
目次
- はじめに
- 多汗症とは?汗っかきとの違い
- 多汗症の種類と分類
- 多汗症の診断基準とセルフチェック
- 多汗症の重症度評価
- 多汗症は何科で診てもらえる?
- 上野エリアで多汗症の相談をするなら
- 多汗症の保険適用治療
- 外用薬による治療
- 内服薬による治療
- ボトックス注射による治療
- イオントフォレーシス療法
- 手術療法
- 日常生活でできる多汗症対策
- 多汗症と向き合うために
- まとめ
- 参考文献
はじめに
「手のひらの汗でスマートフォンがうまく操作できない」「脇汗のシミが気になって好きな服が着られない」「人と握手することに抵抗がある」——こうした悩みを抱えている方は少なくありません。汗をかきやすい体質だと思い込み、長年一人で悩み続けている方も多いのではないでしょうか。
実は、日常生活に支障をきたすほどの過剰な発汗は「多汗症」という治療可能な疾患である可能性があります。日本人における多汗症の有病率は約5〜10%と推定されており、手のひらの多汗症だけでも約5.3%の方が該当するといわれています。つまり、およそ20人に1人は多汗症の症状を抱えているのです。
しかしながら、多汗症で医療機関を受診した経験のある方はそのうちの1割以下にとどまるというデータもあり、多くの方が「体質だから仕方ない」と諦めているのが現状です。近年では保険適用の治療薬も登場し、多汗症に対する治療の選択肢は大きく広がっています。
本記事では、上野エリアにお住まいの方や通勤・通学されている方に向けて、多汗症の症状や原因、診断基準から、受診すべき診療科、そして最新の治療法まで詳しく解説いたします。多汗症でお悩みの方が適切な治療につながるきっかけとなれば幸いです。
多汗症とは?汗っかきとの違い
多汗症とは、体温調節に必要な範囲を超えて、異常に大量の汗が分泌される状態を指します。暑いときや運動したときに汗をかくのは自然な生理反応ですが、多汗症の場合は気温が低いときやリラックスしているときでも、本人の意志とは関係なく大量の汗が出続けてしまいます。
単なる「汗っかき」と多汗症には明確な違いがあります。汗っかきは体質的に汗をかきやすい傾向を指し、生活に大きな支障をきたすことは少ないのが一般的です。一方、多汗症は日常生活や社会生活に支障をきたすほどの発汗があり、精神的なストレスの原因にもなります。
厚生労働省の研究班による調査では、多汗症患者の労働生産性は健康な人と比較して約48%低下するという報告もあります。また、多汗症が原因で希望の職業を諦めた経験のある方が6.6%いるというデータもあり、この疾患が人生の選択にまで影響を及ぼすことがうかがえます。
多汗症の原因となるのは「エクリン腺」という汗腺から分泌される汗です。エクリン腺は全身に分布しており、交感神経の働きによってコントロールされています。多汗症の方では、この交感神経の調節機能が何らかの原因で過敏になり、必要以上に汗腺を刺激してしまうと考えられています。
なお、腋臭症(ワキガ)は「アポクリン腺」から分泌される汗が原因であり、多汗症とは異なる疾患です。ただし、多汗症とワキガを併発している方も少なくないため、両方の症状にお悩みの場合は医師に相談することをおすすめします。
多汗症の種類と分類
多汗症は、汗が出る範囲と原因によって分類されます。適切な治療を受けるためには、ご自身がどのタイプに該当するかを理解することが重要です。
発汗部位による分類
多汗症は発汗部位によって「全身性多汗症」と「局所性多汗症」に分けられます。
全身性多汗症は、体全体から過剰に汗が出る状態です。頭部から足先まで広範囲にわたって発汗が見られ、原因として内分泌疾患や感染症、薬剤の副作用などが関係している場合があります。
局所性多汗症は、体の特定の部位に限定して過剰な発汗が見られる状態です。主に以下の部位に症状が現れます。
手掌多汗症は、手のひらに大量の汗をかく症状です。軽症の場合は物を持つときに一時的に発汗が増える程度ですが、重症になると汗が滴り落ちるほどになり、書類が濡れて破れてしまったり、パソコンのキーボード操作に支障が出たりすることがあります。
