はじめに
日常生活において、適度な発汗は体温調節という重要な生理機能を担っています。しかし、必要以上に汗をかいてしまう「多汗症」で悩んでいる方は、日本人の約5.8%、実に約700万人にも上るとされています。手のひらに汗をかいて書類が濡れてしまう、緊張すると脇汗が止まらない、足の汗でニオイが気になるなど、多汗症の症状は人それぞれですが、共通しているのは日常生活に大きな支障をきたすということです。
本記事では、多汗症の詳しいセルフチェック方法から、最新の治療選択肢まで、医学的根拠に基づいた包括的な情報をお届けします。「自分は多汗症なのだろうか?」「どの程度の症状であれば病院を受診すべきなのか?」「自力で改善する方法はあるのか?」といった疑問にお答えし、適切な対処法を見つけるお手伝いをいたします。

多汗症とは何か?基礎知識を深く理解する
多汗症の医学的定義
多汗症(hyperhidrosis)とは、体温調節に必要な量を明らかに超えた発汗が6ヶ月以上続く状態を指します。正常な発汗量は個人差がありますが、一般的に1日あたり約600~700mlとされています。多汗症の患者さんでは、この2~4倍、時には10倍もの発汗量になることがあります。
多汗症は単なる「汗っかき」とは根本的に異なります。通常の発汗は暑さや運動による体温上昇、緊張やストレスなどに対する自然な反応ですが、多汗症では明確な誘因がないにも関わらず、また涼しい環境下でも過剰な発汗が起こります。
発汗のメカニズムと多汗症の病態生理
人間の発汗は、主に交感神経系によってコントロールされています。視床下部にある体温調節中枢が体温上昇を感知すると、交感神経を通じて汗腺に指令が送られ、アセチルコリンという神経伝達物質が放出されて発汗が促進されます。
多汗症では、この神経伝達系に異常が生じていると考えられています。特に原発性多汗症では、交感神経の活動が過剰になったり、汗腺のアセチルコリンに対する感受性が亢進したりすることで、必要以上の発汗が起こります。
詳細なセルフチェック項目と評価方法
基本的なセルフチェック項目
多汗症の可能性を評価するための詳細なチェックリストをご紹介します。以下の項目について、「はい」「いいえ」で答えてください。
発汗の特徴に関するチェック
- 明らかな理由(暑さ、運動、発熱など)がないのに大量の汗をかく
- 手のひら、足の裏、脇の下、頭部・顔面のいずれかに局所的に大量の汗をかく
- 左右対称に発汗が起こる
- 週に1回以上、過剰な発汗のエピソードがある
- 睡眠中は発汗しない(日中のみの症状)
- 25歳未満で症状が始まった
- 家族に同様の症状を持つ人がいる
日常生活への影響に関するチェック
- 汗のために手に持ったものが滑り落ちることがある
- 汗で書類や本が濡れてしまうことがある
- パソコンのキーボードやマウスが汗で濡れる
- 握手を避けたくなることがある
- 汗のせいで服にシミができることがある
- 1日に何度も制汗剤を使う必要がある
- 汗のことを考えるだけでさらに汗が出る
- 汗のために人前に出ることを避けることがある
精神的・社会的影響に関するチェック
- 汗のことで恥ずかしい思いをしたことがある
- 汗のために自信を失うことがある
- 職業や学業に支障をきたすことがある
- 対人関係に影響が出ることがある
- 汗のことで気分が落ち込むことがある
チェック結果の評価
- 5項目以下該当:軽度の発汗増加。生活習慣の改善や市販の制汗剤で対処可能な場合が多い
- 6~10項目該当:軽度~中等度の多汗症の可能性。専門医への相談を検討
- 11~15項目該当:中等度~重度の多汗症の可能性。医療機関での診断・治療を推奨
- 16項目以上該当:重度の多汗症の可能性が高い。早期の専門治療が必要
多汗症の分類と特徴
原因による分類
原発性多汗症(Primary hyperhidrosis)
原発性多汗症は、明らかな基礎疾患がなく発症する多汗症で、全多汗症患者の約90%を占めます。以下の特徴があります:
- 幼少期から思春期にかけて発症することが多い
- 家族歴を持つ場合が約30-50%
- 局所的な発汗(手のひら、足の裏、脇の下、顔面など)
- 睡眠中は発汗しない
- ストレスや緊張で症状が悪化する
続発性多汗症(Secondary hyperhidrosis)
