多汗症は、体温調節に必要な量を超えて、日常生活に支障をきたすほど大量の汗をかく状態を指します。特に手のひら、足の裏、脇の下、顔面などに集中して汗をかくことが多く、社会生活や精神面にも大きな影響を与えることがあります。この症状は単なる体質だと諦めてしまいがちですが、適切な原因究明と治療によって、症状を大幅に改善し、生活の質(QOL)を高めることが可能です。この記事では、多汗症の具体的な原因から、部位別の症状、ご自宅でできるセルフケア、そして医療機関での専門的な治療法まで、幅広く解説していきます。多汗症でお悩みの方が、自分に合った対策を見つけ、より快適な日々を送るための一助となれば幸いです。
多汗症の原因と治療法|部位別の改善策と病院での対処法
多汗症とは?基礎知識と症状
多汗症とは、体温調節の必要がない、あるいは体が冷えているにもかかわらず、局所的または全身性に過剰な発汗が生じる状態を指します。私たちの体には約200〜500万個のエクリン汗腺があり、これらが自律神経の働きによって発汗を調整しています。しかし、多汗症の場合、この発汗調整機能が何らかの原因で過剰に働き、必要以上の汗を分泌してしまうのです。発汗量の基準としては、特に医学的な明確な基準はありませんが、日常生活に支障をきたすほどの汗であれば、多汗症であると判断されることが多いです。多汗症は決して珍しい病気ではなく、人口の数パーセントが悩んでいるとされており、年齢や性別に関わらず発症する可能性があります。
多汗症の主な原因
多汗症は、大きく分けて「原発性多汗症」と「続発性多汗症」の2種類に分類されます。それぞれ原因が異なるため、適切な治療法を選ぶ上で原因の特定が重要となります。
原発性多汗症の原因
原発性多汗症は、特定の病気や薬剤が原因ではない多汗症を指し、その原因はまだ完全に解明されていません。しかし、以下の要因が関与していると考えられています。
- 自律神経の過活動: 汗の分泌をコントロールしているのは交感神経という自律神経です。原発性多汗症の患者さんでは、この交感神経が通常よりも過敏に反応し、わずかな刺激や精神的な緊張でも過剰に汗を分泌してしまう傾向があります。特に、手のひらや足の裏、脇の下、顔面など特定の部位に集中して発汗が見られることが多いです。これは、これらの部位に汗腺が多く集まっており、交感神経の支配が密接に関わっているためと考えられています。
- 遺伝的要因: 近年の研究では、多汗症が家族内で発症するケースが多いことから、遺伝的な素因が関与している可能性が指摘されています。特定の遺伝子変異が、汗腺の機能や交感神経の感受性に影響を与えているのではないかと考えられています。ただし、具体的な遺伝子はまだ特定されていません。
- 精神的要因: ストレス、不安、緊張などの精神的な要因が、多汗症の発作を引き起こしたり、症状を悪化させたりすることがよく知られています。人前での発表や重要な会議など、精神的なプレッシャーがかかる状況で汗が止まらなくなり、それがさらにストレスとなり、悪循環に陥るケースも少なくありません。
これらの要因が複雑に絡み合い、原発性多汗症として現れると考えられています。
続発性多汗症の原因
続発性多汗症は、何らかの基礎疾患や薬剤の副作用として発汗量が増加する多汗症です。原因となる病気や薬剤を特定し、それらに対処することで症状の改善が見込まれます。
基礎疾患によるもの:
特定の疾患が、体の代謝やホルモンバランス、神経系に影響を与え、全身性または局所的な発汗増加を引き起こすことがあります。
- 甲状腺機能亢進症: 甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、全身の代謝が活発になり、体温が上昇しやすくなります。これに伴い、全身性の発汗が顕著になることがあります。動悸、体重減少、手の震えなどの症状も伴うことが多いです。
- 糖尿病: 血糖値が高い状態が続くと、自律神経に障害が起こりやすくなります。特に、夜間の寝汗や上半身の多汗、あるいは足の裏の乾燥といった特有の症状が現れることがあります。
- 更年期障害: 女性の場合、更年期にはホルモンバランスの変動により、ホットフラッシュと呼ばれる突然のほてりや発汗が生じることがあります。男性も更年期に同様の症状が出ることがあります。
- 感染症: 結核やマラリアなど、発熱を伴う感染症では、体温調節のために多量の汗をかくことがあります。特に解熱期に寝汗がひどくなることもあります。
- 神経疾患: パーキンソン病や脳卒中など、自律神経の働きを司る脳や神経に異常が生じる病気では、汗腺のコントロールがうまくいかなくなり、多汗症の症状が出ることがあります。
- 腫瘍: ホジキン病などのリンパ腫や、褐色細胞腫といった一部の腫瘍は、全身性の発汗や寝汗の原因となることがあります。
薬剤によるもの:
特定の薬剤の副作用として、発汗量が増加することがあります。
- 抗うつ薬: 特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)など一部の抗うつ薬は、自律神経に作用し、発汗増加の副作用が見られることがあります。
- 降圧剤: 一部の降圧剤や血糖降下薬なども、発汗に影響を与える可能性があります。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 解熱作用のあるこれらの薬剤は、体温を下げる過程で発汗を促すことがあります。
