はじめに
目のきわに突然現れる白いできもの。鏡を見て気づいたとき、多くの方が「これは何だろう?」「大丈夫だろうか?」と不安を感じることでしょう。実際に、アイシークリニック上野院にも「目のふちに白いブツブツができた」「まぶたに白いしこりがある」といったお悩みで受診される患者様が数多くいらっしゃいます。
目のきわにできる白いできものは、多くの場合、深刻な病気ではありませんが、適切な対処法を知っていないと症状が長引いたり、悪化したりする可能性があります。また、稀に悪性腫瘍である場合もあり、正確な診断と適切な治療が重要です。
本記事では、目のきわにできる白いできものの主な原因、症状の特徴、適切な治療法、そして日常生活でできる予防策について、専門医の視点から詳しく解説いたします。目の健康を守るための正しい知識を身につけ、安心して日常生活を送れるよう、ぜひ最後までお読みください。

目のきわの白いできものの主な原因
1. 霰粒腫(さんりゅうしゅ)
霰粒腫は、目のきわにできる白いできものの中で最も一般的な疾患の一つです。まぶたの中にある「マイボーム腺」という脂を分泌する腺が詰まることで発生します。
霰粒腫の特徴
- 痛みを伴わないことが多い
- 硬いしこりとして触れる
- 徐々に大きくなる傾向がある
- 上まぶた・下まぶたのどちらにもできる可能性がある
- まぶたの奥の方に発生することが多い
霰粒腫は、マイボーム腺の出口が何らかの原因で塞がれることで、腺内に粥状の分泌物が蓄積し、慢性的な炎症を起こした状態です。細菌感染を伴わない無菌性の炎症であることが、後述する麦粒腫との大きな違いです。
発症要因
- 加齢による腺機能の低下
- マイボーム腺機能不全
- 不適切なアイメイク(アイラインを睫毛の根元に引くなど)
- メイク落としの不十分
- ストレスや疲労によるホルモンバランスの乱れ
- 油分の多い食事
2. 麦粒腫(ばくりゅうしゅ)
麦粒腫は、一般的に「ものもらい」と呼ばれる疾患で、細菌感染が原因で発生します。
麦粒腫の種類
外麦粒腫:まつげの毛根部分の皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に細菌が感染 内麦粒腫:まぶたの中にあるマイボーム腺に細菌が感染
麦粒腫の特徴
- 強い痛みや痒みを伴う
- まぶたの赤い腫れ
- 白目の充血
- まばたき時の不快感
- 膿が出ることがある
原因菌
- 黄色ブドウ球菌(最も多い)
- 表皮ブドウ球菌
これらはまぶたの常在菌でもありますが、免疫力の低下や不衛生な環境で病原性を示します。
3. マイボーム腺梗塞・マイボーム腺機能不全(MGD)
マイボーム腺機能不全(Meibomian Gland Dysfunction: MGD)は、ドライアイ症状を訴える患者様の80%以上に見られる基礎疾患です。
マイボーム腺の役割
マイボーム腺は、まぶたの中に存在する約40-60個の脂腺で、涙の油層を形成する重要な役割を担っています。この油層により:
- 涙の蒸発を防ぐ
- 涙を眼表面に均等に広げる
- まばたき時の摩擦を軽減
- 細菌の侵入を防ぐ
MGDの症状
- 目の乾燥感
- 異物感・ゴロゴロ感
- 目の疲れ
- かすみ目
- まぶたの重い感じ
- 白い分泌物の詰まり
4. 結膜結石
結膜結石は、まぶたの裏側(眼瞼結膜)にできる白い小さな塊です。
結膜結石の特徴
- まぶたの裏に白い小石様のものができる
- 初期は無症状のことが多い
- 結石が表面に露出すると角膜に傷をつける可能性
- 慢性結膜炎や加齢が主な原因
症状の進行
- 初期:無症状
- 進行期:まばたき時の違和感
- 悪化期:痛み、涙目、異物感
5. その他の重要な疾患
脂腺癌
高齢者の霰粒腫様病変では、脂腺癌の可能性を考慮する必要があります。
脂腺癌の特徴:
- 形がいびつ
- 急速に大きくなる
- 表面がでこぼこしている
- 周囲のまつげが抜ける
- 何度も再発する
悪性リンパ腫
稀ですが、まぶたにも悪性リンパ腫が発生する可能性があります。
症状の特徴と見分け方
痛みの有無による分類
疾患名 | 痛み | その他の特徴 |
---|---|---|
霰粒腫 | なし(通常) | 硬いしこり、徐々に増大 |
麦粒腫 | あり(強い) | 赤い腫れ、膿が出ることも |
マイボーム腺梗塞 | なし(軽度の不快感) | 白い分泌物、目の乾燥 |
結膜結石 | なし(初期) | まぶたの裏、小さな白い塊 |