他の疾患や薬剤が原因となって生じる多汗症で、全身性の発汗が特徴的です。原因となる主な疾患・状態:
- 内分泌疾患:甲状腺機能亢進症、糖尿病、褐色細胞腫、更年期障害
- 感染症:結核、敗血症、マラリア
- 悪性腫瘍:リンパ腫、白血病
- 神経疾患:パーキンソン病、脊髄損傷
- 薬剤:抗うつ薬、解熱鎮痛薬、インスリン
- その他:肥満、アルコール依存症
発汗部位による分類
手掌多汗症(Palmar hyperhidrosis)
手のひらの過剰発汗で、最も患者数が多い型です。症状の特徴:
- 常時湿潤状態から滴るほどの発汗まで重症度は様々
- 紙が破れる、ペンが滑る、スマートフォンの操作に支障
- 握手や手をつなぐことへの心理的抵抗
- 職業選択への影響(楽器演奏、美容師、調理師など)
足蹠多汗症(Plantar hyperhidrosis)
足の裏の過剰発汗で、しばしば手掌多汗症と合併します。症状の特徴:
- 靴の中が常に湿潤状態
- 足のニオイの原因となりやすい
- 水虫などの皮膚感染症のリスク増加
- 靴や靴下の選択に制限
腋窩多汗症(Axillary hyperhidrosis)
脇の下の過剰発汗で、特に衣服への影響が大きい型です。症状の特徴:
- 衣服への汗ジミ
- 制汗剤の効果が限定的
- ニオイ(腋臭症)との合併
- 衣服の色や素材の制限
頭部・顔面多汗症(Craniofacial hyperhidrosis)
頭部や顔面の過剰発汗で、最も目立ちやすく心理的負担が大きい型です。症状の特徴:
- 額や頭皮からの大量発汗
- 髪型の制限
- 化粧崩れ
- 社会的な注目を集めやすい
HDSS(多汗症疾患重症度スケール)による詳細評価
HDSSの意義と使用方法
HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)は、多汗症の重症度を客観的に評価するための国際的な標準指標です。患者さんの主観的な症状の程度を4段階で評価し、治療方針の決定や治療効果の判定に広く使用されています。
HDSS評価基準の詳細
レベル1:発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 多少の発汗はあるものの、本人が気づかない程度
- 社会生活や職業活動に影響なし
- 制汗剤の使用も不要
- この段階では医学的治療は通常不要
レベル2:発汗はやや気になるが、日常生活に支障はない
- 自分では気になるが、他人には気づかれない程度
- 時々制汗剤を使用する程度
- 特定の状況(緊張時など)でのみ気になる
- 軽度の対症療法で十分対応可能
レベル3:発汗はかなり気になり、日常生活に時々支障がある
- 他人にも気づかれる可能性がある程度の発汗
- 日常的な制汗剤の使用が必要
- 仕事や学業に軽度の影響がある
- 服装や行動の選択に制限が生じ始める
- 積極的な治療を検討すべき段階
レベル4:発汗がひどく、日常生活に常に支障がある
- 明らかに異常と分かる程度の発汗
- 職業選択や社会活動に重大な制限
- 対人関係に深刻な影響
- 精神的苦痛が大きい
- 積極的な専門治療が必要
部位別重症度評価
多汗症は発汗部位によって重症度の判断基準が若干異なります。
手掌多汗症の重症度分類
- 軽度:手のひらが湿っている程度
- 中等度:水滴が形成される程度
- 重度:汗が滴り落ちる程度
腋窩多汗症の重症度分類
- 軽度:発汗はあるが衣服に汗ジミができない
- 中等度:衣服に汗ジミができるが、日常生活への支障は軽微
- 重度:大きな汗ジミができ、頻繁な着替えが必要
自力でできる多汗症対策の詳細ガイド
生活習慣の改善による対策
食事療法
食事内容は発汗量に大きく影響します。以下の点に注意しましょう:
発汗を促進する食品の制限
- 香辛料:唐辛子、胡椒、ワサビなど。カプサイシンが交感神経を刺激
- カフェイン:コーヒー、茶、エナジードリンク。1日200mg以下に制限
- アルコール:血管拡張により発汗促進。特に熱燗や温かい酒類
- 熱い飲み物・食べ物:体温上昇による反射的発汗
- 高脂肪食品:消化に多くのエネルギーを要し、体温上昇
発汗を抑制する食品の積極摂取
- 大豆製品:イソフラボンが自律神経を整える