これらの疾患や薬剤が原因で多汗症の症状が出ている場合、まずは原因となっている病気の治療や薬剤の見直しが優先されます。ご自身で判断せず、必ず医師に相談することが重要です。
多汗症の症状と部位
多汗症の症状は、その発汗量だけでなく、汗をかく部位によって日常生活に与える影響が大きく異なります。特定の部位に集中して汗をかく「局所性多汗症」と、全身に汗をかく「全身性多汗症」があります。ここでは、特に悩むことの多い局所性多汗症の各部位に焦点を当てて解説します。
手汗症(手掌多汗症)
手汗症は、手のひらに過剰な汗をかく症状で、多汗症の中でも特に多くの人が悩んでいます。その特徴と日常生活への影響は以下の通りです。
- 特徴: 緊張やストレスなどの精神的な刺激によって症状が悪化しやすいのが特徴です。暑い環境でなくても、年間を通して汗をかくことがあります。ひどい場合は、手のひらから汗が滴り落ちることもあります。
- 日常生活への影響:
- 対人関係: 握手をする際に躊躇したり、手をつなぐことを避けたりするなど、人との接触を避けるようになることがあります。
- 学業・仕事: 書類や教科書が汗で濡れてしわになったり、ペンや工具、キーボードなどが滑りやすくなったりして、作業効率が低下することがあります。試験用紙が汗で濡れて困るという学生も多いです。
- 趣味・スポーツ: スポーツで道具(バット、ラケットなど)が滑りやすくなったり、楽器演奏(ギター、ピアノなど)で指が滑ったり、湿気で楽器を傷めてしまったりすることがあります。
- その他: スマートフォンやタブレットの操作がしにくくなったり、ドアノブや手すりが滑ったりすることもあります。手汗による冷えや、湿疹、かぶれなどの皮膚トラブルを併発することもあります。
手汗は他人から見えやすく、日常生活のあらゆる場面で影響を及ぼすため、精神的な負担も大きくなりがちです。
脇汗症(腋窩多汗症)
脇汗症は、脇の下に過剰な汗をかく症状で、特に衣服への影響が大きく、悩みの種となることが多いです。
- 特徴: 精神的な要因だけでなく、気温の上昇や運動、緊張などでも大量の汗をかきます。汗染みができやすく、放置すると雑菌が繁殖して臭いの原因となることもあります。
- 日常生活への影響:
- 衣服の汗染み: シャツやブラウスの脇部分に大きな汗染みができやすく、人目が気になります。これにより、着る服が制限されたり、何度も着替える必要が生じたりします。
- 臭い(ワキガとの違い): 汗自体は無臭ですが、脇の皮膚に存在する細菌が汗の成分を分解することで、特有の臭い(体臭)が発生することがあります。これは多汗症とワキガ(腋臭症)が混同されやすい点ですが、ワキガはアポクリン汗腺から分泌される脂質やタンパク質を含む汗が原因であり、多汗症はエクリン汗腺からの水分の多い汗が原因です。ただし、多汗症によって脇が常に湿潤状態にあると、細菌が繁殖しやすくなり、臭いが強まる傾向があります。
- 精神的負担: 汗染みや臭いを気にすることで、自信が持てなくなったり、人との距離を置いたりするなど、社会生活に支障をきたすことがあります。
脇汗は特に夏場に顕著になりますが、冬場でも厚着や暖房の効いた室内で汗をかくことがあります。
顔汗症(顔面多汗症)
顔汗症は、額、頬、鼻、上唇などに過剰な汗をかく症状で、視覚的に目立ちやすく、対人関係やメイクに大きな影響を及ぼします。
- 特徴: 精神的な緊張やストレス、食事、気温の上昇など、さまざまな刺激で顔に大量の汗をかきます。顔から汗が滴り落ち、視界を妨げることもあります。
- 日常生活への影響:
- 見た目への影響: 顔が常に汗で濡れているように見えたり、赤みを帯びたりすることで、清潔感が損なわれると感じることがあります。人前で顔汗をかくことに強い羞恥心を感じる人も少なくありません。
- メイクの崩れ: 女性の場合、メイクが汗で流れ落ちやすくなり、化粧直しが頻繁に必要になります。メイクをしてもすぐに崩れてしまうため、外出が億劫になることもあります。
- 対人関係: 顔汗が気になって相手の目を見て話せなくなったり、会話中に汗を拭く動作が頻繁になったりすることで、円滑なコミュニケーションを妨げることがあります。
- 視界の妨げ: 汗が目に入ると、一時的に視界がぼやけたり、しみて痛みを伴ったりすることもあります。
顔汗は、特に人前に出る職業や、初対面の人と会う機会が多い場合に、精神的な負担が大きくなる傾向があります。
その他の部位
多汗症は、上記以外にも様々な部位で発生する可能性があります。
- 足の裏(足底多汗症):
- 特徴: 靴下や靴が汗で湿りやすく、蒸れやすくなります。これにより、水虫や足の臭いの原因となることがあります。
- 影響: 靴が滑りやすくなり、転倒のリスクがあるほか、革靴などの素材を傷める原因にもなります。
- 頭部(頭部多汗症):
- 特徴: 頭皮や髪の毛が汗で湿り、髪型が崩れたり、べたついたりします。
- 影響: 髪のスタイリングがしにくくなり、見た目の印象に影響を与えることがあります。また、頭皮の湿潤状態が続くことで、皮膚炎やフケの原因となることもあります。
- 全身性多汗症:
