はじめに
デリケートゾーンのかゆみは、多くの方が経験される不快な症状の一つです。その原因は様々ですが、中でもダニが関与する皮膚疾患は見過ごされがちな原因として注目されています。特に「疥癬(かいせん)」と呼ばれるヒゼンダニによる感染症は、陰部を含む全身に激しいかゆみを引き起こし、適切な診断と治療を要する重要な疾患です。
近年、高齢者施設や医療機関での集団感染が問題となっており、疥癬に対する正しい知識の普及が求められています。本記事では、ダニによる陰部のかゆみ、特に疥癬について、その原因、症状、診断、治療法、予防策まで、医学的根拠に基づいて詳しく解説いたします。

ダニによる陰部のかゆみとは
ダニの種類と特徴
陰部のかゆみを引き起こすダニとして最も重要なのは、**ヒゼンダニ(疥癬虫:Sarcoptes scabiei)**です。ヒゼンダニは、布団や畳に生息する一般的な家ダニとは全く異なる寄生虫で、人間の皮膚にのみ寄生します。
ヒゼンダニの特徴:
- 体長:成虫で約0.2~0.4mm
- 形状:楕円形で、肉眼では確認できない大きさ
- 生息場所:人間の皮膚の角質層
- 寿命:約4~6週間
- 特性:乾燥に弱く、50℃で10分間の環境で死滅
ヒゼンダニの生活環
ヒゼンダニは特殊なライフサイクルを持ちます:
- 交尾期:皮膚表面で雌雄が交尾
- 産卵期:受精した雌成虫が角質層に「疥癬トンネル」を掘り、1日2~3個の卵を産卵
- 孵化期:卵は3~4日で孵化し幼虫となる
- 成長期:約10~14日で成虫に成長
このサイクルにより、ヒゼンダニは人間の皮膚で継続的に繁殖し、症状を引き起こします。
疥癬(かいせん)について
疥癬の定義
疥癬とは、ヒゼンダニが人間の皮膚角質層に寄生することにより発症する感染症です。ヒゼンダニの虫体、糞、脱皮殻などに対するアレルギー反応によって皮膚病変と強いかゆみが生じることが特徴です。
疥癬の分類
疥癬は寄生するヒゼンダニの数により、以下の2つのタイプに分類されます:
1. 通常疥癬(普通疥癬)
- 寄生虫数:数十匹以下(通常10~15匹程度)
- 感染力:比較的弱い
- 症状:強いかゆみと特徴的な皮疹
- 好発年齢:全年齢
2. 角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
- 寄生虫数:100万~200万匹
- 感染力:非常に強い
- 症状:角質の異常増殖、全身の皮疹
- 好発者:免疫力低下者、高齢者
疫学
- 推定患者数:日本国内で年間8~15万人
- 好発施設:病院、高齢者施設、障がい者施設、保育園
- 感染経路:人と人との直接接触、寝具・衣類を介した間接接触
症状の特徴
通常疥癬の症状
主症状
1. 激しいかゆみ
- 特徴:夜間に増強する
- 程度:眠れないほどの強いかゆみ
- 持続期間:数週間~数ヶ月継続
- 発症機序:ヒゼンダニに対するアレルギー反応
2. 疥癬トンネル
- 外観:数mm~1cmの線状で軽度隆起した皮疹
- 色調:白っぽい線状
- 好発部位:手掌、指間、手首、足底
- 意義:疥癬診断の決定的な所見
3. 丘疹・結節
- 丘疹:赤色の小さな盛り上がり
- 結節:硬く盛り上がったしこり(特に男性の陰部に特徴的)
- 好発部位:胸部、腹部、腋窩、外陰部、大腿内側
陰部の症状
陰部における疥癬の症状は以下の通りです:
男性の場合:
- 外陰部結節:陰嚢や陰茎に硬いしこり(数mm大)
- 発生頻度:疥癬患者の約7%に認められる
- 特徴:コリコリとした触感、強いかゆみ
女性の場合:
- 外陰部丘疹:外陰部に赤い小さな盛り上がり
- かゆみ:激しいかゆみ、特に夜間
- 併発症状:掻破による二次感染のリスク
角化型疥癬の症状
1. 角質増殖
- 外観:灰色~黄白色のざらざらした厚い角質
- 好発部位:手足、臀部、肘、膝
- 特徴:カキ殻様の外観
2. 全身症状
- 皮疹:全身に及ぶ紅斑、鱗屑
- かゆみ:個人差があり、強い場合と軽微な場合がある
- 爪症状:爪の混濁、肥厚
潜伏期間
初回感染:1~2ヶ月の潜伏期間 再感染:数日~2週間(既存のアレルギー反応により短縮)
