はじめに
頭皮のフケが止まらない、顔の赤みが気になる、耳の後ろがかゆい…これらの症状でお悩みではありませんか?もしかするとそれは「脂漏性皮膚炎」かもしれません。
脂漏性皮膚炎は皮脂の分泌が盛んな部位に生じる慢性的な皮膚疾患で、多くの方が悩まれている身近な病気です。症状が軽度であれば市販薬でのケアも可能ですが、適切な治療選択肢を知ることが改善への第一歩となります。
本記事では、脂漏性皮膚炎の基本的な知識から市販薬の現状、効果的な治療法まで、患者さんが知っておくべき情報を分かりやすく解説いたします。

1. 脂漏性皮膚炎とは
1.1 定義と概要
脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)は、皮脂腺の密度が高い部位に生じる慢性の炎症性皮膚疾患です。「脂漏」とは文字通り「脂が漏れる」、つまり皮脂の分泌が多いことを意味します。
この疾患は以下の特徴を持ちます:
- 慢性経過:一度治っても再発しやすい
- 好発部位:頭皮、顔面、胸部、背部など皮脂分泌の多い場所
- 年齢分布:生後3か月未満の乳児と30~70歳の成人に多発
- 性差:男性にやや多い傾向
1.2 疫学データ
日本における脂漏性皮膚炎の有病率は、皮膚科を受診する患者さんの2~3%を占めるとされています。決して珍しい疾患ではなく、多くの方が悩まれている皮膚トラブルといえるでしょう。
2. 症状と診断
2.1 主な症状
脂漏性皮膚炎の症状は多岐にわたり、発症部位によって異なる特徴を示します。
頭皮の症状
- フケ:黄色っぽいうろこ状の厚いフケが大量に発生
- かゆみ:軽度から中等度のかゆみ
- 赤み:頭皮の炎症による発赤
- 脂っぽさ:皮脂分泌の増加による頭皮のべたつき
顔面の症状
- 紅斑:鼻唇溝、眉毛部、耳介後部の赤み
- 落屑:皮膚の剥がれ落ち
- 脂ぎった鱗屑:黄色調で粘着性のある皮むけ
- 毛穴の目立ち:皮脂分泌過多による毛穴の拡大
体幹の症状
- 胸部・背部の紅斑:円形から楕円形の赤い斑点
- 軽度のかゆみ:掻破により悪化することがある
2.2 診断のポイント
脂漏性皮膚炎の診断は主に臨床症状と発症部位に基づいて行われます。特徴的な所見として:
- 好発部位への限局:皮脂腺の多い場所に症状が集中
- 黄色調の鱗屑:特徴的な色調と性状
- 慢性経過:症状の改善と悪化を繰り返す
- 季節性:寒冷期に悪化することが多い
2.3 鑑別診断
脂漏性皮膚炎と鑑別が必要な疾患には以下があります:
- アトピー性皮膚炎:好発部位や症状の特徴で鑑別
- 接触皮膚炎:原因物質への接触歴の有無
- 乾癬:鱗屑の厚さや分布の違い
- 真菌感染症:KOH直接鏡検による真菌の確認
3. 原因とメカニズム
3.1 発症機序
脂漏性皮膚炎の発症機序は完全には解明されていませんが、現在以下の要因が関与していると考えられています。
マラセチア菌の関与
マラセチア属真菌(Malassezia spp.)が最も重要な病因と考えられています。
- 常在菌の異常増殖:皮膚に常在するマラセチア菌が何らかの原因で増殖
- 皮脂分解産物:マラセチア菌が皮脂中のトリグリセリドを遊離脂肪酸に分解
- 炎症反応:遊離脂肪酸が皮膚刺激を引き起こし炎症が発生
- 免疫応答:マラセチア菌に対するアレルギー反応の可能性
皮脂分泌の異常
興味深いことに、脂漏性皮膚炎患者の皮脂分泌量や成分は正常であることが多く、皮脂の「質」よりも「分布」や「代謝」の異常が重要と考えられています。
3.2 誘因・悪化因子
脂漏性皮膚炎の発症や悪化には以下の因子が関与します:
内的因子
- ストレス:精神的・身体的ストレスによる免疫機能の低下
- 睡眠不足:皮膚のバリア機能低下
- ホルモンバランス:思春期や更年期の性ホルモン変動
- 栄養不足:特にビタミンB群の不足
- 免疫機能低下:HIV感染、薬剤性免疫抑制状態
外的因子