- 特定の部位だけでなく、全身から大量の汗をかく状態です。これは続発性多汗症の場合に多く見られますが、中には原因不明の全身性多汗症もあります。
- 影響: 全身の汗で衣服が湿り、不快感や冷えを感じやすくなります。脱水症状や電解質異常のリスクも考慮する必要があります。
多汗症は単なる発汗量の問題だけでなく、各部位の特性に応じて、皮膚トラブルや心理的なストレス、社会生活への影響など、多岐にわたる問題を引き起こす可能性があることを理解することが重要です。
多汗症の改善・治療法
多汗症の治療は、汗の量を減らすだけでなく、それによって引き起こされる生活の質の低下を改善し、患者さんの精神的負担を軽減することを目的とします。治療法は多岐にわたり、セルフケアから専門的な医療介入まで、個人の症状の重さやライフスタイルに合わせて選択されます。
多汗症のセルフケア・日常生活での対策
多汗症の症状を和らげ、快適に過ごすためには、日々の生活の中でのセルフケアが非常に重要です。医療機関での治療と並行して行うことで、より効果的な改善が期待できます。
食生活の見直し(止汗効果のある食べ物・飲み物)
食生活は体質や発汗量に影響を与える可能性があります。特定の食品を意識的に摂取したり、避けたりすることで、発汗をコントロールしやすくなることがあります。
止汗効果が期待される食べ物・飲み物:
汗腺の活動を落ち着かせたり、体内のバランスを整えたりする効果が期待される食品です。
- カリウムが豊富な食品: カリウムは体内の余分なナトリウムを排出し、水分バランスを整える働きがあります。汗を大量にかくことで失われやすいミネラルでもあります。
- 具体例: バナナ、アボカド、ほうれん草、海藻類、じゃがいも、きのこ類など。
- ポリフェノールを含む食品: ポリフェノールは抗酸化作用が高く、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。特に緑茶に含まれるカテキンは、一時的な制汗作用も報告されています。
- 具体例: 緑茶、紅茶、ココア、そば、ベリー類、ぶどう、赤ワイン(適量)など。
- ビタミンB群を含む食品: ストレス緩和や神経機能のサポートに関与し、自律神経の乱れを整える可能性があります。
- 具体例: 豚肉、レバー、大豆製品、玄米、牛乳、卵など。
- マグネシウムを含む食品: マグネシウムは神経伝達物質の調節に関わり、リラックス効果をもたらすことで、精神的な緊張による発汗を抑える手助けになる可能性があります。
- 具体例: アーモンド、カシューナッツ、わかめ、昆布、豆腐、玄米など。
- 冷性食品: 東洋医学の観点では、体を冷やす効果があるとされる食品もあります。
- 具体例: きゅうり、なす、トマト、冬瓜、梨、スイカなど。これらは利尿作用もあり、体内の熱を排出する手助けをすると考えられます。
発汗を促進する可能性のある食べ物・飲み物(避けるべき、または摂取を控えるべきもの):
これらは発汗を促す作用があるため、多汗症の方は摂取を控えめにするか、避けることが推奨されます。
- 辛い食べ物: 唐辛子に含まれるカプサイシンは、発汗を促す作用があります。刺激が強い食べ物は交感神経を刺激し、汗腺を活性化させやすいです。
- カフェイン: コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、中枢神経を刺激し、交感神経を活性化させます。これにより、発汗が促されることがあります。
- アルコール: アルコールは血管を拡張させ、体温を上昇させます。体が熱を放出しようとして、発汗量が増加する傾向があります。特に寝る前の飲酒は、寝汗の原因にもなりやすいです。
- 熱い食べ物・飲み物: スープや鍋物、熱いお茶などは、体温を一時的に上昇させるため、体が熱を冷まそうとして汗をかきやすくなります。
- 過剰な糖分: 血糖値の急激な上昇は、自律神経の乱れにつながることが指摘されています。精製された砂糖を多く含む食品や清涼飲料水の摂りすぎには注意が必要です。
これらの情報は一般的な傾向であり、個人の体質や多汗症の原因によって効果は異なります。すべての人に当てはまるわけではないため、ご自身の体調をよく観察しながら、試していくことが大切です。また、極端な食事制限は栄養バランスを崩す可能性があるため、バランスの取れた食事を基本とし、心配な場合は栄養士や医師に相談しましょう。
生活習慣の改善
日常生活の習慣を見直すことも、多汗症の症状を軽減するために有効な手段です。
- 適切な衣服選び:
- 素材: 吸湿性・速乾性に優れた素材(綿、麻、機能性ポリエステルなど)を選びましょう。汗を素早く吸収し、乾かすことで、肌のべたつきや冷え、臭いを防ぎます。
- 通気性: ゆったりとしたデザインや、通気性の良い素材の服を選ぶことで、汗がこもるのを防ぎます。重ね着を避ける、あるいは着脱しやすい服装を心がけましょう。
- 色: 汗染みが目立ちにくい白や黒、柄物を選ぶのも一つの方法です。
- 入浴・シャワー:
- ぬるめの湯(38~40℃程度)にゆっくり浸かることで、リラックス効果を高め、自律神経のバランスを整えることができます。熱すぎるお湯は交感神経を刺激し、入浴後の発汗を促すことがあります。
- シャワーを浴びて体を清潔に保つことで、汗による皮膚トラブルや臭いを防ぎます。特に汗をかきやすい部位は丁寧に洗いましょう。