この潜伏期間中は症状がないため、知らないうちに周囲に感染を拡大させるリスクがあります。
診断方法
診断の基本方針
疥癬の診断は以下の要素を総合的に評価して行います:
1. 病歴聴取
- 夜間の激しいかゆみの有無
- 家族や施設内での類似症状者の存在
- 接触歴(感染者との接触機会)
2. 身体診察
- 疥癬トンネルの検索
- 特徴的な皮疹の確認
- 好発部位の観察
3. 検査所見
- 顕微鏡検査
- ダーモスコピー検査
具体的な診断方法
顕微鏡検査
手技:
- 疥癬トンネルや皮疹部から皮膚を削取
- KOH溶液で処理
- 顕微鏡下でヒゼンダニ、卵、糞の確認
診断精度:
- 陽性率:皮膚科専門医が行っても約60%
- 検出困難な理由:ダニの数が少ない、検体採取部位の問題
ダーモスコピー検査
方法:
- 特殊な拡大鏡を使用
- 疥癬トンネル先端部の観察
- ヒゼンダニの直接確認
利点:
- 非侵襲的
- リアルタイムでの観察可能
- 患者への負担が少ない
診断基準
確定診断:
- ヒゼンダニ、卵、糞のいずれかを検出
- 疥癬トンネルの確認
臨床診断:
- 特徴的な症状(夜間のかゆみ)
- 好発部位の皮疹
- 接触歴
- 家族内発症
鑑別診断
疥癬と鑑別すべき疾患:
1. 接触皮膚炎(かぶれ)
- 原因物質への接触歴
- 接触部位に限局した皮疹
2. アトピー性皮膚炎
- 慢性経過
- 特徴的な分布
- 家族歴
3. 虫刺症
- 季節性
- 露出部位に限局
- 刺咬歴
4. 湿疹
- 急性期、慢性期の特徴的な経過
- 疥癬トンネルの欠如
治療法
治療の基本方針
疥癬の治療はヒゼンダニの駆除が主目的です。日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン第3版では、以下の治療薬が推奨されています。
第一選択薬
1. イベルメクチン内服薬(ストロメクトール錠)
作用機序:
- 無脊椎動物の神経・筋細胞のクロールチャンネルに作用
- 神経伝達を阻害し、寄生虫を麻痺・死滅させる
用法・用量:
- 体重1kgあたり約200μg を1回経口投与
- 1週間後に効果判定し、必要に応じて2回目投与
服用方法:
- 空腹時に水で服用
- 高脂肪食は薬物濃度を上昇させるため避ける
**推奨度:**A(行うよう強く推奨される)
体重別投与量:
- 15~24kg:3mg(1錠)
- 25~35kg:6mg(2錠)
- 36~50kg:9mg(3錠)
- 51~65kg:12mg(4錠)
- 66~79kg:15mg(5錠)
- 80kg以上:体重に応じて計算
2. フェノトリン外用薬(スミスリンローション)
作用機序:
- ピレスロイド系殺虫剤
- 神経細胞のナトリウムチャンネルに作用
用法・用量:
- 1回30gを頸部以下の全身に塗布
- 12時間以上経過後に洗い流す
- 1週間間隔で最低2回塗布
塗布方法:
- 入浴後に皮疹の有無に関わらず全身に塗布
- 手指、足指、外陰部は念入りに塗布
- 高齢者・乳幼児は顔面・頭部も含める
**推奨度:**A(行うよう強く推奨される)
第二選択薬・補助的治療薬
クロタミトンクリーム(オイラックスクリーム)
- 用法:全身塗布後24時間で洗い流す
- 期間:10-14日間
- 注意:効果がペルメトリンより劣ることが報告されている
- 保険適用:適用外だが審査上認められている
イオウ軟膏
- 濃度:5~10%
- 用法:24時間塗布後洗い流し、2~5日間継続
- 推奨度:C1(十分な根拠はないが考慮してもよい)
角化型疥癬の治療
基本方針:
- イベルメクチン内服とフェノトリン外用の併用
- 過剰角質層の除去
具体的治療:
- 角質軟化剤(尿素軟膏など)による前処置
- 入浴時の物理的角質除去
- イベルメクチンとフェノトリンの併用療法
- 必要に応じて複数回の治療
対症療法
かゆみ止めの処方
抗ヒスタミン薬:
- セチリジン、フェキソフェナジン等
- 内服により全身のかゆみを軽減
ステロイド外用薬:
- ヒゼンダニ駆除確認後に使用
- 残存するアレルギー反応による皮疹・かゆみに対して
治療期間と効果判定
効果判定の時期:
- イベルメクチン:1週間後