- 緑黄色野菜:抗酸化作用により炎症を抑制
- 魚類:オメガ3脂肪酸が炎症反応を軽減
- ヨーグルト:腸内環境改善により自律神経が安定
運動療法
適度な運動は自律神経のバランスを整え、多汗症の改善に効果的です:
推奨される運動
- 有酸素運動:ウォーキング、水泳、サイクリング(週3-4回、30-45分)
- ヨガ・太極拳:自律神経調整とストレス軽減効果
- 筋力トレーニング:基礎代謝向上により体温調節機能改善
運動時の注意点
- 適度な強度を維持(最大心拍数の60-70%)
- 運動後の十分なクールダウン
- 水分補給の適切な管理
睡眠の質向上
質の良い睡眠は自律神経の安定に不可欠です:
- 就寝時間の規則化:毎日同じ時間に就寝・起床
- 寝室環境の最適化:温度18-22℃、湿度50-60%
- 就寝前のリラックス習慣:入浴、読書、軽いストレッチ
- 電子機器の使用制限:就寝2時間前からブルーライトを避ける
ストレス管理法
認知行動療法的アプローチ
多汗症は心理的要因が大きく関与するため、考え方の見直しが効果的です:
否定的思考パターンの修正
- 「みんなが私の汗を見ている」→「実際に気づいている人は少ない」
- 「汗をかくのは異常だ」→「汗は自然な生理現象である」
- 「完璧に汗を止めなければならない」→「多少の改善でも価値がある」
リラクゼーション技法
- 深呼吸法:4秒で吸って、8秒で吐く腹式呼吸
- 筋弛緩法:全身の筋肉を順次緊張・弛緩させる
- 瞑想・マインドフルネス:現在に意識を集中させる
物理的対策
衣類の選択
適切な衣類選択は症状軽減に大きく貢献します:
素材選択
- 天然繊維:綿、麻、シルクなどの吸湿性・通気性の良いもの
- 機能性繊維:吸汗速乾素材、抗菌防臭加工
- 避けるべき素材:ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維
デザイン・色選択
- ゆったりしたシルエット:空気の流れを良くする
- 汗ジミが目立たない色:白、黒、ネイビー、濃いグレー
- パターンや柄:汗ジミをカモフラージュ
制汗剤・デオドラントの効果的使用
市販品でも正しく使用すれば十分な効果が期待できます:
塩化アルミニウム系制汗剤
- 使用タイミング:就寝前の清潔で乾いた肌に塗布
- 使用量:薄く均一に塗布(過度の使用は皮膚刺激の原因)
- 効果発現:3-7日間の継続使用で効果が現れる
使用上の注意点
- 皮膚刺激が生じた場合は使用中止
- 剃毛直後の使用は避ける
- アルコール系は避け、無香料タイプを選択
医療機関での多汗症治療選択肢
外用療法(第一選択治療)
塩化アルミニウム外用薬
医療機関では20%塩化アルミニウム溶液が処方されます:
- 作用機序:汗管を物理的に閉塞し発汗を抑制
- 効果:80-90%の患者で症状改善
- 副作用:皮膚刺激、かゆみ、発疹(10-15%の患者)
- 使用法:夜間に塗布し、朝に洗い流す
その他の外用薬
- グリコピロニウム外用薬:抗コリン作用により発汗抑制
- ボツリヌス毒素外用薬:海外で開発中の新しい治療選択肢
内服療法
抗コリン薬
プロバンサイン(プロパンテリン)が代表薬です:
- 作用機序:アセチルコリンの作用を阻害し発汗を抑制
- 効果:70-80%の患者で症状改善
- 適応:全身性多汗症や局所治療が困難な場合
- 副作用:口渇、便秘、視調節障害、尿閉(高齢者で注意)
その他の内服薬
- ベータ遮断薬:緊張性発汗の軽減
- 抗不安薬:心理的要因が強い場合の補助療法
注射療法(ボツリヌス毒素治療)
治療概要
ボツリヌス毒素(ボトックス)注射は、中等度~重度の多汗症に対する効果的な治療法です:
- 作用機序:神経末端からのアセチルコリン放出を阻害
- 効果持続期間:約6-8ヶ月
- 治療間隔:年2回程度の治療が必要
- 効果:90%以上の患者で著明改善
治療手順
- 麻酔:表面麻酔クリーム塗布(30分間)
- マーキング:ヨード-デンプン反応試験で発汗範囲を確認
- 注射:1-2cm間隔で皮内に少量ずつ注射
- 治療時間:15-30分程度
適応と制限
- 良い適応:腋窩多汗症、手掌多汗症
- 保険適応:腋窩多汗症のみ(2012年より)
- 制限事項:妊娠・授乳中、神経筋疾患
手術療法
