 広範囲の腫れ
早期受診が望ましい:
- 出血を繰り返す
- 痛みが強い
- 膿が出る
- 悪臭がする
- 2週間以上治らない
定期的な観察が必要な症状
注意深く観察:
- ほくろの変化(形、色、大きさ)
- 新しくできたできもの
- 長期間存在するしこり
適切な受診科
皮膚科:
- 皮膚疾患全般
- できものの診断
- 皮膚がんのスクリーニング
形成外科:
- 良性腫瘍の手術
- 美容的配慮が必要な手術
脳神経外科:
- 頭部外傷後のたんこぶ
- 意識障害を伴う場合
診断方法:医療機関での検査
1. 視診・触診
医師による詳細な観察と触診は診断の基本です。
観察ポイント:
- 大きさ、形状
- 色調
- 表面の性状
- 周囲の皮膚の状態
2. ダーモスコピー
皮膚用拡大鏡による詳細な観察です。
利点:
- 肉眼では見えない構造の観察
- 良性・悪性の鑑別に有用
- 非侵襲的検査
3. 病理組織検査
確定診断のための最も重要な検査です。
生検の種類:
- パンチ生検:円筒状に組織を採取
- 切除生検:病変を完全に切除して検査
- 細胞診:細胞レベルでの検査
4. 画像検査
必要に応じて実施されます。
超音波検査:
- 病変の深達度の評価
- 血流の評価
CT・MRI:
- 深部進展の評価
- 転移の検索
治療法:各種できものへの対応
良性腫瘍の治療
1. 経過観察 症状がなく、美容的問題もない場合は経過観察を選択することがあります。
2. 外科的切除
- 局所麻酔下での日帰り手術
- 病理検査による確定診断
- 美容的配慮
3. レーザー治療
- 血管腫に対するレーザー治療
- ほくろに対するレーザー除去
- 傷跡が小さい
炎症性疾患の治療
1. 外用療法
- ステロイド外用薬
- 抗生物質外用薬
- 抗真菌薬
2. 内服療法
- 抗生物質
- 抗真菌薬
- 抗アレルギー薬
3. 生活指導
- 適切な洗髪方法
- シャンプーの選択
- 刺激の回避
悪性腫瘍の治療
1. 外科的切除
- 十分な安全域を設けた切除
- 病理検査による確定診断
- 必要に応じてリンパ節郭清
2. 放射線治療
- 手術困難な場合
- 術後補助療法
3. 薬物療法
- 進行例に対する化学療法
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
日常生活での予防と対策
適切なヘアケア
シャンプーの選択:
- 頭皮に優しい成分
- 適度な洗浄力
- 個人の肌質に合ったもの
洗髪方法:
- ぬるま湯を使用
- 爪を立てずに指の腹で洗う
- しっかりとすすぐ
- 適度な頻度(毎日〜2日に1回)
生活習慣の改善
栄養バランス:
- ビタミンB群の摂取
- 亜鉛の摂取
- 抗酸化物質の摂取
ストレス管理:
- 十分な睡眠
- 適度な運動
- リラクゼーション
紫外線対策
日常的な対策:
- 帽子の着用
- 日傘の使用
- 紫外線の強い時間帯の外出を控える
製品の活用:
- UVカット効果のある製品
- 頭皮用日焼け止め
早期発見のためのセルフチェック
定期的な観察:
- 月1回程度のセルフチェック
- 家族による確認
- 写真による記録
チェックポイント:
- 新しいできもの
- 既存のほくろの変化
- 出血、痛み、かゆみ

よくある質問と回答
A1: 自分でできものを取ることはお勧めしません。感染のリスクがあり、また悪性の可能性もあるため、必ず医療機関で診察を受けてください。
A2: 良性のほくろが悪性化することは稀ですが、初期の悪性黒色腫をほくろと間違えることがあります。変化があった場合は皮膚科を受診してください。
A3: 頭皮のニキビが治らない場合、適切な診断と治療が必要です。皮膚科で薬物療法を受けることをお勧めします。
A4: シャンプーの成分によるアレルギー反応で接触性皮膚炎を起こすことがあります。新しいシャンプーを使い始めてから症状が出た場合は使用を中止してください。
A5: 一部の皮膚疾患や腫瘍には遺伝的要因がありますが、多くは環境要因や生活習慣によるものです。家族歴がある場合は定期的な検査をお勧めします。
統計データと疫学情報
皮膚がんの統計
日本における皮膚がんの発生状況について、国立がん研究センターのデータを参考にすると、皮膚がん全体の年間新規発症者数は約5,000-7,000人程度とされています。このうち、基底細胞癌が最も多く、次いで有棘細胞癌、悪性黒色腫の順となっています。
年齢分布:
- 皮膚がんは高齢者に多く、60歳以降に急増
- 悪性黒色腫は比較的若い年代でも発症
性別差:
- 基底細胞癌、有棘細胞癌は男性にやや多い
- 悪性黒色腫は女性にやや多い
良性腫瘍の頻度
頭皮の良性腫瘍では、粉瘤が最も多く見られます。皮膚科外来を受診する患者の約10-15%が何らかの皮膚腫瘍を有しており、そのうち粉瘤が大きな割合を占めています。
まとめ
頭にできものができた場合、多くは良性のものですが、中には注意が必要なものも存在します。重要なポイントは以下の通りです:
早期発見・早期治療:
- 定期的なセルフチェック
- 変化があった場合の早期受診
- 専門医による適切な診断
予防的アプローチ:
- 適切なヘアケア
- 紫外線対策
- 健康的な生活習慣
適切な医療機関の選択:
- 皮膚科での専門的診察
- 必要に応じた検査
- エビデンスに基づいた治療
頭皮のできものは、髪の毛に隠れて見えにくい部位だからこそ、注意深い観察と適切な対応が重要です。不安を感じたら一人で悩まず、皮膚科専門医にご相談ください。早期発見・早期治療により、多くの場合良好な結果を得ることができます。
私たちアイシークリニック上野院では、頭皮を含む全身の皮膚疾患に対して、最新の医学的知見に基づいた診療を提供しております。頭のできものでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。経験豊富な専門医が、丁寧な診察と適切な治療をご提供いたします。
参考文献
- 公益社団法人日本皮膚科学会:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン
- 国立がん研究センター:がん統計
- 日本皮膚悪性腫瘍学会:学会ホームページ
- 厚生労働省:がん対策情報
- MSDマニュアル:脂漏性皮膚炎
本記事の内容は医学的情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診して適切な診断・治療を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務