発症部位による分類
まぶたの表面:
- 外麦粒腫
- 皮膚側の霰粒腫
まぶたの奥:
- 内麦粒腫
- マイボーム腺の霰粒腫
まぶたの裏:
- 結膜結石
- 結膜側の霰粒腫
経過による分類
急性発症(数日で症状出現):
- 麦粒腫
- 急性霰粒腫
慢性経過(数週間〜数ヶ月):
- 一般的な霰粒腫
- マイボーム腺機能不全
- 結膜結石
診断方法
問診
医師は以下の点について詳しくお聞きします:
- 症状の発症時期
- 痛みや痒みの有無
- 過去の同様症状
- アイメイクの習慣
- コンタクトレンズの使用
- アレルギーの有無
視診・触診
- まぶたの外観の観察
- 腫れの範囲と程度
- しこりの硬さや可動性
- 周囲の皮膚の状態
細隙灯顕微鏡検査
- マイボーム腺の開口部の観察
- 分泌物の性状確認
- 眼瞼結膜の詳細な観察
マイボグラフィー
赤外線を用いてマイボーム腺の構造を可視化する最新の検査法です。マイボーム腺の:
- 萎縮の程度
- 欠損の範囲
- 構造の変化
を詳細に評価できます。
マイボーム腺圧出検査
マイボーム腺に圧力をかけて、分泌される脂の:
- 量
- 質(透明性、粘度)
- 色調
を評価します。
治療法
保存的治療
1. 温罨法(おんあんぽう)
最も基本的で効果的な治療法です。
ホットタオルによる方法:
- 清潔なタオルを水で濡らし、固く絞る
- ラップで包み、電子レンジで1分程度加熱
- 適温(40-45℃)に調整
- まぶたに5-10分間当てる
- 1日3回以上実施
市販のホットアイマスクを使用する方法:
- より手軽で安全
- 温度調整が不要
- 持続時間が一定
2. 眼瞼清拭(リッドハイジーン)
マイボーム腺周囲の清拭により:
- 細菌の除去
- 角化物の除去
- 脂の排出促進
実施方法:
- アイシャンプーや薄めたベビーシャンプーを使用
- 指の腹で睫毛の根元を優しくマッサージ
- 円を描くように清拭
- 十分に洗い流す
3. 薬物療法
点眼薬:
- 抗生剤点眼(麦粒腫の場合)
- レボフロキサシン点眼液
- ガチフロキサシン点眼液
- ステロイド点眼(霰粒腫の場合)
- プレドニゾロン点眼液
軟膏:
- 抗生剤軟膏
- オフロキサシン眼軟膏
- ステロイド軟膏
- プレドニゾロン眼軟膏
内服薬:
- 抗生剤(重症例)
- 漢方薬(体質改善)
4. ステロイド局所注射
霰粒腫に対して、病変内に直接ステロイドを注射する治療法です。
適応:
- 保存的治療で改善しない霰粒腫
- 手術を避けたい場合
効果:
- 炎症の抑制
- しこりの縮小
注意点:
- 眼圧上昇のリスク
- 局所的な皮膚萎縮の可能性
外科的治療
1. 霰粒腫摘出術
保存的治療で改善しない霰粒腫に対して実施されます。
手術方法:
- 局所麻酔の実施
- 皮膚切開または結膜切開
- 内容物の除去
- 縫合(皮膚切開の場合)
手術時間:約15分 入院:通常は日帰り
2. 麦粒腫切開排膿術
膿が貯留した麦粒腫に対して実施されます。
適応:
- 薬物療法で改善しない場合
- 膿瘍形成がある場合
最新の治療技術
1. IPL(Intense Pulsed Light)治療
光エネルギーを利用してマイボーム腺機能を改善する治療法です。
2. LipiFlow治療
温熱と圧迫を組み合わせた専用機器による治療法です。
3. 機械的眼瞼デブリードマン
医療用スポンジを回転させてまぶたの縁を清拭する治療法です。
予防法と日常ケア
1. 適切なアイメイクと除去
アイメイク時の注意点:
- アイラインを睫毛の根元に引かない
- マイボーム腺の開口部を塞がない
- 清潔な化粧品を使用する
メイク除去の重要性:
- 専用のアイメイクリムーバーを使用
- 優しく丁寧に除去
- 睫毛の根元までしっかりと清拭
2. 目元の衛生管理
日常的な清拭:
- 朝晩のアイシャンプー
- 清潔な手で目に触れる
- タオルは個人専用を使用
3. 生活習慣の改善
食事面:
- オメガ3脂肪酸を多く含む食品の摂取
- 青魚(サバ、イワシ、サンマ)
- えごま油
- クルミ
- 油っぽい食事を控える
睡眠とストレス管理:
- 十分な睡眠時間の確保
- ストレスの軽減
- 規則正しい生活
4. 環境要因への対策
コンタクトレンズ:
- 適切な装用時間を守る
- 定期的な交換
- 清潔な取り扱い
パソコン・スマートフォン使用時:
- 定期的な休憩
- 意識的なまばたき
- 適切な照明環境
5. マイボケア(マイボーム腺ケア)の実践