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)は、脇の下に過剰な汗をかく症状です。日本人の局所多汗症患者のうち約半数がこの腋窩多汗症に悩んでいるといわれています。衣服の汗ジミや黄ばみの原因となり、好きな色の服が着られないなど日常生活への影響が大きい症状です。
足蹠多汗症(そくせきたかんしょう)は、足の裏に大量の汗をかく症状です。靴の中が蒸れやすく、足の臭いや水虫の原因になることもあります。
頭部・顔面多汗症は、頭や顔から流れ落ちるほどの汗が出る症状です。数分で発汗が治まることがほとんどですが、数時間続く場合もあります。人前での発表や会議など緊張する場面で症状が強くなることが多く、精神的な負担も大きい症状です。
原因による分類
原因の有無によって「原発性多汗症」と「続発性多汗症」に分けられます。
原発性多汗症は、特定の原因疾患がなく発症する多汗症です。思春期前後に発症することが多く、遺伝的な要因も関与していると考えられています。家族に多汗症の方がいる場合は発症リスクが高まることが知られています。
続発性多汗症は、他の疾患や薬剤が原因で起こる多汗症です。原因として、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)、糖尿病、更年期障害、褐色細胞腫、パーキンソン病などの神経疾患、向精神薬や睡眠導入薬などの薬剤副作用などが挙げられます。続発性多汗症の場合は、原因となる疾患の治療が優先されます。
多汗症の診断基準とセルフチェック
多汗症かどうかを判断するために、日本皮膚科学会が策定した診断基準があります。ご自身の症状が当てはまるかどうか、セルフチェックしてみましょう。
原発性局所多汗症の診断基準
以下の条件を満たす場合、原発性局所多汗症と診断されます。
「明らかな原因がないにもかかわらず、局所的に過剰な発汗が6か月以上続いている」という前提条件に加えて、次の6つの項目のうち2つ以上に該当することが求められます。
第一の項目は、最初に症状が現れたのが25歳以下であることです。原発性多汗症は若年期に発症することが多く、この年齢での発症は原発性を示唆する重要な所見となります。
第二の項目は、左右対称性に発汗がみられることです。手のひらなら両手、脇なら両脇というように、左右対称に症状が現れるのが原発性多汗症の特徴です。
第三の項目は、睡眠中は発汗が止まっていることです。原発性多汗症では、眠っている間は発汗が停止するという特徴があります。
第四の項目は、1週間に1回以上、多汗のエピソードがあることです。頻繁に症状が現れることが診断の要件となります。
第五の項目は、家族歴があることです。両親や兄弟姉妹に同様の症状がある場合、原発性多汗症の可能性が高まります。
第六の項目は、多汗によって日常生活に支障をきたしていることです。これは単なる不快感ではなく、仕事や学業、対人関係に具体的な影響が出ているかどうかを評価します。
これらの項目に2つ以上該当する方は、原発性局所多汗症の可能性があります。一度医療機関を受診して、専門医による診断を受けることをおすすめします。
多汗症の重症度評価
多汗症の治療方針を決める際には、重症度の評価が重要です。主に使用されるのが「HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)」という評価尺度です。
HDSSスコア1は、発汗が全く気にならず、日常生活に全く支障がない状態を指します。
HDSSスコア2は、発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある状態です。軽度の多汗症に該当します。
HDSSスコア3は、発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある状態です。中等度から重度の多汗症と判断されます。
HDSSスコア4は、発汗が全く我慢できず、日常生活に常に支障がある状態です。重度の多汗症に該当し、積極的な治療介入が必要とされます。
一般的に、HDSSスコアが3以上の場合は重症と判断され、ボトックス注射などの保険適用治療の対象となることがあります。
多汗症は何科で診てもらえる?
