はじめに
顔の赤みやニキビのようなブツブツに悩まされている方の中には、「酒さ様皮膚炎」という疾患が原因の場合があります。この病気は、長期間のステロイド外用薬の使用によって引き起こされる皮膚トラブルで、適切な治療を行えば改善が期待できる疾患です。
本記事では、酒さ様皮膚炎について、その症状から最新の治療法まで、専門医の視点から詳しく解説いたします。顔の赤みやブツブツでお悩みの方、ステロイド薬を長期使用されている方は、ぜひ参考にしてください。

酒さ様皮膚炎とは
定義と概要
酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を長期間使用することによって生じる皮膚炎の一種です。英語では「Steroid-induced rosacea」や「Perioral dermatitis」と呼ばれ、酒さ(しゅさ)という疾患と症状が似ていることからこの名前がついています。
この疾患は、主に顔面、特に口の周りや鼻の周辺に発症し、赤みや小さな丘疹(ブツブツ)、時には膿疱(膿を持った発疹)などの症状が現れます。酒さ様皮膚炎は、原因が明確であるため、適切な治療により改善が期待できる疾患として位置づけられています。
酒さとの違い
酒さ様皮膚炎は、症状が酒さと似ているものの、全く異なる疾患です。以下に主な違いをまとめます。
酒さ(赤ら顔)の特徴:
- 原因不明の慢性炎症性疾患
- 体質的な要因が大きい
- 中高年女性に多い
- 顔面中央部(鼻、頬、額、顎)に左右対称に現れる
- アルコール、香辛料、紫外線、ストレスなどで悪化
- 治療は対症療法が中心
酒さ様皮膚炎の特徴:
- ステロイドやタクロリムスが原因
- 原因が明確で、原因除去により改善可能
- 年齢性別問わず発症
- 主に口周り、鼻周りに現れる
- 薬剤中止によるリバウンド現象が特徴的
- 原因除去と症状に応じた治療で改善
症状について
主な症状
酒さ様皮膚炎の症状は多岐にわたり、以下のような特徴があります。
皮膚症状:
- 顔面の紅斑(赤み)
- 丘疹や膿疱(ニキビのようなブツブツ)
- 毛細血管拡張(細い血管が見える)
- 皮膚の乾燥や落屑(皮むけ)
- 皮膚の薄化(皮膚が薄くなる)
自覚症状:
- 皮膚のほてり感
- ピリピリとした刺激感
- かゆみ(軽度)
- 化粧品等による刺激に対する過敏性
症状の現れ方
酒さ様皮膚炎の症状は、一般的に以下のような特徴的な現れ方をします。
好発部位:
- 口周り(口囲皮膚炎とも呼ばれる)
- 鼻周り
- 頬部
- 眼の周り(眼囲皮膚炎)
- 顎部
特に口周りに集中して症状が現れる場合を「口囲皮膚炎」と呼ぶことがあります。また、症状の範囲は、ステロイド薬を使用していた範囲とほぼ一致することが多いのが特徴です。
症状の経過
酒さ様皮膚炎の症状には、特徴的な経過があります。
ステロイド使用中: 初期は一見改善しているように見えるが、次第に効果が減弱し、使用量や強度を上げる必要が生じる。
ステロイド中止後: 一時的な症状の悪化(リバウンド現象)が数週間から数ヶ月続く。この期間は患者さんにとって非常につらい時期となります。
回復期: 適切な治療により、徐々に症状が改善していく。一般的に、ステロイドを使用していた期間の2倍以上の時間がかかるとされています。
原因とメカニズム
主な原因薬剤
酒さ様皮膚炎の主な原因は以下の薬剤です。
ステロイド外用薬:
- 長期間の使用(通常1ヶ月以上)
- 不適切な使用(予防的使用、広範囲使用)
- 強いランクのステロイドの顔面使用
- 医師の指示に従わない使用
その他の薬剤:
- タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)
- 一部の保湿剤(化粧水含む)
- その他の免疫抑制外用薬
発症メカニズム
酒さ様皮膚炎の発症には、複数のメカニズムが関与しています。
