はじめに
顎の下にしこりを見つけたとき、多くの方が「これは何だろう?」「悪い病気なのでは?」と不安になられることでしょう。顎の下のしこりは、日常生活の中で気づくことの多い症状の一つですが、その原因は実に様々です。
アイシークリニック上野院では、これまで多くの患者様の顎の下のしこりについて診察・治療を行ってまいりました。その経験を踏まえ、今回は顎の下のしこりについて、原因から症状、診断方法、治療法まで詳しく解説いたします。
顎の下のしこりの多くは良性の病気が原因ですが、中には悪性の可能性もあるため、適切な知識を持ち、必要に応じて専門医への相談を行うことが大切です。この記事を通じて、皆様が安心して適切な対応を取れるよう、分かりやすく詳細な情報をお届けします。

顎の下のしこりとは
顎の下のしこりとは、下顎から首の上部にかけての領域に触れることができる腫れや隆起のことを指します。これらのしこりは、皮膚の表面近くにできるものもあれば、より深い組織にできるものもあります。
しこりの特徴
顎の下のしこりには以下のような特徴があります:
大きさ:豆粒大から鶏卵大まで様々です。小さなものは数ミリメートル程度で、触っても分からないこともありますが、大きくなると目で見てもはっきりと分かるようになります。
硬さ:柔らかいものから硬いものまで幅広く存在します。炎症性のものは比較的柔らかく、腫瘍性のものは硬いことが多いですが、必ずしもそうとは限りません。
可動性:指で押したときに動くかどうかも重要な特徴です。良性の腫瘍やリンパ節の腫れなどは可動性があることが多く、悪性の腫瘍では周囲の組織に癒着して動きにくくなることがあります。
痛み:痛みの有無も診断の手がかりとなります。炎症が原因の場合は痛みを伴うことが多く、腫瘍が原因の場合は初期には痛みがないことが多いです。
顎の下のしこりの主な原因
顎の下のしこりの原因は多岐にわたります。ここでは、代表的な原因について詳しく説明します。
1. リンパ節の腫れ
最も頻度の高い原因の一つがリンパ節の腫れです。リンパ節は体内の免疫システムの一部で、細菌やウイルスなどの病原体から体を守る役割を果たしています。
急性リンパ節炎
風邪や扁桃炎、歯の感染などが原因で起こります。特徴として以下が挙げられます:
- 症状の急速な発症:数日から1週間程度で腫れが目立つようになります
- 痛みを伴う:触ると痛みがあり、時には自発痛もあります
- 発熱:全身症状として発熱を伴うことがあります
- 他の症状:のどの痛み、鼻水、咳など、原因となる感染症の症状を伴います
慢性リンパ節炎
長期間にわたってリンパ節が腫れ続ける状態です:
- 症状の持続性:数週間から数ヶ月にわたって腫れが続きます
- 痛みは軽微:急性期に比べて痛みは軽いか、ほとんどありません
- 大きさの変化:時期によって大きさが変わることがあります
特殊なリンパ節炎
**亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病)**は、20〜30代の女性に多く見られる特殊なリンパ節炎です。原因は不明ですが、ウイルス感染や自己免疫反応が関与していると考えられています。
2. 唾液腺の病気
顎の下には顎下腺という唾液腺があり、ここに問題が生じることでしこりができることがあります。
顎下腺炎
細菌やウイルスの感染により顎下腺に炎症が起こる病気です:
- 食事時の痛み:特に酸っぱいものを食べるときに痛みが強くなります
- 腫れと圧痛:顎の下が腫れ、押すと痛みがあります
- 口の渇き:唾液の分泌が減少することがあります
唾石症
唾液腺の導管に石(唾石)ができて唾液の流れが妨げられる病気です:
- 食事時の腫れ:食事のときに顎下腺が腫れ、食後に徐々に小さくなります
- 繰り返す症状:症状が繰り返し現れるのが特徴です
- 痛み:腫れと同時に痛みを伴うことが多いです
顎下腺腫瘍
良性と悪性の両方があります:
良性腫瘍:
- ゆっくりとした成長
- 痛みはほとんどない
- 表面は滑らか
- 可動性がある
悪性腫瘍:
- 比較的急速な成長
- 初期は痛みがないことが多い
- 表面が不整
- 周囲組織との癒着により可動性が制限される
- 進行すると顔面神経麻痺を起こすことがある