多汗症の治療を受けたいと思っても、「何科を受診すればよいのかわからない」という方は多いのではないでしょうか。ここでは、多汗症の診療を行っている診療科について解説します。
皮膚科
多汗症の診療において中心的な役割を担うのが皮膚科です。汗は皮膚にある汗腺から分泌されるため、皮膚の専門家である皮膚科医が診断と治療において最も適した存在といえます。
皮膚科では、問診や視診を通じて多汗症の診断を行い、症状の部位や重症度に応じた治療法を提案してもらえます。外用薬、内服薬、ボトックス注射など、保険適用の治療から自費診療まで幅広い選択肢の中から、患者さんに合った治療を選択することができます。
また、多汗症に似た症状を呈する他の皮膚疾患との鑑別も皮膚科医の専門分野です。何科を受診するか迷った場合は、まず皮膚科を受診することをおすすめします。
形成外科
形成外科でも多汗症の治療を行っている施設があります。特に、ボトックス注射や外科的治療(ミラドライなど)を希望される場合は、形成外科での相談が適している場合もあります。
内科・内分泌内科
全身性多汗症の場合や、甲状腺疾患や糖尿病などの内科的疾患が疑われる場合は、内科や内分泌内科での精密検査が必要になることがあります。皮膚科で診察を受けた後に、必要に応じて内科への紹介を受けることもあります。
心療内科・精神科
多汗症は精神的なストレスや緊張と関連することがあります。また、多汗症が原因で不安障害やうつ病を併発するケースも報告されています。心理的なサポートが必要な場合は、心療内科や精神科での相談も選択肢の一つです。
麻酔科(ペインクリニック)
一部の麻酔科やペインクリニックでは、多汗症に対するボトックス注射や神経ブロック療法を行っています。特に、重症の多汗症で他の治療法が効果不十分な場合に検討されることがあります。
上野エリアで多汗症の相談をするなら
上野は東京都台東区に位置し、JR山手線・京浜東北線・上野東京ラインをはじめ、東京メトロ日比谷線・銀座線、京成電鉄など多くの路線が乗り入れるターミナル駅です。埼玉県や千葉県、茨城県方面からのアクセスも良好で、北関東からも通いやすい立地といえます。
上野駅周辺には総合病院からクリニックまで、多くの医療機関が集まっています。多汗症でお悩みの方は、皮膚科を標榜している医療機関を探し、事前に多汗症の診療を行っているかどうかを確認してから受診されることをおすすめします。
アイシークリニック上野院では、多汗症をはじめとする皮膚のお悩みに対応しております。保険診療での治療も行っておりますので、多汗症の症状でお困りの方はお気軽にご相談ください。
上野駅は周辺に上野公園や美術館、博物館などの文化施設も多く、買い物や観光のついでに受診することも可能です。また、仕事帰りやお出かけの途中に立ち寄りやすい立地であることも、継続的な治療を続けるうえでの利点といえるでしょう。
多汗症の保険適用治療
かつては自費診療が中心だった多汗症治療ですが、近年は保険適用の治療薬が次々と登場し、経済的な負担を抑えながら治療を受けられるようになりました。ここでは、保険適用で受けられる主な治療法をご紹介します。
外用薬による治療
多汗症治療において、まず試みられることが多いのが外用薬(塗り薬)による治療です。自宅で手軽に使用でき、通院の負担も少ないことから、第一選択として推奨されています。
エクロックゲル5%(腋窩多汗症向け)
エクロックゲルは、2020年11月に発売された日本初の保険適用の原発性腋窩多汗症治療外用薬です。有効成分はソフピロニウム臭化物で、交感神経から伝えられる「汗を出す指令」をブロックすることで発汗を抑制します。
1日1回、両脇に塗布することで効果が期待でき、治療開始から約1〜2週間で効果を実感し始める方が多いとされています。臨床試験では、被験者の約80%が「発汗が抑えられた」と回答し、約60%が「日常生活に支障がなくなる程度まで改善した」と報告しています。
専用のアプリケーター(塗布具)が付属しており、薬液に直接手を触れずに塗布できる設計となっています。12歳以上の方から使用可能です。
副作用としては、塗布部位の皮膚炎やかゆみ、口の渇きなどが報告されていますが、全身に影響が及ぶ副作用の発生頻度は低いとされています。ただし、緑内障や前立腺肥大症のある方は使用できませんので、該当する方は医師に相談してください。
ラピフォートワイプ2.5%(腋窩多汗症向け)