皮膚バリア機能の破綻: 長期間のステロイド使用により、皮膚の細胞増殖が抑制され、皮膚が薄くなります。これにより皮膚のバリア機能が低下し、外界からの刺激に対して敏感になります。
血管への影響: ステロイドは脂溶性であるため、皮脂腺の多い顔面では吸収率が高くなります。これにより皮膚下の血管が拡張し、毛細血管拡張が生じます。
常在菌叢の変化: ステロイドの長期使用により、皮膚の常在菌バランスが崩れ、ニキビダニ(Demodex folliculorum)の過剰増殖が起こることがあります。
免疫系の変化: ステロイドによる免疫抑制作用が長期間続くことで、皮膚の免疫機能に異常をきたし、炎症反応が起こりやすくなります。
リバウンド現象
酒さ様皮膚炎で最も特徴的なのがリバウンド現象です。ステロイド外用薬を中止すると、一時的に症状が大幅に悪化することがあります。この現象は以下のような特徴があります。
- 中止後数日から数週間で症状が悪化
- 元の症状より重篤になることがある
- 数週間から数ヶ月持続する
- 患者さんの不安とステロイド依存を助長する要因となる
診断
診断の基準
酒さ様皮膚炎の診断は、主に以下の要素を総合的に判断して行います。
病歴の聴取:
- ステロイド外用薬の使用歴
- 使用期間、種類、範囲
- 症状の出現時期と経過
- 他の治療歴
臨床症状:
- 症状の分布と特徴
- 皮膚の状態(薄化、毛細血管拡張など)
- 自覚症状の有無
除外診断: 酒さ、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎など、類似疾患との鑑別を行います。
検査方法
皮膚生検: 診断が困難な場合、皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察することがあります。
ニキビダニ検査: 皮膚表面の検体を採取し、ニキビダニの数を調べることがあります。
パッチテスト: アレルギー性接触皮膚炎との鑑別のために行うことがあります。
鑑別診断
酒さ様皮膚炎と間違えやすい疾患には以下があります。
酒さ: 中年女性に多く、原因不明で体質的要因が強い。
脂漏性皮膚炎: 皮脂分泌の多い部位に現れ、フケのような鱗屑を伴う。
アトピー性皮膚炎: 幼少期からの湿疹の既往があり、顔以外にも症状がある。
接触皮膚炎: 特定の物質への接触により症状が現れる。
治療法
基本的な治療方針
酒さ様皮膚炎の治療は、以下の段階的なアプローチを取ります。
第1段階:原因の除去
- ステロイド外用薬の段階的中止
- タクロリムス軟膏の中止
- 不適切なスキンケアの見直し
第2段階:症状の改善
- 外用療法
- 内服療法
- レーザー治療(必要に応じて)
第3段階:再発予防
- 適切なスキンケア指導
- 生活習慣の改善
- 定期的なフォローアップ
保険診療での治療
外用療法:
ロゼックスゲル(メトロニダゾール0.75%) 2019年に酒さの治療薬として保険適用となった外用薬です。メトロニダゾールは抗菌作用と抗炎症作用を持ち、酒さ様皮膚炎の症状改善に効果的です。
使用方法:1日2回、洗顔後に患部に塗布 効果:約2週間で効果が現れ始める 副作用:軽度の刺激感、かぶれ
内服療法:
テトラサイクリン系抗生剤 ドキシサイクリンやミノサイクリンなどの抗生剤は、抗炎症作用により症状を改善します。
使用期間:通常2〜3ヶ月 副作用:胃腸障害、光線過敏症 注意事項:妊娠中・授乳中は使用不可
漢方薬 体質改善と症状緩和を目的として、以下の漢方薬が使用されることがあります。
- 清上防風湯
- 荊芥連翹湯
- 黄連解毒湯
自費診療での治療
保険診療で効果が不十分な場合、以下の自費診療が選択肢となります。
新しい外用薬:
イベルメクチンクリーム ニキビダニの減少に優れた効果を示し、多くの研究でロゼックスゲルよりも効果的であると報告されています。
使用方法:1日1回、入浴後に塗布 効果期間:約2週間で効果が現れ始める 費用:5,500円前後(30gチューブ)