- ストレス管理とリラックス法:
- ストレスや不安は多汗症の大きな誘因となるため、ストレスを適切に管理することが重要です。
- リラックス法: 深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピーなど、ご自身に合ったリラックス法を見つけて、日々の生活に取り入れましょう。
- 趣味や気分転換: 好きなことに没頭する時間を作ったり、友人との交流を楽しんだりすることで、気分転換を図り、ストレスを軽減できます。
- 十分な睡眠: 睡眠不足は自律神経の乱れにつながります。規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を十分にとるようにしましょう。
- 適度な運動:
- 適度な運動はストレス解消になり、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。
- 汗をかくこと自体は健康的な生理現象ですが、多汗症の場合は運動中に大量の汗をかくことがストレスになることもあります。無理のない範囲で、体が慣れてきたら徐々に運動量を増やすようにしましょう。ウォーキングや軽いジョギングなどがおすすめです。
- 制汗剤の選び方と使用法:
- 制汗剤の種類: 市販の制汗剤には、汗を抑える成分(塩化アルミニウム、ACHなど)や殺菌成分、消臭成分が含まれています。
- 選び方: 症状の程度や肌質に合わせて、スプレー、ロールオン、クリーム、シートタイプなどから選びましょう。多汗症の方向けには、塩化アルミニウム高濃度配合のものがより効果的です。
- 使用法: 清潔で乾燥した肌に塗布することが重要です。特に夜寝る前に塗布すると、成分が汗腺に浸透しやすいため、効果が高まると言われています。朝シャワーを浴びても効果は持続することが多いです。
- 注意点: 肌に合わない場合は使用を中止し、皮膚科医に相談しましょう。
これらのセルフケアは、多汗症の症状を和らげるだけでなく、全体的な健康状態の改善にもつながります。
病院での多汗症治療法
多汗症の症状が重度で日常生活に大きな支障をきたしている場合や、セルフケアだけでは改善が見られない場合は、医療機関での専門的な治療を検討することが重要です。医師の診察と診断に基づき、症状や原因、部位、患者さんの希望に合わせて最適な治療法が選択されます。
皮膚科で受ける治療
多汗症の最初の受診先として最も一般的なのが皮膚科です。皮膚科では、診断から様々な治療法の提案、処方までを一貫して行います。
- 診断方法:
- 問診: 発汗の量、部位、症状が現れる状況、日常生活への影響、家族歴、既往歴などを詳しく聞き取ります。
- ヨードデンプン反応(マイナー法): 汗の量や範囲を目視で確認するための簡易的な検査です。ヨード液を塗布し、乾燥後デンプンを振りかけると、汗と反応して青紫色に変色します。変色の濃さや範囲で発汗状態を評価します。
- グラビメトリー法: 特定の時間内にろ紙で汗を吸収させ、その重さを量ることで発汗量を客観的に評価する方法です。より正確な発汗量を測定できます。
- 基礎疾患の確認: 続発性多汗症の可能性を考慮し、血液検査などを行って甲状腺機能亢進症や糖尿病などの基礎疾患がないかを確認することがあります。
- イオントフォレーシス:
- 対象: 主に手足の多汗症に用いられる治療法です。
- 方法: 水道水を入れた容器に手や足を浸し、微弱な直流電流を流すことで、汗腺の働きを一時的に抑制します。皮膚のバリア機能が変化し、汗腺からの汗の分泌が抑えられると考えられています。
- 効果: 1回20分程度の治療を週に数回行い、効果が見られれば徐々に頻度を減らしていきます。効果の持続には定期的な治療が必要です。
- 副作用: ピリピリとした刺激感、赤み、乾燥などが報告されていますが、重篤な副作用は稀です。ペースメーカーを使用している方や妊娠中の方などは受けられません。
- 外用薬(処方薬):
- 市販の制汗剤よりも高濃度の有効成分を含んでいます。
- 塩化アルミニウム製剤: 最も一般的に使用される外用薬で、汗腺の出口に栓をして汗の分泌を物理的に抑えます。夜寝る前に塗布し、翌朝洗い流すのが一般的です。効果が高く、手足や脇に広く用いられます。刺激感やかゆみが生じることがあります。
- 抗コリン薬含有外用薬: グリコピロニウム臭化物(エクロックゲルなど)が代表的です。汗腺に作用し、汗の分泌を抑えます。脇汗に特化した製品が多く、日本でも保険適用で処方されるようになりました。塗布部位以外に全身性の副作用が起こることは稀ですが、口渇などの全身症状が現れる可能性もゼロではありません。
皮膚科ではこれらの治療法を単独または組み合わせて行い、患者さんの症状に応じた最適な治療プランを提案します。
神経内科・神経外科・胸部外科の専門医
多汗症は自律神経の過活動が原因であるため、重症の場合や他の治療法で効果が見られない場合に、神経系へのアプローチを検討することがあります。
- 神経内科: 続発性多汗症の原因となる神経疾患(パーキンソン病など)が疑われる場合に受診します。多汗症そのものの治療というよりは、基礎疾患の診断と治療を通じて多汗症の改善を目指します。