3. 甲状腺の病気
甲状腺は首の前部にある臓器ですが、腫れが大きい場合や位置によっては顎の下のしこりとして触れることがあります。
甲状腺結節
甲状腺にできる塊で、良性と悪性があります:
- 無症状:多くの場合、初期は症状がありません
- 硬いしこり:触ると硬く感じることが多いです
- 飲み込み時の違和感:大きくなると飲み込むときに違和感を感じることがあります
4. 皮膚・皮下組織の病気
脂肪腫
皮下組織にできる良性の腫瘍です:
- 柔らかい感触:触ると柔らかく、弾力性があります
- 可動性:皮膚の下で自由に動きます
- 痛みなし:通常、痛みはありません
- ゆっくりとした成長:年単位でゆっくりと大きくなります
粉瘤(アテローム)
皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に皮脂や角質が溜まった状態です:
- 中央に開口部:よく見ると中央に小さな穴があることがあります
- 感染時の症状:感染すると急に大きくなり、痛みや赤みを伴います
- 特有の臭い:内容物を押し出すと特有の臭いがあります
5. 先天性の病気
正中頸嚢胞
胎児期の発達過程で形成される嚢胞が残存したものです:
- 首の中央:多くは首の中央から若干左右にずれた位置にできます
- 飲み込み時の移動:飲み込むときに上下に動くのが特徴です
- 感染時の症状:感染すると腫れや痛みを伴います
側頸嚢胞
首の側面にできる先天性の嚢胞です:
- 首の側面:主に首の側面、顎の下から鎖骨にかけての領域にできます
- 柔らかい感触:触ると柔らかく、波動を感じることがあります
6. 悪性腫瘍
最も注意が必要なのが悪性腫瘍です。
悪性リンパ腫
リンパ球が悪性化した病気で、リンパ節に発生します:
- 痛みのないしこり:初期は痛みを伴わないことが多いです
- 急速な成長:比較的短期間で大きくなります
- 全身症状:発熱、寝汗、体重減少などの症状を伴うことがあります
- 複数部位の腫れ:首だけでなく、脇の下や足の付け根なども腫れることがあります
転移性リンパ節腫大
他の部位のがんがリンパ節に転移したものです:
- 硬いしこり:石のように硬いことが多いです
- 可動性の制限:周囲組織との癒着により動きにくくなります
- 原発巣の症状:口の中の痛み、飲み込みにくさ、声の変化など、原発巣に関連した症状を伴うことがあります
考えられる原発巣として以下があります:
- 口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)
- 咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)
- 喉頭がん
- 甲状腺がん
- 食道がん
症状の詳細
顎の下のしこりに伴う症状は、原因によって大きく異なります。ここでは、症状の特徴とその意味について詳しく説明します。
痛みの有無と性質
痛みがある場合
痛みを伴うしこりは、多くの場合、炎症性の病気が原因です:
急性炎症の痛み:
- ズキズキとした拍動性の痛み
- 触ると強い痛みがある(圧痛)
- 時間とともに痛みが増強する
- 発熱を伴うことが多い
慢性炎症の痛み:
- 鈍い痛みや違和感
- 常時痛むわけではない
- 疲労時や体調不良時に痛みが増す
痛みがない場合
痛みのないしこりは、腫瘍性の病気の可能性が高くなります:
良性腫瘍:
- 全く痛みがない
- 触っても不快感程度
- 年単位でゆっくりと成長
悪性腫瘍:
- 初期は痛みがない
- 進行すると周囲組織への浸潤により痛みが出現
- 神経を圧迫すると特定の部位に痛みやしびれが生じる
しこりの大きさと成長速度
急速な成長
数日から数週間で明らかに大きくなる場合:
- 急性炎症
- 感染症
- 悪性腫瘍の一部
緩慢な成長
数ヶ月から数年かけてゆっくりと成長する場合:
- 良性腫瘍
- 慢性炎症
大きさの変化
時期によって大きさが変わる場合:
- 唾石症(食事時に腫れる)
- 感染に伴うリンパ節腫大
- ホルモンの変化に伴う変化
随伴症状
しこり以外の症状も重要な診断の手がかりとなります。
発熱
高熱(38度以上):
- 急性感染症
- 悪性リンパ腫の場合もある