- フェノトリン:1週間後の2回目塗布前
判定方法:
- ヒゼンダニの検出試験
- 疥癬トンネルの新生確認
- 臨床症状の評価
治癒判定:
- 1~2週間隔で2回連続してヒゼンダニを検出できない
- 疥癬トンネルの新生がない
- ただし数ヶ月間のフォローアップが必要
治療上の注意点
治療初期の症状増悪:
- ダニの死滅によるアレルギー反応の増強
- 一時的なかゆみの増悪
- 患者への事前説明が重要
治療抵抗性の場合:
- 診断の再検討
- 治療コンプライアンスの確認
- 再感染・ピンポン感染の可能性
- 薬剤耐性ヒゼンダニの可能性
特殊な状況での治療
妊娠中の治療
- 第一選択:フェノトリン外用(安全性は未確立だが使用可能)
- イベルメクチン:妊婦への安全性は確立していない
小児の治療
- 体重15kg未満:イベルメクチンは使用不可
- 第一選択:フェノトリン外用
- 塗布範囲:顔面・頭部も含める
授乳中の治療
- フェノトリン:1週間は授乳中止が推奨
- 患者・家族への十分な説明と同意が必要
予防策と日常生活での注意点
基本的な予防原則
疥癬の予防は感染源との接触を避けることが最重要です。ヒゼンダニは人から人への直接接触により感染するため、以下の予防策が有効です。
一般家庭での予防策
通常疥癬の場合
接触感染の予防:
- 長時間の肌と肌の直接接触を避ける
- 同じベッドで就寝しない
- 手をつなぐなどの濃厚接触を控える
間接感染の予防:
- 寝具(布団、シーツ、枕カバー)の共用を避ける
- タオル、衣類の共用を控える
- 入浴時のバスマットの共用を避ける
環境対策:
- 通常の洗濯で十分(特別な消毒は不要)
- 掃除機による清掃(殺虫剤散布は不要)
- 50℃、10分間の熱処理で確実に死滅
角化型疥癬の場合
厳重な隔離対策:
- 可能な限り個室での生活
- 接触時は手袋、ガウンの着用
- N95マスクの着用(飛散する角質の吸入予防)
環境の徹底的清掃:
- 衣類、シーツの毎日交換
- 50℃以上の湯に10分以上浸漬後洗濯
- 寝具、マットの掃除機による清掃
- 居室への殺虫剤散布(治療開始時・終了時)
医療機関・介護施設での予防策
通常疥癬患者への対応
標準予防策の徹底:
- 手洗いの励行(最も重要)
- 必要に応じて手袋着用
- 長袖エプロンの着用(入浴介助時等)
環境管理:
- 通常の清拭・清掃
- リネン交換の適切な実施
- 特別な隔離は不要
角化型疥癬患者への対応
厳重な感染予防策:
- 個室管理の徹底
- 接触予防策の実施
- PPE(個人防護具)の適切な着用
- 入室者の制限・記録
職員の健康管理:
- 症状出現時の早期受診
- 定期的な皮膚観察
- 感染対策教育の実施
集団発生時の対応
早期発見・早期対応
症状のチェックポイント:
- 夜間の激しいかゆみ
- 皮膚の湿疹やしこり
- 手のひらの線状皮疹(疥癬トンネル)
- 家族・同居者の類似症状
対応フロー:
- 疑い症例の早期発見
- 皮膚科専門医への受診
- 確定診断後の治療開始
- 接触者の調査・観察
- 必要に応じた予防治療
予防治療の適応
対象者:
- 確定診断患者と濃厚接触した無症状者
- 集団発生時の高リスク者
- 角化型疥癬患者との接触者
実施時期:
- 接触から1~2ヶ月以内
- 症状出現前の潜伏期間中
日常生活での注意点
個人の衛生管理
皮膚の清潔保持:
- 毎日の入浴・シャワー
- 適切な石鹸の使用
- 清潔な衣類の着用
免疫力の維持:
- バランスの取れた栄養摂取
- 十分な睡眠
- 適度な運動
- ストレス管理
生活環境の整備
住環境の管理:
- 適切な温度・湿度の維持
- 定期的な換気
- 布団・寝具の天日干し
衛生用品の管理:
- 個人専用タオルの使用
- 寝具の定期的な交換・洗濯
- 衣類の適切な管理
社会復帰・学校復帰の基準
復帰可能な条件
- 適切な治療の完了
- ヒゼンダニの検出陰性
- 疥癬トンネルの新生なし
- 医師による復帰許可
継続的観察の必要性
- 治療後数ヶ月間の経過観察
- 症状再燃時の早期受診
- 定期的な皮膚チェック

よくある質問(FAQ)
Q1: 疥癬は性感染症ですか?