ETS(胸腔鏡下交感神経遮断術)
重症の手掌多汗症に対する根治的治療法です:
手術適応
- 保存的治療で効果不十分
- 日常生活に著しい支障
- 患者の強い治療希望
手術手技
- アプローチ:胸腔鏡下での低侵襲手術
- 手技:交感神経幹の切断または挟み込み
- 手術時間:両側で1-2時間
- 麻酔:全身麻酔
合併症と注意点
- 代償性発汗:80-90%で胸部・腹部・背部の発汗増加
- その他合併症:気胸、ホルネル症候群、神経痛
- 不可逆性:神経切断後の元通りへの回復は困難
その他の手術法
- 汗腺除去術:腋窝多汗症に対する局所手術
- 交感神経節ブロック:可逆的な神経ブロック
イオントフォレーシス
治療原理
微弱な電流を用いて薬剤を皮膚深部に浸透させる物理療法です:
- 作用機序:電流により汗管を一時的に閉塞
- 使用薬剤:水道水、塩化アルミニウム溶液
- 治療頻度:初期は週2-3回、維持期は週1回
- 効果:手掌・足蹠多汗症の70-80%で改善
治療手順
- 機器設定:電流強度15-20mA、15-20分間
- 電極配置:手掌または足蹠を水に浸した容器に入れる
- 段階的通電:徐々に電流を上げて適応レベルまで調整
- 治療終了:徐々に電流を下げて終了
多汗症が日常生活に与える影響と対処法
学業・職業への影響
学生生活での困りごと
多汗症は学生生活の様々な場面で支障をきたします:
具体的な問題
- 筆記用具:鉛筆が滑る、シャープペンシルが握れない
- 用紙類:テスト用紙が濡れる、ノートが汚れる
- 電子機器:タブレット、計算機の操作困難
- 楽器演奏:ピアノの鍵盤が滑る、管楽器が持てない
- 実験・実習:機器の操作に支障、安全性への懸念
対処法
- 文具の工夫:グリップ付きペン、吸汗性の高い筆記用具
- 環境調整:エアコンの活用、換気の改善
- 教師への相談:理解と配慮を求める
- 医療機関受診:早期の適切な治療
職業選択への影響
多汗症は職業選択や職場でのパフォーマンスに大きく影響します:
影響を受けやすい職業
- 接客業:握手、商品の受け渡しでの困難
- 美容師・理容師:道具の操作、顧客への配慮
- 医療従事者:手袋内の蒸れ、器具操作の困難
- 事務職:書類の汚損、キーボード・マウス操作
- 製造業:精密作業での支障、安全性への懸念
対人関係への影響
社会的困難
多汗症は対人関係において様々な困難を生じさせます:
具体的な困難
- 握手の回避:ビジネス場面、挨拶での躊躇
- 恋愛関係:手をつなぐ、身体的接触への不安
- 友人関係:活動制限、自信の低下
- 家族関係:理解不足による摩擦
心理的影響
- 社会不安:人前に出ることへの恐怖
- うつ状態:自己効力感の低下、絶望感
- 回避行動:社会的場面からの撤退
- 低い自己評価:自分を否定的に捉える
経済的負担
治療費用
多汗症治療にかかる費用は治療法により大きく異なります:
保険適用治療
- 診察料:初診3,000円、再診1,000円程度
- 外用薬:月1,000-2,000円程度
- 内服薬:月2,000-3,000円程度
- ボツリヌス毒素注射:1回30,000-50,000円(腋窩のみ保険適用)
保険適用外治療
- 手掌ボツリヌス毒素注射:1回50,000-100,000円
- イオントフォレーシス:機器購入30,000-100,000円
- ETS手術:300,000-500,000円
間接費用
- 制汗剤・デオドラント:月3,000-5,000円
- 衣類の頻繁な買い替え:年50,000-100,000円
- クリーニング代:月5,000-10,000円

多汗症の最新治療と研究動向
新しい治療選択肢
マイクロ波治療
皮下の汗腺を選択的に破壊する非侵襲的治療法です:
- 原理:マイクロ波エネルギーで汗腺を熱凝固
- 効果:80-90%の発汗減少が長期間持続
- 適応:腋窩多汗症
- 副作用:一時的な腫れ、しびれ
レーザー治療
レーザーを用いた汗腺破壊治療も開発されています:
- 種類:1064nmYAGレーザー、ダイオードレーザー
- 効果:70-80%の症状改善
- 利点:ダウンタイムが短い
- 欠点:複数回の治療が必要
薬物療法の進歩
新規外用薬
グリコピロニウム外用薬(グリコピロール):
- 2018年FDA承認:原発性腋窩多汗症に適応