微熱:
- 慢性感染症
- 自己免疫疾患
のどの症状
のどの痛み:
- 咽頭炎、扁桃炎
- 咽頭がんの初期症状
飲み込みにくさ:
- 咽頭・食道の病気
- 大きな腫瘍による圧迫
声の変化:
- 喉頭の病気
- 反回神経麻痺
口腔内の症状
口の渇き:
- 唾液腺の病気
- シェーグレン症候群
口内炎:
- 免疫力の低下
- 血液疾患
歯の痛み:
- 歯原性感染
- 顎骨の病気
皮膚の変化
発疹:
- ウイルス感染症
- 自己免疫疾患
皮膚の発赤:
- 皮下膿瘍
- 蜂窩織炎
全身症状
体重減少:
- 悪性腫瘍
- 慢性感染症
寝汗:
- 悪性リンパ腫
- 結核
倦怠感:
- 血液疾患
- 感染症
診断方法
顎の下のしこりの正確な診断のためには、様々な検査が必要となります。アイシークリニック上野院では、患者様の症状に応じて適切な検査を選択し、診断を行っています。
問診・視診・触診
問診
医師は以下のような質問をします:
症状の経過:
- いつからしこりに気づいたか
- 大きさの変化はあるか
- 痛みの有無と性質
- 他の症状の有無
既往歴:
- 過去の病気や手術歴
- 現在服用している薬
- アレルギーの有無
生活習慣:
- 喫煙・飲酒歴
- 職業
- 最近の体調変化
視診
医師が目で見て確認する内容:
外観:
- しこりの位置と大きさ
- 皮膚の色調変化
- 左右対称性
口腔内の観察:
- 口の中の病変の有無
- 歯の状態
- 扁桃の腫れ
触診
医師が実際に触って確認する内容:
しこりの性質:
- 大きさ
- 硬さ
- 表面の性状(滑らか/凸凹)
- 可動性の有無
- 圧痛の有無
他の部位の確認:
- 他のリンパ節の腫れ
- 甲状腺の状態
- 唾液腺の状態
血液検査
血液検査では以下の項目を調べます:
一般的な血液検査
白血球数:
- 感染症では増加
- 血液疾患では増加または減少
CRP(C反応性蛋白):
- 炎症の程度を示す
- 感染症や自己免疫疾患で上昇
赤血球沈降速度(ESR):
- 炎症や悪性腫瘍で上昇
特殊検査
腫瘍マーカー:
- 特定のがんで上昇する物質
- PSA(前立腺がん)、CEA(消化器がん)など
自己抗体:
- 自己免疫疾患の診断
- 抗核抗体、抗SS-A/SS-B抗体など
感染症検査:
- EBウイルス、CMVウイルスなど
- 結核菌検査
画像検査
超音波検査(エコー検査)
最も基本的で有用な画像検査です:
利点:
- 非侵襲的で痛みがない
- 放射線被曝がない
- リアルタイムで観察可能
- 血流の評価も可能
評価項目:
- しこりの大きさと形状
- 内部構造(充実性/嚢胞性)
- 血流の有無
- 周囲組織との関係
CT検査
より詳細な情報を得るための検査です:
適応:
- 悪性腫瘍が疑われる場合
- 深部の病変の評価
- 手術計画の立案
評価項目:
- 病変の正確な位置と大きさ
- 周囲組織への浸潤の有無
- リンパ節転移の評価
- 他臓器への転移の検索
MRI検査
軟部組織の詳細な評価に優れています:
適応:
- 唾液腺腫瘍の評価
- 神経や血管との関係の評価
- 悪性腫瘍の進展範囲の確認
PET検査
悪性腫瘍の診断や転移の検索に使用されます:
適応:
- 悪性腫瘍の診断
- 全身の転移検索
- 治療効果の判定
細胞診・組織診
穿刺吸引細胞診(FNA)
細い針を刺してしこりの細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です:
方法:
- 局所麻酔下で細い針を刺入
- 注射器で細胞を吸引
- 数分で終了する簡単な検査
利点:
- 外来で施行可能
- 侵襲性が低い
- 迅速な結果判定
限界:
- 細胞レベルでの診断のため、確定診断が困難な場合がある
- 採取量が少ない場合は診断困難
組織生検
より確実な診断のために組織を採取する検査です:
方法:
- 局所麻酔下で小切開
- 組織の一部を切除
- 縫合して終了
利点:
- 確定診断が可能
- 悪性度の評価も可能
- 治療方針の決定に有用
欠点:
- やや侵襲的
- 小さな手術が必要
内視鏡検査
原発巣の検索のために行うことがあります:
上部消化管内視鏡検査
適応:
- 食道がんの検索