アゼライン酸(AZAクリア) 小麦やライ麦に含まれる天然由来の酸で、以下の作用があります。
- 皮脂分泌抑制
- 角化抑制
- 抗菌活性
- 抗炎症作用
- メラニン産生抑制
妊娠・授乳中でも使用可能な安全性の高い治療薬です。
ミノサイクリン外用薬 抗生剤であるミノサイクリンを外用薬として調合したもので、炎症を抑える作用があります。
レーザー治療:
Vビーム(色素レーザー) 拡張した毛細血管に選択的に作用し、顔面の赤みを改善します。
- 治療回数:4〜6回程度
- 間隔:4〜6週間おき
- 費用:1回3〜5万円程度
IPL(光治療) 広域の光を照射し、赤みや毛細血管拡張を改善します。
治療の実際
ステロイド減量プログラム
急激なステロイド中止はリバウンド現象を引き起こすため、段階的な減量が重要です。
- 減量期(2〜4週間):
- ステロイドの強度を段階的に下げる
- 使用回数を減らす(1日2回→1回→隔日)
- 離脱期(4〜8週間):
- ステロイドを完全に中止
- リバウンド症状への対処
- 症状悪化時の不安軽減とサポート
- 回復期(数ヶ月〜1年):
- 酒さ治療薬による症状改善
- 皮膚バリア機能の回復
- スキンケア指導
治療期間の目安
酒さ様皮膚炎の治療期間は、ステロイドを使用していた期間の2倍以上かかることが一般的です。例えば、1年間ステロイドを使用していた場合、完全な回復まで2年以上を要することがあります。
患者さんには治療の長期化について事前に説明し、途中で治療を諦めないよう心理的サポートも重要です。
日常生活での注意点
スキンケアの見直し
酒さ様皮膚炎の治療において、適切なスキンケアは薬物療法と同じく重要です。
推奨されるスキンケア:
洗顔
- 低刺激性の洗顔料を使用
- ぬるま湯で優しく洗う
- 1日2回まで
- タオルで擦らず、軽く押さえるように水分を取る
保湿 近年の研究では、酒さ様皮膚炎に対する過剰な保湿が症状を悪化させる可能性が指摘されています。特に化粧水の使用については慎重な判断が必要です。
- 必要最小限の保湿
- 低刺激性保湿剤の選択
- 症状に応じて「肌断食」を検討
日焼け止め
- SPF30以上の物理的日焼け止めを使用
- 化学的日焼け止めは刺激となる可能性があるため注意
避けるべきスキンケア:
- アルコール系化粧品
- 香料・着色料入り化粧品
- スクラブ洗顔
- 過度のマッサージ
- 熱いお湯での洗顔
生活習慣の改善
食事面での注意:
- 辛い食べ物の摂取を控える
- アルコールの摂取を制限する
- 熱い飲み物の摂取を控える
- カフェインの摂取を控える
環境面での配慮:
- 急激な温度変化を避ける
- 直射日光を避ける
- 冷暖房の風を直接顔に当てない
- 湿度の管理(40〜60%程度)
ストレス管理:
- 十分な睡眠時間の確保
- 適度な運動(激しい運動は避ける)
- リラクゼーション法の実践
- 規則正しい生活リズム
化粧について
酒さ様皮膚炎の方にとって化粧は難しい問題ですが、以下の点に注意することで可能です。
推奨される化粧法:
- 症状のない部位のみの化粧
- ミネラルファンデーションの使用
- パウダータイプのファンデーション
- 低刺激性化粧品の選択
避けるべき化粧法:
- 症状部位への厚化粧
- リキッドファンデーションの重ね塗り
- 強力なクレンジング剤の使用
- 長時間の化粧

よくある質問
酒さ様皮膚炎は原因が明確な疾患であるため、適切な治療により完治が期待できます。ただし、治療には時間がかかり、患者さんの根気と医師との協力が不可欠です。ステロイドを使用していた期間が長いほど、治療期間も長くなる傾向があります。
ステロイド外用薬を急に中止すると、強いリバウンド現象が起こる可能性があります。医師の指導のもと、段階的に減量することが重要です。自己判断での急な中止は症状の悪化を招く恐れがあるため、必ず医師に相談してください。
Q3: 治療中に症状が悪化したらどうすればよいですか?