A1: 疥癬は性行為により感染することがありますが、純粋な性感染症ではありません。主な感染経路は以下の通りです:
- 直接接触感染:長時間の皮膚と皮膚の接触
- 間接接触感染:寝具、衣類を介した感染
- 性的接触:性行為時の濃厚な皮膚接触
- 家族間感染:同居家族間での感染
- 施設内感染:介護施設や医療機関での感染
性的接触以外の日常的な接触でも感染するため、性感染症として分類されていません。
Q2: 疥癬は自然治癒しますか?
A2: 疥癬は自然治癒しません。理由は以下の通りです:
- ヒゼンダニは継続的に繁殖を続ける
- 免疫系だけではダニを完全に駆除できない
- 治療せずに放置すると症状が悪化
- 角化型疥癬に進行するリスク
- 周囲への感染拡大の危険性
必ず医療機関での適切な診断・治療が必要です。
Q3: 家族が疥癬になった場合、どう対応すべきですか?
A3: 家族が疥癬と診断された場合の対応:
即座に行うべきこと:
- 皮膚科受診:無症状でも全家族が受診
- 接触の制限:長時間の直接接触を避ける
- 寝室の分離:可能な限り別室で就寝
- 寝具・衣類の分離:個別に使用・洗濯
継続的な対応:
- 症状の観察(1~2ヶ月間)
- 手洗いの励行
- 適切な治療の継続
- 医師の指示に従った予防治療
Q4: 疥癬の治療中、仕事や学校は休む必要がありますか?
A4: 治療開始後の対応は疥癬のタイプにより異なります:
通常疥癬の場合:
- 治療開始後24~48時間で感染性は大幅に低下
- 医師の判断により早期復帰可能
- 症状改善を確認してからの復帰が望ましい
角化型疥癬の場合:
- 完全な治癒確認まで休業が必要
- 医師による復帰許可が必須
- より長期間の療養が必要
共通事項:
- 職場・学校への報告と相談
- 医師による診断書の提出
- 復帰後の継続的な観察
Q5: 疥癬の薬に副作用はありますか?
A5: 疥癬治療薬には以下の副作用の可能性があります:
イベルメクチン(内服薬)の副作用:
- 消化器症状:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢
- 神経系症状:めまい、眠気、意識障害(稀)
- 肝機能障害:AST・ALT上昇(稀だが重篤)
- 皮膚症状:一時的なかゆみの増悪
フェノトリン(外用薬)の副作用:
- 局所反応:皮膚刺激、発赤、かゆみ
- アレルギー反応:接触皮膚炎(稀)
注意点:
- 副作用出現時は速やかに医師に相談
- 自己判断で治療を中断しない
- 定期的な経過観察が重要
Q6: ペットから疥癬に感染することはありますか?
A6: ペットから人への疥癬感染は基本的にありません。理由:
- ヒゼンダニは宿主特異性が高い
- 人間に寄生するヒゼンダニは人間のみに適応
- 犬・猫のニキビダニとは別種
- 動物の疥癬と人間の疥癬は異なる疾患
ただし、以下の点にご注意ください:
- 稀に動物由来ダニによる一時的な皮膚炎は起こりうる
- ペットの皮膚症状は獣医師に相談
- 人間の症状は皮膚科医に相談
Q7: 疥癬の再発はありますか?
A7: 疥癬の再発には以下のパターンがあります:
真の再発(再燃):
- 治療不完全による残存ダニの再増殖
- 高齢者に多い傾向
- 数ヶ月後に症状再出現
再感染:
- 治癒後の新たな感染
- 家族間でのピンポン感染
- 施設内での再感染
疥癬後瘙痒症:
- ダニ駆除後も続くアレルギー反応
- 数週間~数ヶ月継続
- 真の再発ではない
予防策:
- 完全な治療の遂行
- 家族全員の同時治療
- 定期的な経過観察
Q8: 妊娠中に疥癬になった場合はどうすればよいですか?