- 胃がんの検索
咽頭・喉頭内視鏡検査
適応:
- 咽頭がんの検索
- 喉頭がんの検索
治療法
顎の下のしこりの治療は、原因となる病気によって大きく異なります。ここでは、主な病気の治療法について詳しく説明します。
感染症による治療
急性リンパ節炎
抗生物質治療:
- 細菌感染が原因の場合、適切な抗生物質を選択
- ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系など
- 通常7-14日間の内服治療
対症療法:
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
- 局所の冷却
- 十分な休息と水分摂取
重症例の管理:
- 膿瘍形成時は切開排膿
- 点滴治療が必要な場合もある
顎下腺炎
薬物療法:
- 抗生物質(細菌感染の場合)
- 抗ウイルス薬(ウイルス感染の場合)
- 消炎鎮痛薬
局所療法:
- 温湿布による局所温熱療法
- 唾液分泌促進のための酸味の強い食品摂取
- 十分な水分摂取
重症例の対応:
- 唾液腺マッサージ
- 唾液腺管洗浄
- 場合によっては入院治療
唾石症
保存的治療:
- 水分摂取の増加
- 唾液分泌促進食品の摂取
- 唾液腺マッサージ
- 抗生物質(感染併発時)
外科的治療:
- 口腔内からの唾石摘出
- 内視鏡的唾石摘出術
- 顎下腺摘出術(重症例)
良性腫瘍の治療
脂肪腫
経過観察:
- 小さく無症状の場合は経過観察
- 定期的な大きさの確認
外科的切除:
- 美容的問題がある場合
- 大きくなって日常生活に支障がある場合
- 悪性化が疑われる場合
手術方法:
- 局所麻酔下での摘出術
- 日帰り手術が可能
- 傷跡を最小限にする工夫
粉瘤(アテローム)
保存的治療:
- 感染していない小さな粉瘤は経過観察
外科的治療:
- 感染を繰り返す場合
- 大きくなって問題となる場合
- 美容的な問題がある場合
手術方法:
- 摘出術:被膜ごと完全に摘出
- 小切開摘出術:最小限の切開で摘出
- レーザー治療:CO2レーザーによる治療
良性唾液腺腫瘍
外科的切除:
- 基本的には手術による完全摘出
- 顎下腺摘出術
- 耳下腺部分切除術
手術の注意点:
- 顔面神経の温存
- 舌神経の保護
- 機能温存を重視した術式選択
先天性疾患の治療
正中頸嚢胞
外科的治療:
- Sistrunk手術:嚢胞と舌骨中央部の同時摘出
- 再発予防のための根治的手術
側頸嚢胞
外科的治療:
- 嚢胞の完全摘出
- 瘻孔がある場合は同時に摘出
悪性腫瘍の治療
悪性腫瘍の治療は、がんの種類、進行度、患者様の全身状態などを総合的に判断して決定されます。
悪性リンパ腫
化学療法:
- 多剤併用化学療法が基本
- CHOP療法、R-CHOP療法など
- 外来または入院での治療
放射線治療:
- 局所制御のために併用
- 化学療法との組み合わせ
分子標的治療:
- リツキシマブなどの抗体治療
- 新しい治療選択肢の導入
造血幹細胞移植:
- 高リスク症例
- 再発・難治性症例
転移性リンパ節腫大
原発巣の治療:
- 手術、化学療法、放射線治療
- 原発巣に応じた集学的治療
頸部リンパ節郭清術:
- 手術可能な場合
- 根治的郭清または機能温存郭清
化学療法:
- 全身治療としての化学療法
- 分子標的治療薬の併用
放射線治療:
- 局所制御のための追加治療
- 手術困難例での根治的治療
唾液腺がん
外科的治療:
- 腺摘出術
- 頸部リンパ節郭清術
- 再建手術(必要に応じて)
術後補助療法:
- 放射線治療
- 化学療法(適応例)
内科的疾患の治療
自己免疫疾患
シェーグレン症候群:
- 人工唾液の使用
- 唾液分泌促進薬
- 免疫抑制薬(重症例)
関節リウマチ関連:
- 疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)
- 生物学的製剤
- ステロイド治療
内分泌疾患
甲状腺機能異常:
- 甲状腺ホルモン補充療法
- 抗甲状腺薬
- 放射性ヨウ素治療
手術療法の詳細
手術適応
以下の場合に手術を検討します:
良性疾患:
- 症状が強い場合
- 美容的問題がある場合
- 悪性化のリスクがある場合