- 神経外科・胸部外科: 重度の手掌多汗症や顔面多汗症に対して、外科的な治療法が検討されることがあります。
- 胸腔鏡下胸部交感神経切除術(ETS): 脇の下の小さな切開から内視鏡を挿入し、汗の分泌を促す交感神経の一部を切断またはクリップで挟む手術です。特に手汗に対して高い効果が期待できます。
- リスク: 最も注意すべき副作用は「代償性発汗」です。これは、切断した部位以外の、例えば背中やお腹、太ももなどに汗をかくようになる現象で、術後ほぼ全ての患者さんに発生します。代償性発汗の程度は予測が難しく、重度の場合には術前よりも生活の質が低下するケースもあるため、手術を検討する際にはこのリスクを十分に理解し、医師と慎重に相談する必要があります。また、術後に味覚性発汗(特定の食べ物を食べた時に顔や頭に汗をかく)やホルネル症候群(まぶたが下がる、瞳孔が小さくなるなど)が発生する可能性も稀にあります。
外科的治療は不可逆的な処置であり、メリットとデメリットを十分に考慮した上で、慎重に検討されるべき最終的な選択肢の一つです。
処方される薬の種類
病院で処方される薬は、市販薬よりも強力な作用を持つことが多く、医師の診断に基づいて適切に選択されます。
処方止汗剤(塩化アルミニウム)
- 作用機序: 塩化アルミニウムは、汗腺の出口部分にある角栓を形成し、汗の排出を物理的にブロックすることで発汗を抑制します。汗腺自体を破壊するわけではないため、効果は一時的であり、継続的な使用が必要です。
- 効果: 手のひら、足の裏、脇の下など、特に局所性多汗症に高い効果が期待できます。塗布した部位の発汗量が劇的に減少することが多いです。
- 使用上の注意:
- 通常、就寝前に乾燥した清潔な皮膚に塗布し、翌朝洗い流します。効果が出てきたら、塗布回数を減らしていくことができます。
- 刺激感、かゆみ、赤みなどの皮膚刺激が生じやすいのが欠点です。特に敏感肌の人は注意が必要です。刺激が強い場合は、塗布濃度を下げたり、塗布頻度を調整したりします。
- 傷や湿疹がある部位には使用できません。
- 保険適用: 日本では高濃度塩化アルミニウム製剤は保険適用外の自由診療となることが多いですが、医療機関によっては自家調剤で提供される場合もあります。
神経阻害薬(抗コリン薬)
- 作用機序: 抗コリン薬は、汗腺に汗の分泌を促すアセチルコリンという神経伝達物質の作用を阻害することで、発汗を抑制します。全身性の発汗を抑える効果が期待できます。
- 種類と効果:
- 内服薬: プロバンサイン(一般名:プロパンテリン臭化物)などが代表的です。全身性の多汗症や、広範囲に汗をかく場合に用いられます。効果発現には時間がかかりますが、持続的な効果が期待できます。
- 外用薬: グリコピロニウム臭化物(エクロックゲルなど)は、脇汗に特化した外用薬として近年注目されています。皮膚から吸収され、汗腺に直接作用することで、全身性の副作用を抑えつつ高い効果を発揮します。
- 副作用: アセチルコリンは汗腺以外にも様々な臓器に作用するため、内服薬では全身性の副作用が現れる可能性があります。
- 主な副作用: 口渇(唾液腺の抑制)、便秘(消化管運動の抑制)、排尿困難(膀胱の収縮抑制)、眠気やめまい、目の調節障害(散瞳、かすみ目)など。
- これらの副作用は薬の量に比例して現れることが多く、症状に応じて用量を調整する必要があります。
- 服用禁忌・注意: 緑内障や前立腺肥大症のある方、心臓病の方など、一部の疾患を持つ方には使用できません。必ず医師に既往歴や服用中の薬を伝える必要があります。
- 保険適用: エクロックゲル(外用薬)やプロバンサイン(内服薬)など、一部の抗コリン薬は多汗症治療として保険適用となっています。
抗うつ薬
- 作用機序: 多汗症、特に精神的な緊張や不安が強く関与している多汗症の場合、精神安定作用のある抗うつ薬(SSRIなど)が補助的に処方されることがあります。これらの薬は、セロトニンなどの神経伝達物質のバランスを整えることで、精神的なストレスを緩和し、間接的に発汗量を減らす効果が期待されます。
- 対象: 不安障害や社交不安障害を併発している多汗症患者さんに検討されることがあります。
- 効果と注意点: 発汗量を直接的に抑える薬ではないため、主な治療法とはなりませんが、精神的な側面からのアプローチとして有効な場合があります。副作用として、初期の吐き気、眠気、性機能障害などが報告されています。医師の指示に従い、慎重に服用する必要があります。
主要な多汗症治療薬の比較表
薬の種類 | 主な作用機序 | 主な適用部位 | 効果発現 | 副作用の傾向 | 保険適用 |
---|---|---|---|---|---|
塩化アルミニウム製剤(外用) | 汗腺の出口を物理的に閉塞 | 手、足、脇 | 短期 | 皮膚刺激(かゆみ、赤み) | 原則自由診療 |
抗コリン薬内服薬(プロバンサインなど) | アセチルコリン作用阻害(全身性) | 全身 | 中期 | 口渇、便秘、眠気、排尿困難 | あり |
抗コリン薬外用薬(エクロックゲルなど) | アセチルコリン作用阻害(局所性) | 脇 | 短期 | 口渇(稀)、適用部位の皮膚刺激 | あり |
ボトックス注射 | アセチルコリン放出抑制(局所性) | 脇、手、足、顔 | 短期(数ヶ月) | 疼痛、腫れ、筋力低下(手) | あり(一部) |