ラピフォートワイプは、2022年5月に発売された原発性腋窩多汗症治療薬です。有効成分はグリコピロニウムトシル酸塩水和物で、エクロックゲルと同様に抗コリン作用によって発汗を抑制します。
不織布に薬液が浸透したワイプ(シート)タイプの製剤で、1日1回、シートで両脇を拭くようにして使用します。1回使い切りの個包装で、衛生的かつ持ち運びにも便利です。9歳以上の方から使用可能で、小中学生でも使用できるのが特徴です。
エクロックゲルと比較するとやや安価で、使いやすさの面でも好評を得ています。副作用はエクロックゲルと同様で、湿疹、接触皮膚炎、口の渇き、ドライアイなどが報告されています。
アポハイドローション20%(手掌多汗症向け)
アポハイドローションは、2023年6月に発売された日本初の保険適用の原発性手掌多汗症治療薬です。有効成分はオキシブチニン塩酸塩で、エクリン汗腺にあるムスカリン受容体に対して抗コリン作用を発揮し、発汗を抑制します。
1日1回、就寝前に両手のひらに塗布します。1本4.5mLで約1週間分の容量となっており、3割負担の場合の薬剤費は約700円程度です。12歳以上の方から使用可能です。
これまで手汗の治療は自費診療の塩化アルミニウム外用薬が中心でしたが、アポハイドローションの登場により、保険適用で手軽に治療を始められるようになりました。手汗でお悩みの方には朗報といえる治療薬です。
副作用としては、塗布部位の皮膚炎やかゆみ、湿疹、口の渇きなどが報告されています。また、重大な副作用として、まれに麻痺性イレウス(腸閉塞)や尿閉が起こる可能性がありますので、便秘や排尿困難などの症状が現れた場合は速やかに医師に相談してください。
塩化アルミニウム外用液(保険適用外)
塩化アルミニウム外用液は、日本皮膚科学会のガイドラインで多汗症治療の第一選択薬の一つとして推奨されている治療法です。塩化アルミニウムが汗を出す穴(エクリン汗腺)に作用して物理的に穴を塞ぐことで、発汗を抑制します。
手のひら、脇、足の裏、頭部、顔面など幅広い部位に使用できる汎用性の高さが特徴です。ただし、保険適用がなく自費診療となるほか、院内製剤として各医療機関で調製されるため、濃度や処方が施設によって異なることがあります。
また、皮膚への刺激やかぶれが起きやすいというデメリットもあるため、肌が弱い方は注意が必要です。
内服薬による治療
外用薬で効果が不十分な場合や、頭部・顔面など外用薬が使いにくい部位の多汗症には、内服薬(飲み薬)が検討されます。
プロ・バンサイン錠(プロパンテリン臭化物)
プロ・バンサイン錠は、多汗症に対して保険適用のある唯一の内服薬です。抗コリン作用によってアセチルコリンの働きを抑制し、全身の発汗を抑えます。
1日3〜4回、食前に服用するのが一般的です。全身に作用するため、頭部や顔面など外用薬が使いにくい部位の多汗症や、全身性多汗症にも効果が期待できます。
ただし、全身に作用するぶん、口の渇き、便秘、排尿困難、目のかすみ、動悸などの副作用が現れることがあります。また、緑内障、前立腺肥大症、重篤な心疾患のある方などは使用できません。
自動車の運転など危険を伴う機械の操作は避けるようにしてください。
漢方薬
多汗症に対して、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などの漢方薬が使用されることもあります。これらは保険適用で処方を受けることができ、西洋薬と比較して副作用が少ないのが特徴です。
ただし、効果の発現には時間がかかることが多く、即効性を求める方には向いていない場合があります。体質や症状に合わせて処方されるため、医師や薬剤師と相談しながら使用することが大切です。
ボトックス注射による治療
ボトックス(A型ボツリヌス毒素製剤)注射は、重度の原発性腋窩多汗症に対して保険適用が認められている治療法です。2012年11月より保険適用となり、多くの患者さんが経済的な負担を抑えながら治療を受けられるようになりました。
ボトックス注射の作用機序
ボトックスは、ボツリヌス菌が産生する毒素を医療用に精製した製剤です。神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害することで、汗腺への「汗を出す指令」を遮断し、発汗を抑えます。