- 機能障害を来している場合
悪性疾患:
- 根治可能な場合
- 症状緩和のため
手術方法
最小侵襲手術:
- 内視鏡下手術
- ロボット支援手術
- レーザー治療
従来手術:
- 開放手術
- リンパ節郭清術
- 再建手術
手術リスク
一般的リスク:
- 出血
- 感染
- 麻酔合併症
特殊リスク:
- 顔面神経麻痺
- 舌神経麻痺
- 唾液瘻
- 審美的問題
術後管理
創部管理
傷の処置:
- 清潔保持
- 適切な被覆
- 感染予防
抜糸時期:
- 通常7-14日後
- 部位と創の状態による
機能回復
嚥下リハビリテーション:
- 唾液腺手術後
- 段階的な機能回復
発声練習:
- 声帯機能に影響する手術後
- 言語聴覚士による指導
合併症への対応
神経麻痺:
- 理学療法
- 薬物療法
- 場合により再手術
唾液瘻:
- 保存的治療
- 再手術(難治例)
受診のタイミング
顎の下にしこりを見つけた場合、いつ医療機関を受診すべきかは重要な判断です。以下の症状がある場合は、速やかに専門医への相談をお勧めします。
緊急性の高い症状
以下の症状がある場合は、できるだけ早く受診してください:
急速な増大
短期間での変化:
- 数日から1週間で明らかに大きくなる
- 倍以上の大きさになる
- 急に硬くなる
危険な兆候:
- 悪性腫瘍の急速進行
- 感染の拡大
- 血腫の形成
強い痛み
激痛:
- 安静時にも強い痛みがある
- 痛み止めが効かない
- 夜間に痛みで目が覚める
随伴症状:
- 高熱(38度以上)
- 嚥下困難
- 呼吸困難
皮膚の変化
発赤・熱感:
- 皮膚が赤くなる
- 触ると熱い
- 腫れが急速に拡大
潰瘍形成:
- 皮膚に穴があく
- 膿が出る
- 悪臭がする
比較的緊急性の高い症状
以下の症状がある場合は、1-2週間以内に受診をお勧めします:
継続する症状
2週間以上続くしこり:
- 感染症なら通常2週間以内に改善
- 持続する場合は他の原因を考慮
徐々に大きくなるしこり:
- 良性腫瘍の可能性
- 悪性腫瘍の可能性も否定できない
機能障害
嚥下障害:
- 食べ物が飲み込みにくい
- 液体でむせやすい
- 体重減少
発声障害:
- 声がかすれる
- 声が出にくい
- 声の変化が続く
開口障害:
- 口が開けにくい
- 食事に支障がある
経過観察可能な症状
以下の場合は、しばらく様子を見ることも可能ですが、変化があれば受診してください:
軽微な症状
小さな無痛のしこり:
- 豆粒大以下
- 痛みがない
- 変化がない
一時的な腫れ:
- 風邪などの後に出現
- 徐々に小さくなっている
- 他に症状がない
定期検査が必要な場合
既往歴のある方
がんの既往:
- 定期的な検査が必要
- 転移の早期発見のため
家族歴のある方:
- 遺伝的リスクがある場合
- 予防的検査の検討
職業的曝露
化学物質への曝露:
- 発がん性物質との接触歴
- 定期的な健康診断
受診する診療科
症状に応じて適切な診療科を選択することが重要です:
耳鼻咽喉科
最も適している場合:
- 首やのどの症状
- 唾液腺の病気
- 頭頸部腫瘍全般
内科
全身症状がある場合:
- 発熱、体重減少
- 血液疾患の疑い
- 感染症の疑い
外科
手術が必要と思われる場合:
- 明らかな腫瘍
- 膿瘍の疑い
皮膚科
皮膚疾患の疑い:
- 皮下腫瘍
- 皮膚感染症
受診時に伝えるべき情報
医師に正確な診断をしてもらうために、以下の情報を整理して伝えましょう:
症状の詳細
発症時期:
- いつから気づいたか
- きっかけがあったか
変化の経過:
- 大きさの変化
- 硬さの変化
- 痛みの変化
随伴症状:
- 発熱の有無
- その他の症状
既往歴・家族歴
過去の病気:
- がんの既往
- 感染症の既往
- 手術歴
家族の病気:
- がんの家族歴
- 遺伝性疾患
現在の状況
内服薬:
- 現在飲んでいる薬
- アレルギーの有無
生活習慣:
- 喫煙・飲酒歴
- 職業
- 最近の体調変化
セカンドオピニオンの検討
以下の場合はセカンドオピニオンの検討も重要です:
診断が不明確な場合
複数の可能性:
- 確定診断に至らない
- 検査結果が曖昧
治療方針に迷いがある場合