治療初期の症状悪化は、リバウンド現象として予想される反応です。ただし、以下の場合は速やかに医師に相談してください。
- 発熱を伴う場合
- 膿疱が急激に増加した場合
- 強い痛みを伴う場合
- 眼の症状が現れた場合
Q4: 酒さ様皮膚炎になりやすい人はいますか?
以下のような方は酒さ様皮膚炎のリスクが高いとされています。
- アトピー性皮膚炎の既往がある方
- 敏感肌の方
- 女性(特に中年期)
- ステロイドを長期使用している方
- 酒さの家族歴がある方
Q5: 保湿は必要ですか?
酒さ様皮膚炎における保湿については、近年議論が分かれています。従来は保湿が推奨されていましたが、最近の研究では過剰な保湿が症状を悪化させる可能性が指摘されています。特に化粧水の使用については慎重な判断が必要で、症状によっては「肌断食」が効果的な場合もあります。
Q6: 再発の可能性はありますか?
酒さ様皮膚炎が完治した後も、以下の場合に再発する可能性があります。
- 再度ステロイド外用薬を長期使用した場合
- 不適切なスキンケアを行った場合
- 強い刺激を与えた場合
再発予防のためには、適切なスキンケアの継続と定期的な医師のフォローアップが重要です。
最新の治療動向
新しい治療薬の登場
イベルメクチンクリーム: 2024年現在、多くのクリニックで個人輸入により処方されている治療薬です。ニキビダニの減少に優れた効果を示し、ロゼックスゲルよりも効果的であるという研究結果が多数報告されています。
ミノサイクリン外用薬: 従来の内服薬であるミノサイクリンを外用薬として調合したもので、局所的な抗炎症効果が期待されています。
治療ガイドラインの更新
2023年に改訂された酒さ治療ガイドラインでは、従来推奨されていた一部の治療法が見直されました。特に、プロトピック軟膏などのタクロリムス系薬剤は、長期使用により酒さ様皮膚炎を引き起こす可能性があることから、推奨しないとされています。
日本人特有の治療アプローチ
欧米の教科書では「ステロイドを中止すれば速やかに改善する」とされていますが、日本人の酒さ様皮膚炎患者では異なる経過を示すことが多く、以下のような日本人特有のアプローチが重要とされています。
- より慎重なステロイド減量
- 保湿剤の見直し(場合によっては中止)
- 肌断食の積極的な活用
- 長期間のフォローアップ
予防について
ステロイド外用薬の適正使用
酒さ様皮膚炎の最も効果的な予防法は、ステロイド外用薬の適正使用です。
適正使用のポイント:
- 医師の指示通りの使用
- 必要最小限の期間での使用
- 適切な強度の選択
- 症状改善後の速やかな中止
- 予防的使用の回避
顔面使用時の注意:
- 弱いランクのステロイドを選択
- 短期間での使用に留める
- 広範囲への塗布を避ける
- 定期的な医師のチェック
早期発見・早期治療
酒さ様皮膚炎の症状が現れた場合、早期の診断と治療開始が重要です。以下のような症状が現れた場合は、速やかに皮膚科を受診してください。
受診の目安:
- ステロイド使用部位の持続的な赤み
- ニキビのような丘疹の出現
- 皮膚の薄化や毛細血管拡張
- ステロイドの効果減弱
- 刺激に対する過敏性の増加
患者さんへのアドバイス
治療に対する心構え
酒さ様皮膚炎の治療は長期間を要するため、以下の心構えが重要です。
治療への理解:
- 治療期間の長さを理解する
- リバウンド現象は治療過程の一部
- 症状の波があることを受け入れる
- 完治への信念を持つ
医師との連携:
- 定期的な受診を心がける
- 症状の変化を詳しく報告する
- 治療への疑問や不安を相談する
- 自己判断での治療変更を避ける
セルフケアのポイント