ワキに注射することで、注射部位の発汗を効果的に抑制することができます。効果は注射後2〜3日で現れ始め、4〜9か月程度持続します。そのため、年に1〜2回程度の治療で汗を抑えることが可能です。
保険適用の条件
ボトックス注射の保険適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
まず、原発性腋窩多汗症の診断基準を満たしていることが前提です。そのうえで、HDSSスコアが3以上、すなわち「発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある」または「発汗が全く我慢できず、日常生活に常に支障がある」状態であることが求められます。
保険適用のボトックス注射は15歳以上の方が対象です。また、妊娠中または妊娠の可能性がある方、授乳中の方、重症筋無力症などの神経筋疾患がある方などは治療を受けることができません。
治療の流れと費用
保険適用のボトックス注射は、多くの場合2回の通院が必要です。1回目の受診で診察と同意書の記入を行い、2回目の受診で実際の施術を行います。
施術は両脇に数十か所、細い針で少量ずつボトックスを注入していきます。麻酔クリームや冷却を併用することで、痛みを最小限に抑えることができます。施術時間は15〜30分程度です。
保険適用(3割負担)の場合、両脇への注射で約2〜3万円程度の費用がかかります(医療機関によって異なります)。
副作用と注意点
国内臨床試験では、副作用の発生頻度は低く、安全性の高い治療法とされています。報告されている副作用としては、注射部位以外(首や背中など)の発汗増加、四肢の痛みなどがあります。
また、脇以外の部位(手のひらや足の裏など)へのボトックス注射は保険適用外となりますのでご注意ください。
イオントフォレーシス療法
イオントフォレーシスは、手のひらや足の裏の多汗症に対して有効な治療法です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、手掌多汗症や足蹠多汗症の第一選択治療として推奨されています。
治療の原理
水を入れた専用の容器に手や足を浸し、そこに微弱な電流を流す治療法です。電流によって発生する水素イオンが汗腺に作用し、発汗を抑制する効果があります。
痛みはほとんどなく、小学生でも安心して受けられる治療法です。
治療の流れ
治療開始当初は連日または隔日で施術を行い、効果が現れて発汗が減少してきたら週1〜2回程度の維持療法に移行します。1回の施術時間は20〜30分程度です。
効果の持続は2週間程度とされており、継続的に通院して治療を受ける必要があります。自宅で使用できる機器もありますが、医療機関での治療が推奨されます。
注意点
ペースメーカーを使用している方、妊娠中の方、手や足に傷がある方などは治療を受けられない場合があります。詳しくは担当医にご相談ください。
手術療法
外用薬、内服薬、ボトックス注射などの治療で効果が不十分な重症の多汗症に対しては、手術療法が検討されることがあります。
交感神経遮断術(ETS)
交感神経遮断術(内視鏡下胸部交感神経遮断術:ETS)は、胸部の交感神経節を切断または焼灼することで発汗を抑える手術です。手掌多汗症に対しては、ほぼ100%という高い有効率が報告されています。
手術は全身麻酔下で行われ、胸腔鏡を用いて小さな傷で行う低侵襲手術です。
ただし、この手術には「代償性発汗」という副作用のリスクがあります。代償性発汗とは、手術によって手のひらの汗が止まる代わりに、他の部位(背中、胸、腹部、太ももなど)から多量の汗が出るようになる現象です。
厚生労働省の研究班による調査では、重症度を問わなければ、手掌多汗症に対する手術後の代償性発汗発症率は約94.7%と非常に高く、重症の代償性発汗も約1.8%の方に発症するという報告があります。
手術を検討される場合は、メリットとデメリットを十分に理解したうえで、専門医とよく相談して決定することが重要です。
その他の外科的治療
腋窩多汗症に対しては、汗腺を直接除去する手術(剪除法)や、マイクロ波を照射して汗腺を破壊するミラドライという治療法もあります。これらは主に自費診療となりますが、半永久的な効果が期待できるというメリットがあります。
日常生活でできる多汗症対策
医療機関での治療と並行して、日常生活でもいくつかの対策を取り入れることで、症状の軽減や快適な生活につなげることができます。