手術の必要性:
- 手術以外の選択肢
- 手術時期の判断
悪性腫瘍の場合:
- 治療方針の選択
- 専門的な治療の必要性
予防法
顎の下のしこりを完全に予防することは困難ですが、リスクを減らすための方法はいくつかあります。
感染症の予防
口腔衛生の維持
歯磨きの徹底:
- 毎食後の歯磨き
- 適切な歯磨き方法の実践
- フッ素入り歯磨き粉の使用
定期的な歯科検診:
- 6ヶ月に1回の検診
- 早期の虫歯治療
- 歯石除去
口腔内の清潔保持:
- うがいの習慣
- マウスウォッシュの使用
- 舌のケア
全身の免疫力向上
バランスの良い食事:
- ビタミン・ミネラルの摂取
- 十分なタンパク質
- 抗酸化物質の摂取
適度な運動:
- 有酸素運動
- 筋力トレーニング
- ストレッチ
十分な睡眠:
- 7-8時間の睡眠
- 質の良い睡眠
- 規則正しい生活リズム
ストレス管理:
- リラクゼーション
- 趣味の時間
- 適切な休息
感染症対策
手洗い・うがい:
- 帰宅時の手洗い
- 流行期のマスク着用
- 人混みを避ける
予防接種:
- インフルエンザワクチン
- その他推奨されるワクチン
生活習慣の改善
禁煙
喫煙のリスク:
- 口腔がんのリスク増加
- 咽頭がんのリスク増加
- 免疫力の低下
禁煙の効果:
- がんリスクの減少
- 感染症リスクの減少
- 創傷治癒の改善
禁煙支援:
- 禁煙外来の利用
- ニコチン代替療法
- 周囲のサポート
節酒
飲酒のリスク:
- 頭頸部がんのリスク増加
- 免疫力の低下
- 栄養吸収の阻害
適量飲酒:
- 男性:日本酒換算で2合以下/日
- 女性:日本酒換算で1合以下/日
- 休肝日の設定
環境要因の改善
職業性曝露の回避
化学物質:
- 適切な防護具の使用
- 作業環境の改善
- 定期的な健康診断
粉塵:
- マスクの着用
- 作業場の換気
- 作業後の清拭
紫外線対策
皮膚がん予防:
- 日焼け止めの使用
- 帽子の着用
- 日陰の利用
早期発見のための取り組み
自己チェック
定期的な触診:
- 月1回程度の自己チェック
- 鏡を使った観察
- 変化の記録
チェックポイント:
- しこりの有無
- 大きさの変化
- 痛みの有無
- 皮膚の変化
定期健診
健康診断の受診:
- 年1回の健康診断
- 必要に応じた精密検査
- 医師の指示に従った検査
がん検診:
- 年齢に応じたがん検診
- 家族歴がある場合の追加検診
特殊な予防
遺伝的リスクのある方
遺伝カウンセリング:
- 家族歴の詳細な聴取
- リスク評価
- 検査の必要性の判断
定期的な検査:
- 高リスク者への定期検査
- 早期発見のための取り組み
免疫不全状態の方
感染予防の徹底:
- 特に厳重な感染対策
- 予防的薬物療法
- 定期的な検査
栄養管理:
- 十分な栄養摂取
- サプリメントの適切な使用
- 専門医との相談

よくある質問
ここでは、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 顎の下にしこりがあります。がんでしょうか?
A: 顎の下のしこりの多くは良性の病気が原因です。リンパ節の腫れや良性腫瘍、感染症などが主な原因となります。ただし、悪性腫瘍の可能性も完全には否定できませんので、以下の症状がある場合は早めに医療機関を受診してください:
- 急速に大きくなる
- 硬くて動かない
- 痛みがない
- 2週間以上続く
- 他の症状(体重減少、発熱など)を伴う
早期の診断と適切な治療により、多くの場合良好な結果が期待できます。
Q2. しこりを見つけてから何日くらいで受診すべきですか?
A: 以下のような場合は緊急に受診してください:
即座に受診が必要:
- 急速に大きくなる(数日で明らかに変化)
- 強い痛みがある
- 高熱を伴う
- 皮膚が赤く腫れている
- 呼吸や嚥下に支障がある
1-2週間以内に受診:
- 2週間以上しこりが続く
- 徐々に大きくなっている
- 軽度の症状がある
経過観察可能(ただし変化があれば受診):
- 小さくて無痛
- 風邪の後に出現し、徐々に小さくなっている
迷った場合は早めの受診をお勧めします。
Q3. 子どもにも顎の下のしこりはできますか?