- 季節要因:寒冷・乾燥した環境での悪化
- 洗浄不足:不適切なスキンケア
- 機械的刺激:過度の洗浄や掻破
- 化学的刺激:不適切な化粧品の使用
疾患関連因子
- 神経疾患:パーキンソン病、アルツハイマー病
- 精神疾患:重度のうつ病
- 薬剤性:ドーパミン拮抗薬の使用
4. 市販薬の現状と限界
4.1 抗真菌薬の市販状況
脂漏性皮膚炎の根本治療には抗真菌薬が必要ですが、現在日本では医療用の主要な抗真菌薬(ケトコナゾールなど)は市販薬として入手できません。
ケトコナゾール(ニゾラール®)の現状
- 医療用のみ:現在処方薬としてのみ利用可能
- スイッチOTC化の見通し:厚生労働省の「スイッチOTC医薬品有効成分リスト」に記載されておらず、市販化の予定なし
- 治療効果:脂漏性皮膚炎に対して最も効果的とされる第一選択薬
4.2 市販で入手可能な抗真菌成分
ナイスタチン配合製剤
- クロマイ-N軟膏:市販薬唯一の抗真菌成分「ナイスタチン」配合
- 適応:毛のう炎などの皮膚トラブル
- 限界:脂漏性皮膚炎への効果は限定的
その他の抗真菌シャンプー
- ピリチオン亜鉛:軽度の抗真菌作用
- 硫化セレン:フケ抑制効果
- サリチル酸:角質溶解作用
4.3 ステロイド外用薬
市販ステロイド薬の分類
市販薬では以下のステロイド外用薬が入手可能です:
ウィーク(弱い)クラス
- ヒドロコルチゾン酢酸エステル:マイルドな抗炎症作用
- プレドニゾロン吉草酸エステル:軽度の炎症に適用
ミディアム(中程度)クラス
- ベタメタゾン吉草酸エステル(リンデロンVs®など)
- 医療用と同量配合
- 軟膏、クリーム、ローションの3剤形
- 中等度の炎症に効果的
市販ステロイド薬の限界
- 長期使用の制限:副作用のリスクから長期使用は推奨されない
- 適応期間:5-6日程度の短期間使用に限定
- 専門指導の必要性:適切な使用法について薬剤師への相談が重要
4.4 その他の市販薬選択肢
保湿剤・スキンケア製品
- セラミド配合製品:皮膚バリア機能の改善
- ヘパリン類似物質:保湿と抗炎症作用
- 尿素配合製品:角質軟化作用
ビタミン製剤
- ビタミンB2・B6配合薬:皮膚の新陳代謝促進
- パントテン酸:皮膚の健康維持
5. 市販薬での対症療法
5.1 症状別の市販薬選択
軽度の炎症・かゆみ
推奨薬剤
- ヒドロコルチゾン配合クリーム
- 抗ヒスタミン配合外用薬
- カラミンローション
使用のポイント
- 1日2-3回の適量塗布
- 清潔にした患部への使用
- 5日以上の連続使用は避ける
中等度の炎症
推奨薬剤
- ベタメタゾン吉草酸エステル配合薬(リンデロンVs®など)
- プレドニゾロン吉草酸エステル配合薬
注意事項
- 薬剤師との相談後に使用
- 顔面使用時は特に注意
- 症状改善後は速やかに使用中止
5.2 シャンプー・洗浄剤の選択
抗真菌シャンプー
有効成分
- ピリチオン亜鉛:軽度の抗真菌・抗菌作用
- 硫化セレン:マラセチア菌に対する効果
- ケトコナゾール:海外製品(個人輸入)
使用方法
- 週2-3回の使用頻度
- 5分程度の接触時間確保
- 十分な泡立てと洗い流し
低刺激シャンプー
選択基準
- 無香料・無着色
- 弱酸性pH
- 硫酸系界面活性剤不使用
- セラミドなど保湿成分配合
5.3 スキンケアの基本原則
洗浄
- 適度な頻度:1日1-2回
- ぬるま湯使用:38-40℃程度
- 優しい洗浄:摩擦を避けて泡で洗う
- 十分なすすぎ:洗浄剤の残留防止
保湿
- 適切なタイミング:洗浄後3分以内
- 適量使用:べたつかない程度
- 成分選択:セラミド、ヒアルロン酸など
紫外線対策
- 日焼け止めの使用:SPF30程度
- 帽子の着用:直射日光を避ける
6. 医療機関での治療との比較
6.1 処方薬の治療効果
抗真菌薬(第一選択)
ケトコナゾール(ニゾラール®)
- 剤形:クリーム、ローション