温罨法の継続
毎日の習慣として温罨法を実施することで:
- マイボーム腺の詰まりを予防
- 脂の排出を促進
- 血行改善効果
眼輪筋トレーニング
まばたきの質を向上させるトレーニング:
- 強く目を閉じて5秒間キープ
- ゆっくりと目を開く
- 1日10回程度実施
受診の目安
早急な受診が必要な症状
以下の症状がある場合は、速やかに眼科を受診してください:
- 強い痛みや発熱を伴う
- 視力の低下がある
- 急速に大きくなるできもの
- 形がいびつなできもの
- 周囲のまつげが抜ける
- 何度も同じ場所に再発する
様子を見ても良い症状
以下の場合は、数日間セルフケアを試みても構いません:
- 痛みがない小さなしこり
- 徐々に発症した症状
- 全身症状がない
ただし、1週間以上改善しない場合は受診を検討してください。
定期的な受診が推奨される方
- マイボーム腺機能不全の診断を受けている方
- ドライアイの治療中の方
- 繰り返し霰粒腫ができる方
- 高齢者で霰粒腫様の病変がある方
合併症と注意点
1. 感染の拡大
眼瞼膿瘍: 麦粒腫が悪化して、まぶた全体に感染が広がった状態
眼窩蜂窩織炎: 感染が眼窩内に拡大した重篤な状態
2. 慢性化
しこりの残存: 霰粒腫では治療後もしこりが残ることがあり、美容的な問題となる場合があります。
再発: 根本的な原因(MGDなど)が改善されないと、繰り返し発症する可能性があります。
3. 視機能への影響
大きな霰粒腫の場合:
- まぶたの形状変化による視野の制限
- 角膜への圧迫による乱視
- 眼瞼下垂様の症状

よくある質問(FAQ)
A1:絶対に自分でつぶしてはいけません。感染を悪化させたり、周囲の組織を傷つけたりする危険があります。
A2:症状がある間はコンタクトレンズの使用を中止し、眼鏡に切り替えることをお勧めします。
A3:軽症例では市販の目薬で改善することもありますが、適切な診断を受けてから使用することが重要です。
A4:局所麻酔を使用するため、手術中の痛みはほとんどありません。術後も軽度の不快感程度です。
A5:定期的なマイボケアと生活習慣の改善が最も効果的です。
まとめ
目のきわにできる白いできものは、多くの場合、霰粒腫、麦粒腫、マイボーム腺機能不全などの良性疾患です。しかし、適切な診断と治療を受けることで、症状の改善と再発予防が可能です。
重要なポイント:
- 早期受診:症状が続く場合は眼科専門医による診断を受ける
- 適切な治療:症状に応じた保存的治療または外科的治療を選択
- 継続的なケア:温罨法や眼瞼清拭などの日常ケアを習慣化
- 生活習慣の改善:食事、睡眠、ストレス管理に注意
- 定期的なフォローアップ:再発防止のための定期受診
目の健康は日常生活の質に大きく影響します。些細な症状でも気になることがあれば、ためらわずに専門医にご相談ください。アイシークリニック上野院では、最新の診断機器と豊富な経験を持つ専門医が、皆様の目の健康をサポートいたします。
適切な知識と継続的なケアにより、目のきわの白いできものは予防可能な疾患です。本記事でご紹介した内容を参考に、健康な目を維持していただければ幸いです。
参考文献
- 日本眼科学会「霰粒腫」 – https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=6
- LIME研究会「MGDについて」 – https://www.lime.jp/public/mgd.html
- LIME研究会「霰粒腫について」 – https://www.lime.jp/main/chalazion
- マイティアstyle「まぶたの裏などにできる白い出来物の正体は?その対処法や日常生活での注意点を解説」 – https://www.senju.co.jp/consumer/mytear/mytearstyle/eye-trouble/12
- 時事メディカル「マイボーム腺機能不全に注意 ドライアイ患者の8割以上発症」 – https://medical.jiji.com/topics/539
- メディカルドック「目のきわに白いできものができる原因はご存知ですか?医師が徹底解説!」 – https://medicaldoc.jp/symptoms/part_eye/sy0587/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務