A: はい、子どもにも顎の下のしこりはできます。子どもの場合、以下の特徴があります:
よくある原因:
- ウイルス感染に伴うリンパ節腫大
- 細菌感染(扁桃炎、歯の感染など)
- 先天性疾患(正中頸嚢胞、側頸嚢胞など)
子どもの特徴:
- 感染症による一時的な腫れが多い
- 悪性腫瘍は大人より稀
- 症状の変化が早い
受診の目安:
- 1週間以上続く
- 発熱を伴う
- 食事や水分摂取に支障がある
- 機嫌が悪い
子どもは症状を適切に訴えられない場合があるため、保護者の方の観察が重要です。
Q4. 痛みがないしこりは危険ですか?
A: 痛みがないしこりは、必ずしも危険というわけではありませんが、注意が必要です:
痛みがない場合の原因:
良性:
- 脂肪腫
- 良性の唾液腺腫瘍
- 甲状腺結節
- 正中頸嚢胞
悪性の可能性:
- 悪性リンパ腫
- 転移性リンパ節腫大
- 悪性の唾液腺腫瘍
注意すべき点:
- 痛みがないからといって安心はできない
- 悪性腫瘍は初期には痛みがないことが多い
- 他の症状(硬さ、可動性、成長速度など)も重要
痛みの有無に関わらず、気になるしこりがある場合は医師に相談することをお勧めします。
Q5. 一度小さくなったしこりが再び大きくなりました。問題ありますか?
A: しこりの大きさが変化することには、いくつかの可能性があります:
良性の原因:
- 感染症の再燃
- 唾石症(食事時の腫れ)
- ホルモン変化による影響
- ストレスや疲労による変化
注意が必要な場合:
- 以前より大きくなった
- 硬さが変わった
- 他の症状を伴う
- 短期間での変化
対応:
- 変化の記録をつける
- 他の症状の有無を確認
- 医師に相談して適切な検査を受ける
再発や増大する場合は、原因を特定するために医療機関での評価が重要です。
Q6. 家族にがんの人がいます。遺伝しますか?
A: がんの遺伝について:
遺伝性の要因:
- 一部のがんには遺伝的要因がある
- 家族歴がリスク因子となる場合がある
- ただし、家族歴があっても必ず発症するわけではない
頭頸部がんの場合:
- 多くは環境要因(喫煙、飲酒など)が主因
- 遺伝的要因は比較的少ない
- ただし、一部に遺伝性症候群がある
対策:
- 定期的な検診
- 危険因子の回避(禁煙、節酒など)
- 必要に応じて遺伝カウンセリング
- 早期発見のための自己チェック
心配な場合は、医師に家族歴を詳しく伝え、適切なアドバイスを受けてください。
Q7. しこりの検査は痛いですか?
A: 検査の種類によって異なります:
痛みの少ない検査:
- 超音波検査:全く痛みがありません
- 血液検査:採血時の軽い痛みのみ
- CT・MRI検査:痛みはありません
軽度の痛みがある検査:
- 細胞診(穿刺吸引):注射程度の痛み
- 局所麻酔の注射:一時的な痛み
検査の工夫:
- 局所麻酔の使用
- 細い針の使用
- 患者様への十分な説明
- リラックスできる環境作り
当院では患者様の痛みを最小限にするよう努めており、検査前に詳しく説明いたします。不安な点があればお気軽にお申し出ください。
Q8. 手術が必要と言われました。どのような手術ですか?
A: 手術の種類は病気によって異なります:
良性腫瘍の場合:
- 腫瘍摘出術
- 日帰り手術が可能な場合が多い
- 局所麻酔下での手術
- 傷跡を最小限にする工夫
悪性腫瘍の場合:
- より大きな手術が必要
- リンパ節郭清術
- 場合により再建手術
- 全身麻酔下での手術
手術の準備:
- 術前検査
- 麻酔科診察
- 手術方法の詳しい説明
- 術後管理の説明
術後経過:
- 傷の管理
- 機能回復のリハビリ
- 定期的な経過観察
手術について詳しく知りたい場合は、主治医に遠慮なくお聞きください。
Q9. 治療後、再発することはありますか?