日記の記録: 症状の変化、使用薬剤、生活習慣などを記録することで、悪化要因の特定や治療効果の判定に役立ちます。
写真記録: 症状の変化を客観的に評価するため、定期的に患部の写真を撮影することをお勧めします。
サポート体制: 家族や友人に病気について理解してもらい、治療への協力を得ることが重要です。
研究と将来展望
新しい治療法の開発
酒さ様皮膚炎の治療法は日々進歩しており、以下のような新しいアプローチが研究されています。
新規外用薬:
- より効果的な抗炎症薬
- ニキビダニに対する新しい薬剤
- 皮膚バリア機能改善薬
物理的治療法:
- 新世代レーザー治療
- 光線力学療法
- 冷却療法
病態解明の進歩
酒さ様皮膚炎の病態についても、以下のような研究が進んでいます。
分子レベルでの解析:
- 炎症メディエーターの同定
- 皮膚バリア機能の詳細な解析
- 常在菌叢の変化の解明
遺伝的要因の研究:
- 感受性遺伝子の特定
- 個人差の要因解明
- 個別化治療への応用
治療費用について
保険診療費用
初診料: 約3,000円(3割負担) 再診料: 約1,000円(3割負担) ロゼックスゲル: 約320円/本(3割負担) 内服薬: 約500〜1,000円/月(3割負担)
自費診療費用
イベルメクチンクリーム: 5,500円(30g) アゼライン酸: 3,000〜4,000円(30g) Vビームレーザー: 30,000〜50,000円/回 IPL治療: 15,000〜25,000円/回
※費用は目安であり、症状や治療内容により変動します。
合併症と注意点
可能性のある合併症
眼症状: 酒さ様皮膚炎が進行すると、以下のような眼症状を伴うことがあります。
- 眼瞼炎
- 結膜炎
- 角膜炎
- ドライアイ
これらの症状が現れた場合は、眼科との連携治療が必要となります。
心理的影響: 顔面の症状により、以下のような心理的影響が生じることがあります。
- 社会活動への支障
- 自己肯定感の低下
- うつ症状
- 人間関係への影響
長期的な注意点
皮膚の変化: 長期間症状が続いた場合、以下のような皮膚の変化が残ることがあります。
- 毛細血管拡張の残存
- 色素沈着
- 皮膚の質感の変化
再発リスク: 完治後も以下の要因により再発する可能性があります。
- 不適切なスキンケア
- ステロイドの再使用
- 強い刺激への暴露
まとめ
酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬の長期使用によって引き起こされる皮膚炎で、適切な診断と治療により改善が期待できる疾患です。治療の基本は原因薬剤の段階的中止と症状に応じた薬物療法ですが、近年は個々の患者さんに応じたより細やかなアプローチが重要視されています。
特に日本人患者では、欧米のガイドラインとは異なるアプローチが必要な場合が多く、保湿の見直しや肌断食の活用など、従来とは異なる治療戦略も注目されています。
治療には時間がかかりますが、医師との連携と適切なセルフケアにより、多くの患者さんが満足できる改善を得ています。顔面の赤みやブツブツでお悩みの方、ステロイド薬を長期使用されている方は、一度専門医にご相談いただくことをお勧めいたします。
参考文献
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- Steinhoff M, Schauber J, Leyden JJ. New insights into rosacea pathophysiology: a review of recent findings. J Am Acad Dermatol. 2013;69(6 Suppl 1):S15-26.