食生活の見直し
辛いものや酸っぱいもの、カフェインを多く含む飲み物(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)は交感神経を刺激し、発汗を促進する可能性があります。症状が気になる方は、これらの摂取を控えめにすることを心がけましょう。
また、アルコールも発汗を促す作用がありますので、飲酒量にも注意が必要です。
生活習慣の改善
睡眠不足やストレスは自律神経のバランスを乱し、多汗症の症状を悪化させることがあります。十分な睡眠時間を確保し、適度な運動でストレスを発散させることが大切です。
禁煙も効果的です。喫煙は交感神経を刺激するため、多汗症の方には禁煙をおすすめします。
衣服の工夫
汗を吸収しやすい素材(綿、麻など)の衣服を選んだり、脇汗パッドを使用したりすることで、汗ジミを目立たなくすることができます。また、速乾性のあるインナーを着用することで、汗による不快感を軽減できます。
色の濃い服や模様のある服は汗ジミが目立ちにくいので、服選びの参考にしてください。
制汗剤の使用
市販の制汗剤を使用することで、一時的に発汗を抑えることができます。ただし、市販品の効果には限界がありますので、症状が重い方は医療機関での治療をおすすめします。
リラックス法の実践
緊張やストレスは発汗を促進する要因となります。深呼吸や瞑想、ストレッチなど、自分に合ったリラックス法を見つけて日常的に実践することで、精神的な緊張による発汗を軽減できる可能性があります。
多汗症と向き合うために
多汗症は目に見えにくい症状であるため、周囲の理解を得にくいことがあります。また、「汗くらいで病院に行くのは大げさだ」と感じて、受診をためらう方も少なくありません。
しかし、多汗症は生活の質(QOL)を大きく低下させる疾患です。日本皮膚科学会の調査によれば、多汗症患者の95.8%が日常生活に支障を感じ、91.5%が心理的な影響を受けていると報告しています。
多汗症は「体質」や「気の持ちよう」の問題ではなく、適切な治療によって症状を改善できる「疾患」です。一人で悩まず、まずは専門医に相談してみることをおすすめします。
不安障害やうつ病を併発している方も少なくありません。汗の悩みだけでなく、精神的なつらさを感じている場合は、そのこともあわせて医師に伝えてください。

まとめ
多汗症は、日常生活に支障をきたすほどの過剰な発汗を特徴とする疾患です。日本人における有病率は約5〜10%と推定されており、決して珍しい病気ではありません。
多汗症を疑う場合は、まず皮膚科を受診することをおすすめします。皮膚科では、問診や診察を通じて多汗症かどうかの診断を受けることができ、症状や重症度に応じた治療法を提案してもらえます。
近年は保険適用の治療薬が充実してきており、腋窩多汗症向けのエクロックゲルやラピフォートワイプ、手掌多汗症向けのアポハイドローション、重度の腋窩多汗症に対するボトックス注射など、さまざまな選択肢があります。これらの治療法は、経済的な負担を抑えながら継続できるのが大きなメリットです。
上野エリアにお住まいの方や通勤・通学されている方で、多汗症にお悩みの方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。アイシークリニック上野院でも、多汗症の診療を行っております。「体質だから仕方ない」と諦めず、適切な治療を受けることで、汗の悩みから解放された快適な毎日を取り戻しましょう。
参考文献
- 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版 – J-STAGE
- 汗の病気―多汗症と無汗症― Q&A – 日本皮膚科学会
- 特発性局所多汗症の疫学調査、脳血流シンチの解析による病態解析及び治療指針の確立 – 厚生労働科学研究成果データベース
- 難治性重症原発性局所多汗症の病態解析及び治療指針の確立 – 厚生労働科学研究成果データベース
- 原発性局所多汗症(神経皮膚疾患分野)- 難病情報センター
- 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015年改訂版 – Mindsガイドラインライブラリ
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務