A: 再発の可能性は病気の種類と治療方法によって異なります:
良性疾患:
- 完全に摘出できれば再発は稀
- 不完全摘出の場合は再発の可能性
- 感染症は原因により再発することがある
悪性疾患:
- 初期がんでは再発率は低い
- 進行がんでは再発リスクが高い
- 適切な治療により再発率を下げることが可能
再発予防:
- 定期的な検診
- 生活習慣の改善
- 医師の指示に従った経過観察
- 早期発見のための自己チェック
再発のサイン:
- 同じ場所のしこり
- 他の部位のしこり
- 全身症状の出現
再発について心配な場合は、定期的な検診を受け、変化があれば早めに相談してください。
Q10. 日常生活で気をつけることはありますか?
A: 日常生活での注意点:
一般的な健康管理:
- バランスの良い食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレス管理
口腔衛生:
- 毎食後の歯磨き
- 定期的な歯科検診
- うがいの習慣
生活習慣:
- 禁煙(最も重要)
- 節酒
- 規則正しい生活
環境要因:
- 化学物質への曝露を避ける
- 適切な防護具の使用
早期発見:
- 月1回程度の自己チェック
- 年1回の健康診断
- 異常があれば早めの受診
治療中・治療後:
- 医師の指示に従う
- 定期的な検診
- 薬の適切な服用
- 副作用があれば相談
健康的な生活習慣を心がけることで、多くの病気のリスクを減らすことができます。
まとめ
顎の下のしこりは、日常生活の中でしばしば遭遇する症状の一つです。その原因は多岐にわたり、軽微な感染症から悪性腫瘍まで様々な可能性があります。
重要なポイント
原因の多様性: 顎の下のしこりの原因として、リンパ節の腫れ、唾液腺の病気、良性・悪性腫瘍、先天性疾患など多くの可能性があります。多くは良性の病気が原因ですが、悪性腫瘍の可能性も念頭に置く必要があります。
症状の評価: しこりの大きさ、硬さ、痛みの有無、成長速度、随伴症状などを総合的に評価することが重要です。特に、急速な成長、硬いしこり、痛みのないしこり、2週間以上持続するしこりなどは注意が必要です。
適切な診断: 正確な診断のためには、問診・視診・触診に加えて、血液検査、画像検査(超音波、CT、MRIなど)、細胞診・組織診などの検査が必要となります。これらの検査を組み合わせることで、適切な診断と治療方針の決定が可能となります。
治療の選択肢: 治療は原因となる病気によって大きく異なります。感染症には抗生物質などの薬物療法、良性腫瘍には手術療法、悪性腫瘍には手術、化学療法、放射線治療などの集学的治療が行われます。
受診のタイミング: 急速な増大、強い痛み、皮膚の変化などがある場合は緊急に受診が必要です。2週間以上続くしこりや徐々に大きくなるしこりも、比較的早期の受診が推奨されます。
予防の重要性: 完全な予防は困難ですが、口腔衛生の維持、免疫力の向上、生活習慣の改善、環境要因の回避などにより、リスクを減らすことが可能です。特に禁煙は頭頸部がんの予防において最も重要な要素です。
アイシークリニック上野院からのメッセージ
アイシークリニック上野院では、患者様一人ひとりの症状に応じた丁寧な診察と、最新の検査・治療技術を提供しております。顎の下のしこりについて心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。
早期発見・早期治療により、多くの疾患で良好な結果が期待できます。些細なことでも結構ですので、気になる症状がございましたら、遠慮なくお越しください。私たちは患者様の健康を守るため、全力でサポートいたします。
また、当院では患者様に安心して治療を受けていただけるよう、十分な説明と納得いただける治療方針の提案を心がけております。セカンドオピニオンについても対応しておりますので、必要に応じてご相談ください。
健康な毎日を送るためには、日頃からの健康管理と、異常を感じた際の適切な対応が重要です。この記事が皆様の健康維持にお役立ていただければ幸いです。
参考文献
- 一般社団法人日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)」 https://www.jshem.or.jp/gui-hemali/
- 一般社団法人日本頭頸部癌学会「頭頸部癌診療ガイドライン2022年版」 http://www.jshnc.umin.ne.jp/guideline.html
- 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」 http://www.jsco-cpg.jp/
- 公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020」 http://www.skincancer.jp/guideline_rinpashu2020.pdf
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「診療ガイドライン」 https://www.jibika.or.jp/modules/guidelines/
- 国立がん研究センター「がん情報サービス」 https://ganjoho.jp/
- 厚生労働省「健康情報」 https://www.mhlw.go.jp/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務