乾燥する季節や肌トラブルで、「ヘパリン類似物質」という成分名を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
皮膚科で処方される保湿剤として有名ですが、最近では市販薬も増え、より身近な存在になっています。
しかし、その一方で「どんな効果があるの?」「副作用は?」「ヒルドイドとは何が違うの?」といった疑問も多く聞かれます。
この記事では、ヘパリン類似物質の基本的な知識から、具体的な効果、正しい使い方、副作用や注意点まで、専門的な情報をもとに分かりやすく徹底解説します。
ご自身のスキンケアに役立てるために、ぜひ参考にしてください。
ヘパリン類似物質の基礎知識
まずは、ヘパリン類似物質がどのような成分なのか、基本から見ていきましょう。
ヘパリン類似物質とは?その作用とメカニズム
ヘパリン類似物質は、もともと私たちの体内に存在する「ヘパリン」という物質に似せて作られた成分です。
その最大の特徴は、非常に高い保湿力にあります。
主に3つの作用によって、肌の健康をサポートします。
- 保湿作用: 角質層に水分をしっかり補給し、肌の水分保持能力を高めます。
これにより、肌のバリア機能を正常に整え、外部からの刺激や乾燥から肌を守ります。 - 血行促進作用: 皮膚の血流を改善する働きがあります。
血行が良くなることで、皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)が促され、肌細胞に栄養が行き渡りやすくなります。 - 抗炎症作用: 軽い炎症を鎮める効果も期待できます。
これらの作用が複合的に働くことで、乾燥による肌トラブルを改善に導きます。
ヘパリン類似物質の主な効果・効能
ヘパリン類似物質は、その優れた作用から様々な皮膚症状に用いられます。
乾燥肌・アトピー性皮膚炎への効果
ヘパリン類似物質の最も代表的な効果は、乾燥肌の改善です。
皮脂欠乏症や、かゆみを伴うアトピー性皮膚炎の保湿ケアとして、皮膚科で広く処方されています。
継続的に使用することで、肌の水分量を保ち、カサつきやかゆみを和らげる効果が期待できます。
血行促進作用とあかぎれ・しもやけへの効果
血行不良が原因で起こる、しもやけやあかぎれの改善にも有効です。
血行を促進することで、患部の治癒をサポートします。
ただし、すでに出血している傷口への使用は避ける必要があります。
傷跡やニキビ跡への応用
血行促進作用と保湿作用により、新陳代謝を促し、皮膚の再生を助けるため、ケロイドの予防や治療、傷跡、やけど跡、色素沈着が気になるニキビ跡のケアに応用されることがあります。
ただし、炎症を起こしている赤いニキビに直接塗ると、悪化させる可能性があるため注意が必要です。
ヘパリン類似物質の剤形と選び方
ヘパリン類似物質にはいくつかの剤形(タイプ)があり、それぞれ使用感が異なります。
また、医療用と市販薬でも違いがあります。
ローション・クリーム・油性クリームの種類と特徴
剤形は主に以下の3つに分けられます。
肌の状態や使用する部位、好みの使用感に合わせて選びましょう。
剤形 | 特徴 | おすすめの部位・肌質 |
---|---|---|
ローション | ・乳液状で伸びが良い ・さっぱりした使用感 ・広範囲に塗りやすい | ・頭皮、背中など毛の生えている部位 ・べたつきが苦手な方、夏場の使用 |
クリーム | ・ローションと油性クリームの中間 ・しっとり感と伸びの良さのバランスが良い | ・顔、手足など全身に使いやすい ・オールシーズン対応 |
油性クリーム | ・軟膏に近く、最も保湿力が高い ・保護膜を作る作用が強い ・ややべたつきがある | ・ひじ、ひざ、かかとなど特に乾燥が強い部位 ・水仕事が多い方、冬場の集中ケア |
医療用と市販薬の違いと選択のポイント
ヘパリン類似物質を含む製品には、医師の処方が必要な「医療用医薬品」と、ドラッグストアなどで購入できる「市販薬(第2類医薬品)」があります。
- 医療用医薬品: 医師が症状を診断した上で処方します。代表的なものに「ヒルドイド」があります。健康保険が適用されます。
- 市販薬: 自分の判断で購入できますが、保険適用外です。様々なメーカーから製品が出ており、ヘパリン類似物質以外の成分が配合されていることもあります。
【選択のポイント】
- アトピー性皮膚炎や重度の乾燥など、明確な皮膚疾患がある場合: まずは皮膚科を受診し、医師の診断のもと適切な医療用医薬品を処方してもらうのが基本です。
- 軽度の乾燥や日々の保湿ケアとして使いたい場合: 市販薬を手軽に試してみるのも良いでしょう。
ただし、使用して症状が悪化したり、改善が見られなかったりする場合は、医療機関を受診してください。
ヘパリン類似物質の正しい使用方法
効果を最大限に引き出すためには、正しく使うことが大切です。
顔への使用は可能?適切な塗布方法
ヘパリン類似物質は、顔への使用も可能です。
化粧水や美容液で肌を整えた後、乳液やクリームの代わりとして使えます。
【適切な塗布方法】
- 洗顔後、清潔な手で適量を取ります。
- おでこ、両頬、鼻、あごに点々と置きます。
- 肌を擦らないよう、指の腹でやさしく顔全体に伸ばします。
- 最後に手のひらで顔を包み込むようにして、ハンドプレスでなじませます。
注意点
目や口の周り、粘膜には塗らないように注意しましょう。万が一、目に入った場合はすぐに水で洗い流してください。
毎日使用できる?最適な塗るタイミングと回数
ヘパリン類似物質は、毎日継続して使用できます。
- 塗るタイミング: 最も効果的なのは、お風呂上がりや洗顔後など、肌が水分を含んで潤っているタイミングです。