- 田辺三菱製薬株式会社. ロゼックスゲル0.75%添付文書. 2019.
- Weiss E, Katta R. Diet and rosacea: the role of dietary change in the management of rosacea. Dermatol Pract Concept. 2017;7(4):31-37.
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- Schaller M, Almeida LM, Bewley A, et al. Rosacea treatment update: recommendations from the global ROSacea COnsensus (ROSCO) panel. Br J Dermatol. 2017;176(2):465-471.
- 川崎たにぐち皮膚科. 酒さ様皮膚炎の最新治療指針. 美容皮膚科学. 2024.
- van Zuuren EJ, Fedorowicz Z, Carter B, et al. Interventions for rosacea. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(4):CD003262.
- 野田阪神駅前いまい皮フ科. 日本人における酒さ様皮膚炎の治療戦略. 皮膚科の臨床. 2025.
図表
表1:酒さと酒さ様皮膚炎の比較
項目 | 酒さ | 酒さ様皮膚炎 |
---|---|---|
原因 | 不明(体質的要因) | ステロイド・タクロリムス |
好発年齢 | 中高年女性 | 年齢性別問わず |
好発部位 | 顔面中央部 | 口周り、鼻周り |
対称性 | 左右対称 | 薬剤使用範囲に一致 |
治療反応 | 対症療法 | 原因除去で改善可能 |
予後 | 慢性、再発性 | 完治可能 |
表2:ステロイド外用薬のランクと顔面使用の可否
ランク | 強さ | 代表的薬剤 | 顔面使用 |
---|---|---|---|
I群 | 最強 | クロベタゾール | × |
II群 | 非常に強い | フルオシノニド | × |
III群 | 強い | ベタメタゾン | △(短期のみ) |
IV群 | 中程度 | プレドニゾロン | ○(注意して) |
V群 | 弱い | ヒドロコルチゾン | ○ |
表3:酒さ様皮膚炎の治療薬一覧
分類 | 薬剤名 | 保険適用 | 主な作用 | 使用方法 |
---|---|---|---|---|
外用薬 | ロゼックスゲル | ○ | 抗菌・抗炎症 | 1日2回 |
外用薬 | イベルメクチン | × | ニキビダニ減少 | 1日1回 |
外用薬 | アゼライン酸 | × | 抗炎症・角化抑制 | 1日1〜2回 |
内服薬 | ドキシサイクリン | ○ | 抗炎症 | 1日1〜2回 |
内服薬 | ミノサイクリン | ○ | 抗炎症 | 1日1〜2回 |
図1:酒さ様皮膚炎の治療フローチャート
ステロイド長期使用歴 + 顔面症状
↓
診断確定
↓
ステロイド段階的減量
↓
リバウンド対応
↓
酒さ治療薬開始(ロゼックスゲル等)
↓
効果判定(2〜4週間後)
↓
効果不十分 → 自費治療薬検討
↓
レーザー治療検討
↓
症状改善
↓
治療継続・調整
↓
完治
図2:酒さ様皮膚炎の発症メカニズム
ステロイド長期使用
↓
皮膚バリア機能低下
↓
・皮膚薄化
・血管拡張
・常在菌バランス異常
↓
炎症反応
↓
酒さ様皮膚炎症状
終わりに
酒さ様皮膚炎は、適切な知識と治療により改善可能な疾患です。症状でお悩みの方は、一人で悩まず、専門医にご相談ください。早期の診断と適切な治療開始により、より良い治療成果が期待できます。
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務