- 使用部位:顔面(クリーム)、頭皮(ローション)
- 治療効果:マラセチア菌に対する強力な抗真菌作用
- 安全性:長期使用可能、副作用少ない
- 再発予防:症状改善後も予防的使用可能
ステロイド外用薬(補助療法)
処方薬の利点
- 強度調整:症状に応じた適切な強度選択
- 剤形選択:ローション、クリーム、軟膏の使い分け
- 専門指導:医師による適切な使用期間・方法の指導
新規治療薬
タクロリムス(プロトピック®)
- 適応:難治例、ステロイド長期使用回避例
- 効果:抗炎症作用、長期使用可能
- 注意:初期刺激感、専門医での管理必要
デルゴシチニブ(コレクチム®)
- 機序:JAK阻害薬
- 効果:新しい抗炎症機序
- 適応:アトピー性皮膚炎での経験を応用
6.2 医療機関受診の利点
正確な診断
- 鑑別診断:他疾患の除外
- 重症度評価:適切な治療選択
- 合併症チェック:細菌感染などの確認
個別化治療
- 患者背景考慮:年齢、性別、職業等
- ライフスタイル:治療継続性の向上
- 副作用対策:個人の体質に応じた薬剤選択
長期管理
- 再発予防:維持療法の計画
- 生活指導:包括的なケアプラン
- フォローアップ:治療効果の評価と調整
7. 生活習慣による改善法
7.1 食事・栄養療法
避けるべき食品
皮脂分泌促進食品
- 高糖質食品:白米、パン、お菓子類
- 高脂肪食品:揚げ物、動物性脂肪
- アルコール:炎症促進、皮脂分泌増加
- 辛味・香辛料:血管拡張による炎症悪化
推奨する栄養素
ビタミンB群
- ビタミンB2:皮膚の新陳代謝促進(レバー、卵、乳製品)
- ビタミンB6:皮脂分泌調整(マグロ、バナナ、じゃがいも)
- ナイアシン:皮膚バリア機能改善(鶏肉、魚類)
抗酸化成分
- ビタミンE:抗炎症作用(ナッツ類、植物油)
- ビタミンC:コラーゲン合成促進(柑橘類、野菜)
- ポリフェノール:抗酸化作用(緑茶、ベリー類)
ミネラル
- 亜鉛:皮膚修復促進(牡蠣、肉類)
- セレン:抗酸化酵素の成分(魚介類、ナッツ)
推奨食事パターン
- 地中海式食事:魚類、オリーブオイル、野菜中心
- 低GI食品:血糖値の急激な上昇を避ける
- 発酵食品:腸内環境改善(ヨーグルト、味噌)
7.2 ストレス管理
ストレスと脂漏性皮膚炎の関係
- 神経内分泌系:コルチゾールの過剰分泌
- 免疫機能:炎症反応の亢進
- 皮脂分泌:ストレスホルモンによる影響
効果的なストレス管理法
リラクゼーション技法
- 深呼吸法:副交感神経の活性化
- プログレッシブ筋弛緩法:全身の緊張緩和
- 瞑想・マインドフルネス:心の安定
運動療法
- 有酸素運動:ウォーキング、水泳(週3-4回、30分程度)
- ヨガ・ピラティス:心身のリラックス
- ストレッチ:筋肉の緊張緩和
社会的サポート
- 家族・友人との交流:孤立感の解消
- 趣味活動:楽しみによるストレス軽減
- 専門カウンセリング:必要に応じて心理的支援
7.3 睡眠の質向上
睡眠と皮膚健康の関係
- 成長ホルモン分泌:皮膚の修復・再生
- 免疫機能:感染抵抗力の維持
- ストレスホルモン:コルチゾールの正常化
良質な睡眠のための環境整備
睡眠環境
- 室温:18-22℃の快適温度
- 湿度:50-60%の適正湿度
- 照明:暗い環境での入眠
- 騒音対策:静かな環境の確保
睡眠習慣
- 規則正しい就寝時間:体内時計の調整
- 就寝前ルーティン:リラックス活動
- スクリーンタイム制限:就寝2時間前から電子機器を避ける
- カフェイン制限:午後3時以降は避ける
8. 予防と日常のケア
8.1 スキンケアの基本
洗浄のポイント
頭皮ケア
- シャンプー頻度:毎日または隔日
- マッサージ:指の腹で優しく洗浄
- すすぎ:3-5分間の十分な洗い流し
- タオルドライ:摩擦を避けて押さえるように
顔面ケア
- 洗顔料選択:低刺激、弱酸性
- 洗顔方法:泡立てネットで十分泡立て