A8: 妊娠中の疥癬治療について:
安全な治療選択肢:
- フェノトリン外用:第一選択
- 安全性は完全に確立していないが使用可能
- 局所作用のため全身への影響は限定的
注意すべき薬剤:
- イベルメクチン内服:妊婦への安全性未確立
- 必要性と危険性を十分検討して使用
妊娠中の管理:
- 産婦人科医と皮膚科医の連携
- 治療選択肢の十分な説明と同意
- 胎児への影響のモニタリング
- 症状の慎重な経過観察
Q9: 疥癬の診断は確実にできるのですか?
A9: 疥癬の診断には以下の課題があります:
診断の困難性:
- 検出率:皮膚科専門医でも約60%
- ダニの数:通常疥癬では10~15匹と少ない
- 検体採取:適切な部位の選択が必要
- 初期症状:疥癬トンネルが見つからないことが多い
診断精度向上の取り組み:
- ダーモスコピー検査の活用
- 複数回の検査実施
- 臨床症状との総合判断
- 接触歴の詳細な聴取
診断の考え方:
- 疑わしい症状では積極的に検査
- 陰性でも臨床的に疑われる場合は治療考慮
- 経過観察による症状の変化を重視
Q10: 疥癬以外で陰部にかゆみを起こすダニはいますか?
A10: 陰部のかゆみを起こす主なダニ類:
疥癬(ヒゼンダニ):
- 最も重要で頻度の高いダニ感染症
- 専門的治療が必要
その他のダニによる皮膚炎:
- ニキビダニ:主に顔面、陰部には通常寄生しない
- イエダニ:家屋内のダニ、一時的な刺咬のみ
- ツツガムシ:野外活動時の刺咬、陰部は稀
陰部かゆみの他の原因:
- カンジダ性外陰炎
- 細菌性膣炎
- 接触皮膚炎(かぶれ)
- アトピー性皮膚炎
- 毛じらみ症(寄生虫、ダニではない)
適切な診断のために:
- 皮膚科での専門的診断
- 必要に応じて婦人科受診
- 原因の特定と適切な治療
まとめ
陰部のかゆみを引き起こすダニ、特に疥癬について詳しく解説してきました。疥癬は適切な診断と治療により完治可能な疾患ですが、見過ごされやすく、また感染力があるため早期発見・早期治療が極めて重要です。
重要なポイント
1. 症状の特徴を理解する
- 夜間に増強する激しいかゆみ
- 陰部を含む特徴的な部位の皮疹
- 家族内での類似症状の発生
2. 早期受診の重要性
- 症状があれば迷わず皮膚科受診
- 自己診断・自己治療は避ける
- 接触者の早期受診も重要
3. 適切な治療の継続
- 医師の指示に従った薬剤使用
- 治療期間の遵守
- 副作用出現時の速やかな相談
4. 感染予防策の実施
- 基本的な感染対策の励行
- 家族・同居者への配慮
- 環境整備と衛生管理
5. 継続的な経過観察
- 治療後の定期的なフォローアップ
- 症状再燃時の早期対応
- 長期的な健康管理
最後に
疥癬による陰部のかゆみは、患者さんにとって身体的・精神的に大きな負担となる疾患です。しかし、現代医学では確実に治癒可能な疾患でもあります。重要なのは、恥ずかしがらずに適切な医療機関を受診し、専門医による正確な診断と適切な治療を受けることです。
また、疥癬は感染症であるため、個人の問題に留まらず、家族や周囲の人々への配慮も必要です。正しい知識を持ち、適切な予防策を実施することで、感染の拡大を防ぎ、より良い治療結果を得ることができます。
参考文献
- 日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン策定委員会. 疥癬診療ガイドライン(第3版). 日本皮膚科学会雑誌. 2015; 125(11): 2023-2048.
- 国立感染症研究所感染症情報センター. 疥癬とは. 2024年アクセス.
- 公益社団法人日本皮膚科学会. 疥癬(かいせん)- 皮膚科Q&A. 2024年アクセス.
- 厚生労働省. 高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版. 2019年改訂版.
- Chosidow O. Clinical practices. Scabies. N Engl J Med. 2006; 354(16): 1718-1727.
- Johnston G, Sladden M. Scabies: diagnosis and treatment. BMJ. 2005; 331(7517): 619-622.
- マルホ株式会社医療関係者向けサイト. 疥癬対策マニュアル. 2024年アクセス.
- Strong M, Johnstone PW. Interventions for treating scabies. Cochrane Database Syst Rev. 2007; (3): CD000320.
- 和歌山市感染症情報センター. 疥癬(かいせん). 2024年アクセス.
- Bernigaud C, Thang DT, Kazama S, et al. Influence of permethrin and ivermectin resistance on the prevalence of scabies. Arch Dermatol. 2012; 148(8): 959-960.
関連記事
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務