※上記は一般的な情報であり、個人の体質や症状によって効果や副作用は異なります。必ず医師と相談の上、ご自身に合った治療法を選択してください。
注射による治療
特定の部位に集中して汗をかく多汗症に対して、注射による治療も有効な選択肢です。
ボトックス注射
- 作用機序: ボツリヌス毒素を主成分とする製剤(ボトックス)を、汗をかく部位の皮膚の浅い層に注射します。ボツリヌス毒素は、汗腺を支配する神経末端からのアセチルコリンの放出を一時的に阻害することで、汗の分泌を強力に抑えます。神経自体を破壊するわけではないため、効果は永続的ではありません。
- 適用部位: 特に脇の下の多汗症(腋窩多汗症)に最も効果的で広く用いられています。手や足、顔面の多汗症にも適用されることがありますが、手足は注射時の痛みが強く、顔面は表情筋への影響に注意が必要です。
- 効果と持続期間: 注射後数日〜1週間程度で効果が現れ始め、一般的に4〜9ヶ月間持続します。効果が薄れてきたら、再度注射を打つことで効果を維持できます。定期的な治療が必要です。
- 費用: 自由診療となることが多く、部位や使用する製剤の種類、量によって費用は異なります。脇であれば両脇で数万円〜10数万円程度が目安となることが多いです。ただし、2020年より重度の原発性腋窩多汗症に対しては保険適用となりました。医師による診断基準を満たした場合に適用されます。
- 副作用:
- 注射時の痛みや腫れ、内出血。
- 脇への注射では重篤な副作用は稀ですが、注射部位周辺の一時的なだるさや、感染症のリスクはあります。
- 手足への注射の場合、指の筋肉に一時的な筋力低下が生じることが稀にあります。
- 顔面への注射では、表情筋に影響を与え、一時的に表情が不自然になるリスクがあります。これは、熟練した医師による正確な注射が非常に重要であることを意味します。
- 注意点: 妊娠中、授乳中の方、神経筋疾患のある方、特定の薬剤を服用している方はボトックス注射を受けることができません。必ず事前に医師に相談しましょう。
その他の治療法
外科手術以外にも、比較的新しい治療法や、美容クリニックで提供される治療法があります。
- マイクロ波治療(ミラドライなど):
- 対象: 主に腋窩多汗症やワキガの治療に用いられます。
- 方法: 皮膚表面からマイクロ波を照射し、汗腺(エクリン汗腺とアポクリン汗腺の両方)を熱で破壊します。皮膚を切開しない非侵襲的な治療法です。
- 効果: 汗腺を破壊するため、半永久的な効果が期待されます。
- 副作用: 施術部位の痛み、腫れ、内出血、感覚の異常(しびれ感)などが一時的に生じることがあります。
- 費用: 自由診療で、比較的高額になる傾向があります。
- レーザー治療:
- レーザーや高周波を用いて、汗腺に熱を加えて破壊する治療法です。ミラドライと同様に、ワキガと多汗症の両方に効果が期待されますが、効果の確実性はミラドライに劣るとされることもあります。
- 吸引法(クリーンビューティ法など):
- 皮膚を切開し、カニューレ(細い管)を挿入して、汗腺を吸引・除去する外科的な手法です。ワキガ手術の派生ですが、多汗症にも効果があります。
- リスク: 傷跡が残る可能性や、内出血、皮膚の引きつれなどのリスクがあります。
これらの治療法は、主に美容外科や形成外科で提供されており、費用も自由診療となるため、事前に十分な情報収集と医師との相談が不可欠です。
多汗症の中医(漢方)治療
西洋医学的な治療法に加えて、東洋医学の一分野である中医(漢方)治療も多汗症の改善に用いられることがあります。中医では、体を構成する「気(エネルギー)」「血(血液や栄養)」「水(体液)」のバランスが崩れることで病気が発症すると考え、患者さん個々の体質や症状に合わせて生薬を組み合わせた漢方薬を処方します。
中医における多汗症の基本的な考え方:
多汗症は、体の「陰陽」や「気血水」のバランスが乱れ、体内の熱がこもったり、体液の代謝が滞ったりすることで発生すると考えられます。特に以下の体質タイプに分けられることが多いです。
- 気虚(ききょ): 気(生命エネルギー)が不足している状態。気が不足すると、汗を適切に管理する機能が低下し、少し動いただけでも汗をかきやすくなります。疲れやすい、だるい、食欲不振などの症状を伴うことが多いです。
- 用いられる漢方薬の例: 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)など。これらは気を補い、体力をつけることで、汗腺の機能を整えることを目指します。
- 陰虚(いんきょ): 体の潤いや栄養が不足している状態(「陰」が不足)。体内の熱を冷ます「陰」が不足すると、相対的に「陽」(熱)が亢進し、ほてりや寝汗、口渇などの症状が現れやすくなります。
- 用いられる漢方薬の例: 知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)など。これらは体の潤いを補い、余分な熱を冷ますことで、発汗を抑える効果が期待されます。
- 湿熱(しつねつ): 体内に余分な水分(湿)と熱がこもっている状態。湿熱が皮膚に影響すると、べたつく汗をかきやすくなります。体のだるさ、むくみ、口の苦味などの症状を伴うことがあります。