- 温度:ぬるま湯(32-34℃)
- 頻度:朝晩2回
保湿ケア
保湿剤の選択
- セラミド:バリア機能修復
- ヒアルロン酸:水分保持力向上
- スクワラン:皮脂様成分で自然な保護
- ヘパリン類似物質:血行促進と保湿
塗布方法
- タイミング:洗浄後3分以内
- 量:べたつかない程度の適量
- 手技:優しく押さえるように塗布
- 頻度:1日2-3回
8.2 環境因子の管理
室内環境
湿度管理
- 加湿器使用:冬季の乾燥対策(50-60%維持)
- 換気:カビ・ダニの繁殖防止
- 清掃:ホコリ・アレルゲンの除去
寝具管理
- 枕カバー交換:週2-3回
- シーツ交換:週1回
- 布団干し:天日干しでダニ対策
- 材質選択:天然素材優先
衣類・身の回り品
衣類選択
- 素材:綿、麻など通気性の良い天然素材
- 洗濯:残留洗剤を避ける十分なすすぎ
- 柔軟剤:香料・刺激物質を避ける
ヘアケア用品
- シャンプー・リンス:低刺激、無香料優先
- 整髪料:最小限の使用
- ヘアブラシ:清潔な状態を維持
8.3 季節別対策
春季(3-5月)
- 花粉対策:外出時のマスク着用
- 紫外線対策:日焼け止めの使用開始
- 湿度調整:除湿器で適正湿度維持
夏季(6-8月)
- 汗対策:こまめな汗の拭き取り
- 日焼け止め:SPF30以上の使用
- エアコン:過度の冷房による乾燥注意
秋季(9-11月)
- 乾燥対策:保湿ケアの強化
- 気温変化:服装調整による体温管理
- 花粉:秋の花粉症対策
冬季(12-2月)
- 暖房対策:加湿器併用
- 入浴:長時間・高温入浴の回避
- 保湿強化:クリーム・軟膏タイプの使用
9. 受診の目安と医療機関選択
9.1 皮膚科受診が必要な症状
緊急性の高い症状
- 急激な悪化:短期間での症状拡大
- 二次感染の兆候:膿疱形成、強い痛み
- 全身症状:発熱、リンパ節腫脹
- 眼症状:結膜炎、視力異常
早期受診推奨症状
- 市販薬無効:1-2週間の適切な使用で改善なし
- 範囲拡大:顔面以外への症状拡散
- 日常生活支障:仕事・社会生活への影響
- 精神的負担:外見コンプレックス、QOL低下
定期受診推奨ケース
- 再発を繰り返す:年3回以上の症状再燃
- 慢性経過:6か月以上持続する症状
- 他疾患合併:アトピー性皮膚炎、乾癬など
- 薬剤選択困難:適切な治療薬の判断に迷う
9.2 医療機関の選択
皮膚科専門医の利点
専門性
- 診断精度:類似疾患との鑑別
- 治療選択:個別化医療の実践
- 新薬情報:最新治療法の提供
- 合併症管理:包括的な皮膚疾患ケア
設備・検査
- 真菌検査:KOH直接鏡検
- 細菌培養:二次感染の診断
- パッチテスト:アレルギー原因物質同定
- 皮膚生検:必要に応じた組織診断
医療機関選択のポイント
アクセス性
- 通院距離:継続治療のしやすさ
- 診療時間:ライフスタイルとの適合
- 予約システム:待ち時間の短縮
医療の質
- 専門医認定:日本皮膚科学会認定専門医
- 治療実績:脂漏性皮膚炎の治療経験
- 説明:十分な説明と相談時間
- フォローアップ:継続的な治療サポート
9.3 受診時の準備
症状記録
症状日記の作成
- 発症時期:いつから症状が始まったか
- 症状変化:良くなった時期、悪化した時期
- 誘因:症状悪化の要因(食事、ストレス等)
- 使用薬剤:これまで使用した市販薬と効果
質問事項の整理
治療に関する質問
- 治療期間:どの程度で改善が期待できるか
- 薬剤選択:なぜその薬が選ばれるのか
- 副作用:注意すべき副作用は何か
- 生活制限:日常生活で注意すべき点
予後に関する質問
- 再発可能性:完治する可能性はあるか
- 悪化要因:避けるべき要因は何か
- 予防法:再発予防のための方法
- 長期フォロー:どの程度の通院が必要か

10. 最新の研究動向と将来展望
10.1 病因研究の進展