- 作用:選択的M3受容体拮抗薬
- 効果:プラセボと比較して有意な改善
- 日本での承認:現在申請中
経皮薬物送達システム
薬剤の皮膚浸透を改善する新技術:
- ナノ粒子製剤:薬剤の深達性向上
- 電気的促進法:イオントフォレーシスの改良
- 化学的促進剤:皮膚透過性向上
遺伝子研究の進展
多汗症の遺伝的背景
最近の研究で多汗症の遺伝的要因が明らかになっています:
- 家族集積性:一親等内での発症リスクは一般人口の5-10倍
- 遺伝形式:常染色体顕性遺伝の可能性
- 候補遺伝子:14q11.2-q13領域の遺伝子異常
個別化医療への展望
遺伝子解析に基づく治療選択:
- 薬剤感受性の予測:個人の遺伝的背景に基づく最適治療選択
- 副作用リスクの評価:事前のリスク層別化
- 治療効果の予測:遺伝的マーカーによる治療反応性予測
よくある質問(FAQ)
A: はい、多汗症には遺伝的要素があります。家族歴を持つ患者さんは全体の30-50%に上り、特に原発性局所多汗症では遺伝的素因が強く関与していると考えられています。ただし、遺伝だけでなく環境要因も発症に影響するため、家族に多汗症の人がいても必ず発症するわけではありません。
Q2: 子どもの多汗症はどう対処すればよいですか?
A: 小児の多汗症は成人と同様の治療が可能ですが、以下の点に注意が必要です:
- 診断の慎重さ:成長期の生理的変化との区別
- 治療選択:安全性を最優先し、まず外用薬から開始
- 心理的サポート:学校生活への影響を最小限に抑制
- 家族の理解:保護者の適切な理解と支援
内服薬は体重に応じた減量が必要で、手術療法は原則として18歳以降に検討します。
Q3: 多汗症治療中に注意すべき点はありますか?
A: 治療中は以下の点にご注意ください:
外用療法時
- 皮膚刺激が生じた場合は一時中断
- 傷がある部位への使用は避ける
- 目や粘膜への接触を避ける
内服療法時
- 定期的な副作用チェック
- 他剤との相互作用の確認
- 運転や機械操作時の注意
注射療法時
- 治療直後の激しい運動を避ける
- アレルギー反応の観察
- 効果判定まで2週間程度必要
Q4: 多汗症は完治しますか?
A: 多汗症の「完治」は治療法により異なります:
保存的治療(外用薬・内服薬)
- 使用中は症状コントロール可能
- 治療中止により症状再発
- 長期安全性は確立
注射療法
- 6-8ヶ月間の症状軽減
- 繰り返し治療が必要
- 効果の個人差あり
手術療法
- 最も根治的な治療
- 不可逆的な効果
- 代償性発汗のリスク
現在のところ、副作用なく完全に「治す」治療法はありませんが、適切な治療により日常生活に支障のないレベルまで症状をコントロールすることは可能です。
Q5: 多汗症治療は保険適用されますか?
A: 治療法により保険適用の範囲が異なります:
保険適用治療
- 診察・検査
- 外用薬(塩化アルミニウムなど)
- 内服薬(抗コリン薬など)
- 腋窩多汗症に対するボツリヌス毒素注射
- ETS手術
保険適用外治療
- 手掌・足蹠へのボツリヌス毒素注射
- マイクロ波治療
- 一部のレーザー治療
- 美容目的の治療
保険適用の詳細は医療機関にお問い合わせください。
まとめ
多汗症は決して珍しい疾患ではなく、適切な理解と治療により改善可能な病気です。本記事でご紹介したセルフチェックリストやHDSS評価を参考に、まずは自分の症状の程度を客観的に把握することから始めましょう。
軽度の症状であれば、生活習慣の改善や市販の制汗剤で十分改善する場合があります。しかし、日常生活に支障をきたすレベルの症状がある場合は、恥ずかしがらずに医療機関を受診することをお勧めします。
現在では、外用薬から注射療法、手術まで多様な治療選択肢があり、患者さんの症状の程度や生活スタイルに応じて最適な治療法を選択できます。一人で悩まず、専門医と相談しながら自分に最適な治療法を見つけることが大切です。
多汗症は治療可能な疾患です。適切な治療により、汗のことを気にせず充実した日常生活を送ることができるようになります。まずは一歩を踏み出すことから始めてみてください。
本記事は医学的情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務