- 用いられる漢方薬の例: 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、温清飲(うんせいいん)など。これらは体内の湿と熱を取り除くことで、発汗を正常化することを目指します。
- 心神不寧(しんしんふねい): 精神的なストレスや不安が原因で、心の状態が不安定になっている状態。自律神経の乱れからくる精神性発汗に強く関わります。
- 用いられる漢方薬の例: 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)など。これらは精神的な緊張を和らげ、自律神経のバランスを整えることで、過剰な発汗を抑える効果が期待されます。
漢方治療の注意点:
- 即効性: 漢方薬は一般的に即効性があるわけではなく、体質を根本から改善していくため、効果が現れるまでに時間がかかることがあります。数週間から数ヶ月の継続的な服用が必要です。
- 体質診断の重要性: 同じ多汗症でも、患者さんによって体質や症状の現れ方が異なるため、適切な漢方薬を選ぶには、専門家による詳細な体質診断が不可欠です。自己判断での服用は避け、必ず漢方医や薬剤師に相談しましょう。
- 副作用: 漢方薬にも副作用がないわけではありません。体質に合わない場合や、他の薬との飲み合わせによっては、胃腸の不調やアレルギー反応などが現れることがあります。
- 西洋医学との併用: 西洋医学の治療と併用することも可能です。その場合も、必ず両方の治療を担当する医師や薬剤師に相談し、適切な指導を受けることが重要です。
中医治療は、体質改善を通じて多汗症の根本的な原因にアプローチすることを目的とします。症状がなかなか改善しない方や、西洋薬の副作用が気になる方は、選択肢の一つとして検討してみる価値があるでしょう。
多汗症に関するよくある質問(FAQ)
多汗症について、多くの方が疑問に感じる点についてQ&A形式で解説します。
多汗症は病気ですか?
はい、多汗症は病気として認識されています。単に「汗っかき」という体質ではなく、日常生活に支障をきたすほど過剰な発汗がある場合に、病気として診断されます。特に、明確な原因がないにもかかわらず大量の汗をかく「原発性多汗症」は、病的な状態と考えられています。また、他の病気が原因で汗が増える「続発性多汗症」の場合は、その基礎疾患の治療が必要となります。
多汗症は、汗をかくこと自体による不快感だけでなく、汗染みによる衣服の制限、手汗による作業困難、臭いの懸念など、社会生活や精神的な負担を伴うことがあります。これらの理由から、医療機関で診断・治療の対象となる「疾患」と位置づけられています。症状に悩んでいる場合は、専門の医療機関を受診することをおすすめします。
多汗症の原因は何ですか?
多汗症の主な原因は、大きく分けて二つのタイプによって異なります。
- 原発性多汗症:
- これは特定の病気や薬剤が原因ではない多汗症です。最も一般的なのは、汗の分泌をコントロールする自律神経(交感神経)の過活動が考えられています。交感神経が過敏に反応し、体温調節の必要がない時でも過剰に汗腺を刺激してしまいます。
- また、遺伝的な要因も関与している可能性が指摘されており、家族内に多汗症の人がいる場合、発症リスクが高まる傾向があります。
- 精神的な緊張やストレスが発汗の引き金となることも多く、精神的な要因も症状を悪化させる一因となります。
- 続発性多汗症:
- これは、何らかの基礎疾患や薬剤の副作用として発汗量が増加する多汗症です。
- 基礎疾患の例: 甲状腺機能亢進症、糖尿病、更年期障害、感染症(結核など)、神経疾患(パーキンソン病など)、一部の腫瘍などが挙げられます。これらの病気は、体の代謝やホルモンバランス、神経系に影響を与え、全身性または局所的な発汗増加を引き起こします。
- 薬剤の例: 一部の抗うつ薬、降圧剤、血糖降下薬なども、副作用として発汗増加が見られることがあります。
多汗症の原因を特定するためには、問診や検査を通じて、基礎疾患の有無を確認することが重要です。
どの科を受診すればよいですか?
多汗症の症状に悩んでいる場合、最初に受診するべきは一般的に皮膚科です。
皮膚科では、多汗症の診断(発汗量や部位の確認、基礎疾患のスクリーニングなど)から、外用薬(塩化アルミニウム製剤、抗コリン薬外用薬)、イオントフォレーシス、ボトックス注射といった、多汗症に対する様々な治療法を提供しています。
ただし、以下のような場合は、他の専門科の受診も検討されることがあります。
- 全身性の多汗症で、他の症状(動悸、体重減少、だるさなど)を伴う場合: 続発性多汗症の可能性が高いため、内科(特に内分泌内科)を受診し、甲状腺機能亢進症や糖尿病などの基礎疾患がないかを確認する必要があります。
- 精神的な要因が非常に強く、心因性の多汗症が疑われる場合: 心療内科や精神科との連携も有効な場合があります。
- 重度の手掌多汗症などで、外科的治療(交感神経切除術)を検討する場合: 神経外科や胸部外科の専門医に相談することになります。ただし、外科的治療はリスクも伴うため、まずは皮膚科で他の治療法を試すのが一般的です。
まずは皮膚科を受診し、医師の指示に従って必要に応じて他の専門科へ紹介してもらうのがスムーズな流れです。
手汗を止める方法は?