マイクロバイオーム研究
皮膚常在菌叢の解析
- 次世代シーケンシング:詳細な菌叢プロファイリング
- 機能解析:菌叢の代謝産物と皮膚炎症の関係
- プロバイオティクス:有益菌による治療応用
免疫学的機序の解明
炎症カスケードの詳細解析
- Th17細胞:炎症性サイトカインの産生
- 自然免疫:パターン認識受容体の活性化
- 表皮バリア:ケラチノサイトの機能異常
10.2 新規治療薬の開発
分子標的薬
JAK阻害薬
- トファシチニブ:経口JAK阻害薬の応用
- 外用JAK阻害薬:局所での抗炎症効果
- 選択的阻害:副作用軽減を目指した開発
生物学的製剤
抗体医薬品
- 抗IL-17抗体:Th17経路の阻害
- 抗TNF-α抗体:炎症性サイトカインの中和
- 応用可能性:重症例への治療選択肢
新規抗真菌薬
マラセチア特異的薬剤
- 選択的抗真菌薬:マラセチア属に特化した薬剤
- バイオフィルム阻害:菌の付着・増殖阻害
- 耐性対策:薬剤耐性マラセチアへの対応
10.3 個別化医療の発展
遺伝子診断
感受性遺伝子の同定
- 多型解析:個人の治療反応性予測
- 薬物代謝:薬剤の個別投与量設定
- 副作用予測:遺伝的素因による副作用リスク評価
人工知能の活用
診断支援システム
- 画像解析AI:皮疹パターンの自動診断
- 治療効果予測:個人特性に基づく治療選択
- 遠隔医療:在宅での症状モニタリング
まとめ
脂漏性皮膚炎は皮脂分泌の多い部位に生じる慢性的な皮膚疾患で、マラセチア菌の関与が重要な病因となっています。症状は多岐にわたり、患者さんのQOLに大きな影響を与える可能性があります。
市販薬の現状と限界について、現在日本では有効な抗真菌薬(ケトコナゾールなど)は処方薬としてのみ入手可能であり、市販薬での根本治療には限界があります。しかし、軽度の症状に対してはステロイド外用薬や適切なスキンケア製品により、ある程度の症状軽減は期待できます。
効果的な治療のためには、医療機関での正確な診断と適切な薬剤選択が重要です。特に抗真菌薬による治療は脂漏性皮膚炎の根本治療として位置づけられており、症状の改善と再発予防に有効です。
生活習慣の改善も治療の重要な要素です。適切な食事、ストレス管理、質の良い睡眠、正しいスキンケアは、薬物治療と合わせて症状の改善と予防に寄与します。
症状が軽度で一時的なものであれば市販薬での対症療法も選択肢となりますが、症状が持続する場合や繰り返す場合は、早期の皮膚科受診をお勧めします。適切な治療により、多くの患者さんで症状の著明な改善が期待できます。
脂漏性皮膚炎は決して一人で悩む必要のある疾患ではありません。正しい知識と適切な治療により、健やかな肌を取り戻すことが可能です。
参考文献
- 日本皮膚科学会. “脂漏性皮膚炎診療ガイドライン”. 日本皮膚科学会雑誌. https://www.dermatol.or.jp/
- 厚生労働省. “スイッチOTC医薬品の候補となる成分及びその検討結果について”. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144557.html
- マルホ株式会社. “脂漏性皮膚炎って、どんな病気?”. https://www.maruho.co.jp/kanja/shirouseihifuen/
- 公益社団法人日本皮膚科学会. “皮膚科Q&A 脂漏性皮膚炎”. https://www.dermatol.or.jp/qa/
- 厚生労働省. “医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議”. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000127534.html
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務