肌が乾ききる前に塗ることで、水分を閉じ込め、保湿効果が高まります。 - 回数: 通常、1日1回〜数回、乾燥が気になる時に塗布します。
医療用医薬品の場合は、医師の指示に従ってください。
市販薬の場合は、製品の説明書に記載された使用方法を守りましょう。
ヘパリン類似物質の副作用と使用上の注意点
安全性の高い成分ですが、副作用や注意すべき点も理解しておきましょう。
ヘパリン類似物質に考えられる副作用
頻度は高くありませんが、以下のような副作用が報告されています。
- 皮膚炎、かゆみ
- 発疹、赤み(発赤)
- ピリピリとした刺激感
- 紫斑(青あざ)
これらの症状が出た場合は、すぐに使用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
ステロイド含有の有無と安全性について
「薬」と聞くとステロイドを心配する方もいますが、ヘパリン類似物質にはステロイド成分は一切含まれていません。
作用の仕方も全く異なるため、ステロイドの副作用を心配することなく、保湿目的で長期間使用することができます。
長期使用のリスクと対策
基本的に、医師の指示のもとで適切に使用する限り、長期使用による大きなリスクは報告されていません。
ただし、市販薬を自己判断で長期間使い続けるのは避けましょう。
症状が改善しない、または長引く場合は、背景に別の皮膚疾患が隠れている可能性もあります。
一度、専門医に相談することをおすすめします。
使用を避けるべきケース
以下のケースに該当する方は、ヘパリン類似物質を使用できません。
- 出血性血液疾患(血友病、血小板減少症、紫斑病など)のある方: 血行促進作用により、出血を助長する恐れがあります。
- わずかな出血でも重大な結果をきたすことが予想される方
- 使用部位に出血している傷や、ただれがある場合
ヘパリン類似物質とヒルドイドの違い
よく比較される「ヘパリン類似物質」と「ヒルドイド」の違いを整理します。
成分・効能・効果の比較
結論から言うと、「ヒルドイド」はヘパリン類似物質を主成分とする医療用医薬品の「商品名(先発医薬品)」です。
項目 | ヒルドイド(医療用) | ヘパリン類似物質配合の市販薬 |
---|---|---|
分類 | 医療用医薬品(先発品) | 第2類医薬品 |
主成分 | ヘパリン類似物質 | ヘパリン類似物質 |
入手方法 | 医師の処方箋が必要 | ドラッグストア等で購入可能 |
保険適用 | あり | なし(全額自己負担) |
特徴 | 医師の診断のもと使用。ジェネリック医薬品も多数存在する。 | 製品によって他の有効成分や添加物が異なる場合がある。 |
つまり、ヒルドイドの有効成分がヘパリン類似物質であり、効能・効果は基本的に同じです。
ジェネリック医薬品として「ヘパリン類似物質油性クリーム『〇〇』」といった名称の薬も多数あります。
あなたに合った選び方のガイドライン
- 医師の診断を受けて、治療として使いたい: 皮膚科を受診し、ヒルドイドやそのジェネリック医薬品を処方してもらう。
- 美容目的や、軽い乾燥のセルフケアとして使いたい: 市販のヘパリン類似物質配合薬を試す。
自分の目的や肌の状態に合わせて選択することが重要です。
ヘパリン類似物質に関するよくある質問
最後に、よく寄せられる質問にお答えします。
ヘパリン類似物質はニキビに効果がある?
ヘパリン類似物質は、ニキビの直接的な治療薬ではありません。
しかし、肌の乾燥が進むとバリア機能が低下し、ニキビができやすくなることがあります。
ヘパリン類似物質でしっかり保湿し、肌のバリア機能を整えることは、ニキビの「予防」に繋がる可能性があります。
ただし、炎症を起こして赤くなっているニキビや、化膿しているニキビへの使用は避けてください。
血行促進作用が炎症を悪化させる恐れがあります。
小児への使用は可能か?
はい、乳幼児や小児にも使用できます。
赤ちゃんの乾燥肌や乳児湿疹の保湿ケアとして、小児科や皮膚科で頻繁に処方される安全性の高い薬です。
ただし、大人と同様に、肌に合わない可能性もゼロではありません。
初めて使う場合は、念のため狭い範囲で試してから使用するとより安心です。
他のスキンケア製品との併用について
基本的には、普段お使いの化粧水や美容液などと併用して問題ありません。
使用する順番は、一般的に「水分の多いものから油分の多いものへ」とされています。
使用順の例:
洗顔 → 化粧水 → 美容液 → ヘパリン類似物質(ローションやクリーム) → (必要であれば)さらに油分の多いクリームや乳液
ただし、ピーリング作用のある化粧品や、他の医薬品を使用している場合は、相互作用の可能性も考えられます。
不安な場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。
皮膚の症状に関する診断・治療については、必ず専門の医療機関を受診してください。
市販薬を使用する際は、添付文書をよく読み、用法・用量を守って正しくご使用ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年東京大学医学部医学科卒業
- 2009年東京逓信病院勤務
- 2012年東京警察病院勤務
- 2012年東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年東京逓信病院勤務
- 2013年独立行政法人労働者健康安全機構横浜労災病院勤務
- 2015年国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務