手汗(手掌多汗症)は日常生活に大きな影響を与えるため、その対策は非常に重要です。以下に主な方法を挙げます。
- セルフケア:
- 制汗剤の使用: 市販の制汗剤(特に塩化アルミニウム配合のもの)を、就寝前に清潔で乾燥した手のひらに塗布します。
- こまめに汗を拭く: ハンカチやタオル、吸水性の高いシートなどでこまめに汗を拭き取ることで、不快感を軽減し、滑りを防ぎます。
- ストレス管理: 精神的な緊張が手汗を悪化させるため、リラックス法(深呼吸、瞑想など)を取り入れ、ストレスを軽減する工夫をします。
- 病院での治療(皮膚科):
- 外用薬(処方止汗剤): 高濃度の塩化アルミニウム製剤や、手汗に特化した抗コリン薬含有外用薬が処方されることがあります。市販品より強力な効果が期待できます。
- イオントフォレーシス: 水道水に浸した手(または足)に微弱な電流を流す治療法です。汗腺の働きを一時的に抑制し、多くの患者さんに効果が見られます。定期的な通院が必要ですが、副作用が少なく安全性が高いとされています。
- ボトックス注射: 手のひらにボツリヌス毒素を注射することで、汗腺からの汗の分泌を強力に抑えます。効果は数ヶ月持続しますが、注射時の痛みが強いことが欠点です。保険適用外となる場合が多いです。
- 内服薬(抗コリン薬): 全身性の発汗を抑える効果がありますが、口渇や便秘などの全身性の副作用が生じる可能性があります。
- 外科的治療(神経外科・胸部外科):
- 胸腔鏡下胸部交感神経切除術(ETS): 最終手段として検討される治療法です。手汗を支配する交感神経を切断またはクリップで挟む手術で、手汗に対しては非常に高い効果が見られます。しかし、代償性発汗(他の部位、特に背中やお腹などに大量の汗をかくようになる)という避けられない副作用のリスクがあるため、医師と十分に相談し、慎重に検討する必要があります。
これらの方法の中から、ご自身の症状の重さやライフスタイル、治療のリスク許容度に合わせて、医師と相談しながら最適な方法を選択することが重要です。
夏の多汗症対策に良い食べ物は?
夏の多汗症対策として、体をクールダウンさせたり、汗腺の活動を落ち着かせたりする効果が期待できる食べ物があります。
- 体を冷やす作用のある野菜や果物:
- きゅうり、なす、トマト: 夏野菜は水分が多く、体を冷やす作用があるとされています。利尿作用もあり、体内の余分な熱を排出する手助けをします。
- スイカ、メロン、梨: 水分とカリウムが豊富で、体を冷やし、熱中症対策にもなります。
- カリウムが豊富な食品:
- バナナ、アボカド、海藻類、じゃがいも: カリウムは体内の水分バランスを整え、余分なナトリウムの排出を促します。汗を大量にかくことで失われやすいため、積極的に補給したい栄養素です。
- カテキンを含む飲み物:
- 緑茶: 緑茶に含まれるカテキンには、一時的な制汗作用や体臭を抑える効果が報告されています。冷たい緑茶でリフレッシュするのも良いでしょう。
- ビタミンB群が豊富な食品:
- 豚肉、大豆製品、玄米: ビタミンB群はストレス緩和や神経機能のサポートに関わり、自律神経のバランスを整える手助けになる可能性があります。
- 体を温めすぎない食事:
- 香辛料や刺激の強い食べ物を控える: 唐辛子などの辛い食べ物は、発汗を促す作用があるため、多汗症の方は控えめにするのが良いでしょう。
- 熱すぎる飲み物や料理を避ける: 体温を上げることで、体が熱を放出しようとして汗をかきやすくなります。
一方で、カフェインやアルコール、過剰な糖分は発汗を促進する可能性があるため、摂取は控えめにするのが賢明です。
これらの食品はあくまで補助的なものであり、多汗症の根本的な治療になるわけではありません。バランスの取れた食事を基本とし、水分補給をこまめに行うことが重要です。症状が気になる場合は、医療機関で専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。
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免責事項
本記事で提供する情報は、多汗症に関する一般的な知識と治療法について解説したものであり、個々の症状に対する医学的診断や治療の代替となるものではありません。多汗症の症状には個人差があり、原因や治療法も多岐にわたるため、ご自身の症状に合わせた最適な対処法については、必ず専門の医師にご相談ください。本記事の情報を利用したことで生じた、いかなる結果についても、当方では一切の責任を負いかねます。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年東京大学医学部医学科卒業
- 2009年東京逓信病院勤務
- 2012年東京警察病院勤務
- 2012年東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年東京逓信病院勤務
- 2013年独立行政法人労働者健康安全機構横浜労災病院勤務
- 2015年国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務